1991年 ブラジル 〜ブラジル初優勝〜

心に残るブラジル・グランプリは、セナの誕生パーティから幕を開けていった。
8年目の挑戦。
母国ブラジルでの完全優勝。今年は出来るか?
3月24日 サンパウロは曇り空。 ポールポジションはセナ。
シグナルが変わる。レーススタート。
今にも泣き出しそうなサンパウロの空。

セナは12歳の時、ここで初めてF1を見た。
優勝はエマーソン・フィッティパルディだった。
それから19年。セナはブラジル一の有名人となった。
雨が降り、雨が落ちる。
スタンドは騒然。

セナは終盤、深刻なギアボックストラブルに陥った。
ギア・シフトが出来ず、6速だけで塗れ始めたコーナーを回っていたのだ。
地元で勝ちたい、勝つんだという一念で自らを奮い立たせゴールにこぎ着けた。
セナ、ついに母国で優勝。
それからのセナは、生まれたての赤ちゃんのように声を上げ泣いた。

これほどまでに思い詰めていたのか、セナ?
体を締め付け、腕が動かなくなるまで痙攣するまで戦った。
精魂尽き果て抜け殻のようになる。
マシンから降りることも出来なかった。
まさに全身全霊をかたむけた走りだった。

インテルラゴス全体が雷鳴のような人々の歓声に包まれている。
表彰式。
もはやF1を越えていた。
これは神の行事か?
セナ、ポディウムに立つ。
アマゾンの緑、太陽の黄色。愛すべきブラジル国旗を突き上げる。
本当に勝ちたかった。
でも今まで勝てなかったブラジル。
今、人生最大の目標を達成したかのようなセナ。
腕がしびれ、トロフィーが上がらない。

セナ:「今日のレースは僕にとって、信じられないようなことで、
    きっと生涯忘れられないレースになると思う。
    残り7周で諦めかけたけど、2〜3周になった時、行けると思った。
    いや、何が何でも優勝しなければ、今までの苦労は何だったんだと・・・
    神様は見捨てるはずはない、勝利を与えてくれるはずだと信じた。
    実際その通りになって、僕は今ものすごく感動しているよ。」


1991年 ハンガリー 〜本田宗一郎氏逝去〜

8月 本田宗一郎氏が84歳でこの世を去った。
本田氏のフィロソフィーがセナと共に夢を実現し、人々に夢を与え続けた。
「今度もいいエンジン造るよ」
その一言が、セナの思い出に残っている。
セナは思い詰めていた。
開幕4連勝から5連敗。
全てをパワーアップして臨みたい。これは本田宗一郎氏に捧げるグランプリ。

1コーナーはトップ。エンジンは勝った。
シャシー・バランスも向上した。
チーム全員が喪章をつけて臨んだハンガリーで、セナとマクラーレンは久々に勝利を飾るのであった。

セナのこの献身的な態度を見たフランク・ウィリアムズは、
「やはりセナはHONDAを愛している。」と確信。
ウィリアムズ・チームへ引っ張るのを延期したという。

1991年 日本 鈴鹿 〜3度目のワールドチャンピオン〜

キラキラと輝く海。潮騒の国、鈴鹿の海。

マンセルを封じ込める。それで自分のワールドチャンピオンが決まる。
青ランプ点灯。
ベルガー、トップ。
セナは、マンセルが取るであろうラインを先に先にとって、見事に封じ込めた。
そして、9周目が終わり、10周目に向かおうとしていた。
マンセルはセナに肉迫し、なんとか活路を見いだそうとした。
マンセルを従えて、セナ、10週目に入る。
91年のワールドチャンピオンを巡る攻防は、実にあっけない幕切れとなった。
1コーナー、マンセルがスピン。コースアウトしてリタイア。

司令塔のセナは、その後ベルガーに追いつきバックストレートでベルガーをパス。
二人には約束があった。
序盤にトップに立った者が勝ってよいという約束である。
ベルガー、約束が違うようだと首をひねる。

ファイナル・ラップに入った。
セナ、シケインをクリアする。
右手を挙げ、ベルガーに合図。
ベルガーを先に行かせた。
何という幕切れか。ベルガー優勝。
セナ、ワールドチャンピオン決定。
作、演出、出演。全てをセナが一人でやってのけた。
セナ、円熟の境地へ。

ブラジルの次に日本を愛したセナ。
そこで君は生涯3度のチャンピオンを獲り、我々に微笑みかけた。
若かった時は自分のためにがむしゃらに走った。
しかし、いつの日からかセナの走りは、地球に住む多くの人々のために存在した。
自ら感動し、人々に感動を与えたアイルトン・セナ。
その姿が忘れられない。

休暇 〜アングラードスレイスの海〜

ここはセナ専用といってもよいほど誰も来ない海。

セナ:「一度、一人でここに来たんだ。
    雲一つない良く晴れた日の夕方だった。
    ビーチは完璧なまでに綺麗だった。1つの足跡もなかった。
    ビーチの端まで戻ろうと思ったけど、この島全てが僕の為にあることに気が付いたんだ。
    他に誰もいなくてね。
    なぜか突然、心が静まって、とても穏やかな気分になったんだ。
    そして僕は柔らかくて走りにくい砂の上を1時間も走り続けたんだ。
    精神的に安らいで、体がよく動いたんだろうね。
    振り向くと、自分の足跡しか見えないというのは最高の気分だった。」

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