1992年 モナコ 〜マンセルとの歴史に残るバトル〜

92年。セナ、苦しい幕開け。
ウィリアムズが好調で、マンセル開幕5連勝。
マンセル、モナコでもポールポジション。

そして、ここモナコで、歴史に残る戦いが始まる!

残り8周。
セナに28秒の大差をつけて独走していたマンセルに、異変が起きた!
タイヤのエアー漏れを感じてピットイン。
事態は急変していく。
マンセル、12年のF1人生で一度もモナコを制していない。
今年こそ悲願のモナコ優勝! となるはずだった。
しかし、タイヤ交換に手間取り、戻ってみればセナが前。
ここから世紀の大デッドヒートが始まる!

    (残り3周)
三宅:「さぁ、ナイジェル・マンセルがアイルトン・セナの後ろに忍び寄ってきた。
    ナイジェルマンセルが来た。ナイジェルマンセルが来た。
    (今シーズン)これまで(マンセルの)目の前を走った車はありません。
    アイルトン・セナが、初めてこのナイジェルマンセルの前に躍り出ています。
    さぁ〜、ウィリアムズ・ルノーの前に初めてマクラーレン・ホンダが走っている。
    マクラーレン・ホンダ、何としてもここは押さえなきゃいけない。
    さぁ〜、マンセルが後ろについた」

今宮:「さぁ〜、入った!」
三宅:「マンセルが入った、マンセルが入った。
    ストレート、ホームストレート、ホームストレートを駆け抜けていく!
    ここは(セナが)押さえ込む、ここは押さえ込む」

今宮:「いやぁ〜、でも(マンセルの)加速がいい!」
三宅:「さぁ、そしてエルミタージュ・・・、あぁ〜、行くの行くのか!!」
今宮:「うわぁ〜、ここで抜かれちゃうのか!」
三宅:「押さえるセナ、押さえるセナ。76周目、凄いバトルだ!!
    凄いバトルです。これはモナコグランプリ、史上に残るバトルになるかもしれません。

今宮:「50回記念ですね!」
三宅:「素晴らしいレースになっている、メモリアルレース!
    この50回目のレースは凄いバトル!
    76周目、アイルトン・セナとナイジェルマンセルの凄いバトルです」


    (ローズ・ヘアピン)
三宅:「さぁ、マンセルが行く、マンセルが行く。
    1分21秒台という信じられないタイムを刻みながらナイジェルマンセルがセナの後ろ。
    しかし、セナは押さえる、セナは押さえます!」


    (トンネル)
三宅:「さぁ〜」
今宮:「きたっ!」
三宅:「さぁ、ここが問題だ、ここ問題だ。ここも抜きどころ!
    シケインの手前で大丈夫かセナ! さぁ、しかし押さえ込む。
    ここのスピードはHONDAは速いぞ!
    ここの最高スピードはHONDAの方が上回っています。
    マクラーレン・ホンダの方が上、ルノーよりも上です」


    (シケイン通過)
三宅:「さぁ、問題はこのあたり」
今宮:「あぁ、もう〜」
川井:「三宅さん、三宅さん、HONDAの方もですねぇ、ボタンを押せと言うような事、言っていますね」
三宅:「はい、ボタンを押せ?」
津川:「オーバーテイクですね」
川井:「オーバーテイクです。たぶん使え、使えって言ってるんですね」
三宅:「もう、あと、あと2周です。
    さ、しかし、後ろに来ている! また来ている! またマンセルが行く! ラスカスです!」

今宮:「あぁ、いや、でも・・・」
三宅:「これは、外から行く! もうマンセルがどっからでも行ける!」
今宮:「どっからでも行けますよ!」
三宅:「どのコーナーでも行く、どのコーナーでも行く! さぁ、ストレート!」

    (ホームストレート 残り2周)
三宅:「ここが問題だ、ここが問題だ。
    さぁ、77周目に入ります。77周目。あと2周です!あと2周です・
    さぁ〜ど〜か、ナイジェル・マンセルが後ろから、エルミタージュ、
    このパワーは、ここでのパワーはHONDAが上か!
    ルノーエンジンも追いかける、ルノーもモナコ勝ちたい!」

今宮:「今ぁ、ブルーフラッグが出ましたよね」
三宅:「そうですねぇ、しかし、しかしあと2周、セナは絶対譲りません! 譲るわけがない!
    さぁ、こっから下り坂、こっから下り坂。またブルーフラッグが降られている。


    (ローズヘアピン)
三宅:「完全にスピードでは、現在のスピード、フレッシュ・タイヤを履いたナイジェル・マンセルは、
    完全にセナよりもスピードは上。
    しかし、モナコでは抜かせません。
    アイルトン・セナ、目の前にあるこの勝利チャンスを、セナがみすみす逃すはずがありません」


    (トンネル入口のコーナ、トンネル出口の加速のためマンセル、コーナーをやや大回り)
三宅:「さぁ〜、トンネルの中に入っていった! さぁ、後ろに付いた! マンセル、マンセル」
今宮:「これぇ、勝負でしょう!」
三宅:「さぁ、どうか? シケインが待っているが、どうか?
    セナ押さえた、セナ押さえた、セナ押さえます!
    セナ、スライドしながら押さえていく!
    凄いレースです、凄いバトルです、凄いドッグファイトです」

今宮:「抜けないですねぇ」
三宅:「抜けません。抜かせません。
    レッド・ファイブが右に左に懸命にプレッシャーをかけますが、抜けない! 抜けない!
    セナが行く! セナが押さえる。
    さぁ、さぁ〜、ファイナルラップが近づいてくる! 最後のラップだ!
    ほとんどもう、ホイールとホイール、ホイールとウィングがくっつかんばかりに・・・、
    ナイジェル・マンセルがまた外から行く!
    ラスカス、ラスカスを抜けた、ラスカスを抜けた」


    (ファイナルラップ)
三宅:「これから78周目。これから78周目。
    凄いレースになりました。凄いレースになりました。
    さぁ〜、ファイナルラップ! 泣いても笑ってもこれが最後のラップ。
    78周目に入ります。78周目に入ります。
    さぁ、259.584km、この戦いの果てには一体何が待っているんでしょうか?
    アイルトン・セナと、そして、ナイジェル・マンセルとの差はこれだけ! たったこれだけ。
    信じられないような、凄いレースになりました。
    さぁ、駆け下りていくアイルトン・セナ。
    アイルトン・セナ、念願の今シーズン初勝利か?
    ナイジェル・マンセルの開幕6連勝も、そしてルノーエンジンの(モナコ)初勝利も、
    モナコでの悲願のマンセルの初勝利もここで消えてしまうんでしょうか?」


    (トンネル入口)
三宅:「さぁ〜」
今宮:「これは、接触しない限り抜けないですね」
三宅:「え〜、これはちょっと無理、無理のような感じがしますが」

    (トンネルを出て、シケインへ)
三宅:「さぁ、最後のチャンスだ、最後のチャンス、高速コース、どうか?」
    抜かせないセナ、セナ抜かせない!」

津川:「駄目だ、駄目だ」
今宮:「う〜ん、押さえちゃいましたね」
三宅:「ナイジェル・マンセル、勝利の勝利の灯火が、
    向こうでかすかに揺れて今にも消えそうです。
    さぁ、シケインを抜けていった、アイルトン・セナ、やはりモナコでは強いのか?
    4連覇目前、アイルトン・セナ、4連覇目前。
    あぁ、このモナコの4連覇というよりも、この勝利は、
    マクラーレン・ホンダにとっては、おぉきな、おぉきな意味があります!
    さぁ、これからラスカスに入る。
    ご覧の差。
    どんなにしても抜けない。ここはモナコ・モンテカルロ。絶対に抜けない。
    さぁ、ここをかわして、最後の直線、最後の直線。
    さぁ、しかし、こっからの立ち上がりはHONDAは速いぞ!こっからの立ち上がりHONDAは速い!
    後ろから、マンセル。マンセルどうか?
    さぁ、ゴールイぃぃ〜ン!
    アイルトン・セナ、逃げ切った! アイルトン・セナ、押さえきった!
    今シーズン初勝利、最後の最後、
    ギリギリいっぱいのところで、ギリギリいっぱいのところまで、
    このマクラーレン・ホンダのマシンは我慢しました。」


これぞモナコ。
すさまじいデッドヒート。
一瞬もひるむことなくセナもマンセルも全開で戦った。

セナはモナコ5勝目。
グラハム・ヒルの記録と並び、現代のモナコ・マイスターとなった。

マンセルも疲労困憊。やるだけやった。
戦って、競り合って、力を出し切った者が、シャンパンファイトの栄誉に浸ることが出来る。
マンセルも力を出し切って満足。セナを思いきり祝福した。

アクシデントについて

レーシングドライバーが背負うリスクは大きい。
しかし、命の尊さに勝るモノはない。
セナは事故に敏感に反応する。
92年のベルギーGP、フリー走行でエリック・コマスが大クラッシュ。
セナはマシンを止め、一目散に彼の元へ走っていった。
ドライバーの安全と命の大切さを最も強く認識しており、
人間として、とるべき道をとる男。
コマスは病院に運ばれたが、幸い軽い怪我ですんだ。

なぜ事故は発生したのか?
コースの形状はどうなっていたのか?
セナは科学的な検証をよくした。
それは自分のためというより、グランプリ全体のためであった。

90年、へレス。
スペインGP、予選1日目にマーチン・ドネリーの事故は起きた。
命は取り留めたものの意識不明。
モノコックがちぎれた。
極めて反応するセナ。
物事を正確に分析する科学的探求心もあるが、
それを上回る繊細で優しい人間性を持っていた。

セナ:「こういう事態に直面すると、自分の命、健康さの大切さ、
    自分がいかにもろいかを知らされる。
    たった1秒で、人生そのものが変わってしまうこともあるんだ」

レースは危険と隣り合わせのスポーツである。
かといって、自ら危険を作り出したり、その中に飛び込む人ではなかった。
セナは絶えず、命の大切さを訴えていた。

HONDA F1休止発表

92年9月10日、HONDA F1休止。
共に頂点を目指し、共に戦ってきた仲間との別れ。

セナ:「今年に入って、そういった話を耳にしたことはあった。
    撤退話が噂であることを願っていたが、そうせざるを得ない現状もわかっていた。
    HONDAのF1に対しての積極性と、築き上げてきた業績を考えれば、
    僕はHONDAの一員として、ドライブ出来たことを誇りに感じている。
    和光、栃木、東京のHONDA関係者の努力と業績に対して、心からお礼を言いたい。」

F1は人間のスポーツ。
HONDAの人々を思い、涙して去った。

1992年 日本 鈴鹿 〜HONDAでの鈴鹿ラストラン〜

ありがとう、HONDA。
ありがとう、日本。
セナはひととき、日本人になった。
6年間一緒に戦った、HONDAとのお別れ。

ふと振り返るとセナがいた。
そういうことが何度もあった。
スーパースターなのに、人知れず黙々とコース下見をしていく。
時々、はっと消えてしまいそうなセナを感じた。
古館一郎の言葉である。

セナとHONDAの最後のジョイント、最後の鈴鹿は、あっけなく終わっていく。
3周目、逆バンクを行くセナにパワーなし。
エスケープロードにマシンを乗り入れ、ここでストップ。
一体何が起きたのか?
HONDAのエンジニアも声なし。
それでも鈴鹿では、大勢のファンに向かって手を振る。

HONDAの鈴鹿ラストランは、ベルガーの2位で終わった。
いい事ばかりじゃない。
鈴鹿ではいろいろ学んだ。

セナ:「(日本語で)日本のファンのみなさん、僕を応援してくれてありがとう。
    鈴鹿では勝てなくてごめんなさい。いつまでも応援してください。
    I Love You All サヨナラ」

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