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![]() その後に買って読んだ「人間の誇りうるとき」に、私の記憶と少し一致している箇所があるので、今回はその部分を抜粋した。 優しく語りかけるように綴られる文章の中から、きびしい差別と闘い、生きてきた人生がかいま見えてくる。「昔の差別」を知ることは、今の差別や人間の生き方を考えることにつながることを、この本は教えてくれる。 (2002年5月) |
これがわかったとき、私は変わったのです。弱かった人間が強くなり、逃げていた人間が逃げなくてすむようになったのです。自殺したいと思ったことが一回ならずあった敗北的な私の人生は、一転し、たくましく生きようと決意し、生き甲斐を感ずるようになったのです。オーバーな言い方をすれば人生観と世界観が変わったと言ってもいいでしょう。ど
のように変わったのか。
自分で分析してみると三つくらいあると思います。 (中略) 第二には「差別とは何か」ということがわかったことです。 私は20歳になるまでは、差別されるのは部落民のおれたちが悪いんだ、だから差別されたってしようがないと心の隅で思っていました。そういう考え方に立っている限り人間が解放されるはずはありません。私は20歳になるまでは、私たちが差別されるのは私たちの先祖が何か悪いことをしたのだろうか、親たちが悪いことをしたのだろうかと思ってきました。そうなら仕方がないとも思っていました。差別を認めていたのです。 ところが、この本を読んで、その考え方が思い違いであるということが、はっきりとわかってきました。小学校時代、友だちと喧嘩したときに「ちょうりは人種が違う」と言われたのは、真実を知らない人たちの偏見だったのです。 佐野学の『闘争によりて解放へ』という本を読んで、「差別される側には何も悪いことはない。差別する側が100パーセント悪いんだ」ということがわかったのです。差別というものは、される側には悪いことは一つもありません。する側が絶対に悪いのです。「女のくせに…」と言って女の人を差別する人がいても女性は悪くない。100パーセント、その男性が悪い。「貪乏人のくせに…」と言って差別する人がいたら、貧乏人が悪いのではない。悪いのは差別する人である。どんな事情があろうとも差別する側が絶対に悪いのです。 この本を読んで私は、差別のもつ絶対の罪悪性と不当性というものが、よくわかりました。別の見方をすると、差別する人は、人間的には哀れで、さびしい、気の毒な、ほんとうの意味の教養のない人で、その人も犠牲者だということがわかったのです。 第三には物の見方や考え方、感じ方が変わったということです。価値観の転換が起こったと言ってもいいかも知れません。 私は20歳になるまでは、大きな家に住んでいる人は偉いと思っていました。逆に小さな家に住んでいる人は偉くないと思っていたのです。地主さんは偉くて小作人は偉くない、そうすると私の家は小さいし小作人ですから偉くないんだと考えていたのです。金持ちは偉くて貧乏人は偉くない。そうすると、うちは貫乏人だから偉くないんだと、こういう考え方をしていたのです。 ところが「人間の価値なんて、そんなことで決められてたまるか」というふうに考えるようになったのです。 学歴のある人が偉いという考え方は、学歴のある人が考えたことなのです。大きな家に住んでいる人が偉いという考え方ほ、大きな家に住んでいる人が考えたことです。金持ちが偉いという考え方は金持ちが考えたことです。医者や大学教授が偉いという考え方は、そういう人たちが考え出したことなのです。 私たちは他人の考え方に乗っかるのではなく、自分の立場で論理を創造しなければなりません。 価値観だけではなく、人生観だって世界観だって自分の立場でつくり出していかなければならないのです。 私たち部落の人は、偶然そこに生まれたということによって自分の生涯をダメにしてしまってはなりません。自分で賛成しない価値観を押しつけられ、自分がダメになっていってもいいのでしょぅか。私たちは自分の価値観をもって生きなければならないのです。 金があるとか家が大きいとか、学歴があるとか職業がどうのとか、そんな問題で人間の価値が決められるべきものでは絶対ありません。「ほんとうに偉い人」というのは人間の幸せのために、どれだけ役立ってきたか、社会の進歩発展にどれだけ貢献したか、人間として、どれだけ精いっぱい誠実に努力して生きているかということによってのみ決められるべきものなのです。つまり、 (中略) そして全国で六千部落三百万人といわれる部落の人びとは、今もなお誠実な生き方をして社会を支えています。賤しいい人でもない。劣っている人でもない。自分の立場を犠牲にして一生懸命に生きてきた「立派な人」なのです。そんな素晴らしい人間を、世間の人たちは偏見と因習によって差別しているのです。 (p38〜p42より抜粋)【解放出版社】 |