「いつかどこかで」  サンディ・オリセー 著

連載シリーズ 第3回目  99年10月5日

〜 「近代サッカーのシステム」について その2〜

フォア・リベロ



 前回も述べたが、理想はラインである。
 しかし、去年行われたW杯において、このシステムをはっきりと認識できる形で採用したチームは、オランダと南アフリカ(監督トルシェ)位で、その他の「多く」は古典的リベロシステムであった。「多く」と表現したのは、一部はその古典的なリベロシステムに若干近代的なアレンジを加えていたからである。今回は、その新しい「フォアリベロ」システムについて私なりの考えを述べたい。

 「フォアリベロ」システムは、その名の通りリベロを最終守備ラインの「前」に出した、スリーバックのアレンジ版で、従来までのシステムが「下に凸」のラインだとすれば、このシステムは「上に凸」のラインと言え、最近ではバイエルン・ミュンヘンが、このシステムを採用している。
 このシステムは、リベロの位置が従来の3バックから若干変更になっただけの様に感じ、「大きな差はない」と思われがちだが、実際にはその機能と形態は異なる。W杯でのその代表的な例は、意外なことにブラジルで、W杯前の日本の4バックもこの形にかなり近かった。
 こう書くと「ブラジルは伝統の4バックで、リベロなんていない」「日本の4バックで井原ってリベロだった?」と言われそうだが、表面上のシステム表現(4−4−2等)では、ノーリベロとなるが、試合上ではリベロとして動いた選手がいる(因みに最終予選時の井原はリベロではなくセンターバック)。

 ブラジルではドゥンガが、フォアリベロと言える。通常はC.サンパイオを含めた「ダブルボランチ」と言われがちだが、攻撃への参加回数は圧倒的にサンパイオの方が多く、サンパイオがプレスし、ドゥンガがパスコースを読んでボールカットというシーンが多く見られた。イメージ的には「横並び」ダブルボランチではなく縦並びと言ったところであろうが、二人の動きは同じポジションとして括れないほど異なっていた。
 この内容から、一般に語られているブラジルの4−4−2をアウダイール、J.バイアーノのセンターバックの前に「フォアリベロ」としてドゥンガを配置していると見れば、R.カルロス、カフーが上がると3−5−2、引くと5−3−2の「ネオ3バック」と言える。さらには、四人で作る最終守備ラインの前に、リベロが位置しているともとれる。

 また、W杯前の日本においては、山口がフォアリベロで、ボランチが名波の同様の形であった。山口はW杯でも同じ役割だったため、W杯時の日本のフォーメーションは、言い方を変えれば中西、秋田のストッパーの前に山口、後ろに井原を配置した「ダブルリベロ」となり、四人で作る最終守備ラインを2人のリベロで挟んだ形ともとれる。

 この様に選手への基本的な役割に対する意識付けを同じ「ボランチ」と呼ばれるポジションにおいて変えることで、グランド上でのプレーに差を付ける。

 四人で作る最終守備ラインの「前」にリベロが位置する場合は、最終守備ライン中央の二人は、状況に応じて相手トップ選手のマークを受け渡すか、マンマークでディフェンスする。この時、フォアリベロは決定的な状況以外は、最終守備ラインの前で、「パスの出所」を押さえるボランチ的な動きをする。そしてまた、フォアリベロは、ボールがゴールに近づく場合に、最終守備ラインに入り、カバーリング、インターセプト等を行う、通常のリベロとなる。

 この様に一概に「4バック」と言っても内容は大きく異なる。
 Jのチームにおける4バックは、ジュビロ、アントラーズが有名だが、両者ともラインによるマーク受け渡しではなく、センターバックが相手のFWを「マンマーク」し、いわゆるダブルボランチの一人が「フォアリベロ」的役割をこなす「ネオ3バック」に近い。この両者が、ブラジル的サッカーを得意とし、ボランチまたはフォアリベロとして、同じポジションにジョルジーニョ、ドゥンガを起用していた事は、ブラジル伝統のフォーメーションを如実に引き継いだことを意味する。
 しかし、逆に言うと、このポジションには、かなりの才能を要求され、その一人の出来及び不出場等でチームが左右されてしまう「特定の選手の能力への依存度の高さ」が伴う。バイエルンがマテウスの交代と共に勝者の階段を踏み外したことは、決して偶然ではなく、このシステムの限界も露呈したと言える。

※次回は「ファンタジスタ」について

HOMEへ