5. ウォーミングアップとクーリングダウン

●ウォームアップとクールダウン

 “ウォーミングアップはいつもやっています!”といっている人でも、その具体的な時間や、どのような運動がよいのかなどについては、明確になっていないのではないでしょうか? 習慣的に、みんなといっしょに、ただウォーミングアップをやっているということはありませんか? 今回は、からだを温めてパフォーマンスを高め、ケガを予防するためにおこなうウォーミングアップについて、また、競技が終わった後は、つい省略してしまいそうになるクーリングダウンの大切さもあわせて紹介したいと思います。

●ウォーミングアップの時間と効果

  なにも準備運動をしないで、急に走りだすと、苦しくなって走りつづけられなくなります。これは、能力をじゅうぶんに発揮するためには、ある程度の準備時間が必要だということを意味しています。筋肉の温度は、ジョギングなどの軽運動を10〜15分することで、定常状態にまで高められることが知られており、実際の実験データでは、筋の温度を36.6℃から39.3℃まで上げることで、筋肉の最大ピークパワーが約16%増加したことが報告されています。また、筋肉の反応時間が、ウォーミングアップの15分後にもっともよくなることがわかっています。これらを総合すると、15分程度のウォーミングアップが理想的な時間といえそうです。
 ウォーミングアップの効果については、筋組織の粘性を低下させ、筋収縮を円滑にすることにより、作業効率を高めることができることや、運動開始時の酸素摂取量や心拍数応答が促進されること、柔軟性が高まること、運動中の血中乳酸濃度の増加が抑制されることなどがわかっています。競技者にとって、ウォーミングアップは筋肉に潤滑油を入れて試合や練習に備える、欠かすことができない作業なのです。

●疲れていてもクーリングダウン

 競技や練習終了後は、早く家路につきたいと考える人は多いでしょう。でも、ちょっとまってください。クーリングダウンをわすれていませんか? なにもしないより、軽い運動を10〜15分おこなって帰ることは、疲れのもとである乳酸の除去率が約2倍速いというのです。最近、サッカーにおいても、“アクティブリカバリー(積極的な休息の意味)”という呼び方でクールングダウンの研究がはじまっており、毎分150拍の心拍数で、15分間の運動をおこなうことで、乳酸除去率が5%高まったそうです。

●ストレッチの効果

 準備運動として一般に定着している「ストレッチ」。このストレッチはウォーミングアップやクーリングダウンの中でどのような効果があるのでしょうか?ウオーミングアップは主運動のための心と体の準備です。そしてクーリングダウンは、主運動で疲労した筋肉、関節や精神のリラクゼーションに効果があります。その中で、ストレッチは運動前において「運動をスムーズにし、リラクゼーションをはかる」こと。そして運動後には「次の活動のために疲労を取り除き、体を本来の良い状態に保つ」のに効果を表します。

●アップ時のストレッチは運動をスムーズに

 ウォーミングアップ時の具体的なストレッチの効果としては、組み込み方次第で筋肉の温度を飛躍的に上昇させることが可能です。(筋温の上昇=主運動の準備度と理解いただければOK)競技の特性を理解して重要な関節・筋肉を知ったうえでストレッチを有効に利用すれば、効率的なアップが簡単に実現できるのです。

●クーリングダウン時のストレッチは次回の運動のための準備

 クーリングダウン時においてはどうでしょう。運動時の筋肉はアクチンとミオシンというフィラメントの滑走により収縮・弛緩を繰り返します。この繰り返しを継続的に行うことで、筋肉は固縮し伸張性が低下します。これは、パフォーマンスのダウンにつながるばかりでなく、傷害の発生要因になります。よって、クーリングダウン時のストレッチの目的は「使った筋肉をゆっくりと伸ばし、元の状態に戻してあげる」ことになります。それが次の練習や試合に向けての準備となる、ということなのです。

●ストレッチの注意事項

 ストレッチのを行う場合気をつけないといけないのが、体が冷えた状態で行わないこと!ストレッチは基本的に筋肉・関節・腱を伸ばすことにより可動域の柔軟性を高めるものですが、体が冷えた状態は筋肉などが硬い状態であるため、かえって怪我を招く事態になりかねません。よって軽いジョギングの後や、フロ上がりなどに行うのが良いでしょう。

●柔軟性の向上=パフォーマンスアップ?

 「ストレッチ」をすると「柔軟性が向上する」、ということで広く一般にも定着しつつあると思います。筋肉の柔軟性が向上すると関節の動きがスムーズになるので、けがの予防にも有効。 さらに、トレーニングの書籍等を見ると「柔軟性の向上は、パフォーマンスアップに不可欠」というような内容の文章もみかけます。本当に柔軟性が向上すると競技のパフォーマンスが向上するのでしょうか?答えはNO!「柔軟性の向上は直接パフォーマンスアップにつながらない」と考えます。選手の中には柔軟性が低くてもパフォーマンスの高い選手はいますし、もちろんその逆の選手もいます。柔らかいことでパフォーマンスが上がるのなら、アスリートはみんな柔軟性が高いことになりますよね。
 例えばテニスラケットのガット。強度は人それぞれで、一般的には、硬く張れば鋭いボールが打ちやすいが、反面その反動を耐えるある程度の筋力が必要。しかも強い衝撃のためガットが切れやすい(けがしやすい?)。逆に柔らかく張れば、硬いガットに比べて鋭いボールは打ちづらいけど、コントロール力の未熟な初心者や多少筋力が弱い人でも適切に打つことができる。そしてガットは切れにくい(けがしにくい。初心者には安価で競技が続けられる)。つまり、"硬い"と"柔らかい"ではそれぞれ利点と欠点があり、競技者自身も同様で、"柔らかいこと"="パフォーマンスアップ"にはつながらないと思うのです。

●まとめ

 ウォーミングアップとクーリングダウンの大切さ、また、その中でストレッチが担う役割を調べてみましたが、いかがだったでしょうか?「ストレッチ」には「柔軟性の向上」という大きな効果があり「けがの予防」にはとても有効だと思います。柔軟性の向上=パフォーマンスアップではありませんが、パフォーマンスという定義をケガの防止や疲労を取り除くということも含めた場合、ストレッチは「短時間で体への負荷が少ない最も効果的なパフォーマンスアップツール」と言えるでしょう。実際、ケガをして試合に出場できなければパフォーマンスはゼロですからね。また、試合前の心と体の準備、リラクゼーションなどにも効果を発揮すると思います。「ストレッチ」はその目的と効果を明確にし、「コンディションを整える」という観点で有効活用していけば、競技生活を長く、そして有意義なものにしてくれる素晴らしいツールになるはずです。 「スポーツをしているから健康になる」のではなく、「スポーツをする為には健康でなくてはならない」ということです。

●あとがき

 低学年のうちは練習もそれほど負荷の高いものでなく、体も柔軟なため、この時期それほど重要でないかもしれませんが、今のうちから習慣づけておくと良いかな?と思い、うちの子には風呂上りに毎日ストレッチをやらせています。将来の怪我予防に功を奏すれば良いのですが。

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