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人権伊首相「西欧文明はイスラムに優越」 朝日新聞9/30
−アラブ側「10億人に謝れ」


 西欧文明はイスラムに勝る−イタリアのベルルスコニーニ首相がこう発言し,イスラム諸国が猛反発している。首相は,28日,「一部の言葉が曲解された」と苦しい釈明をしたが,関係国の怒りはおさまりそうにない。
 首相はドイツ訪問中の26日,「私たちの文明は繁栄をもたらし,人権尊重も保証している。優越性を意識しなければならない」と語った。
「こうした価値はイスラム諸国にはない」(イスラム諸国は)1400年前の段階にとどまっている」とも続けた。
 アラブ連盟のムーサ事務局長は「10億人のイスラム教徒に誤るべきだ」と抗議。イランなどが説明を求めた。
 ベルルスコーニ首相はイスラム諸国の大使と近く会談し,「真意」を説明するという。

 おりしも全世界が「アメリカ貿易センタービルなどへのテロ」に揺れている時期の記事だ。テロは絶対に許せないし,無差別に民間人を巻き添えに多数の犠牲者を出したこの事件には,怒りを覚える。「報復」という言葉がでてくるのも,「犠牲となった人々」の立場からすれば(誤解を恐れずに書けば)うなずける。
 しかし,誰に「報復」するのか?どこに戦争を仕掛けるのか?と考えると,決してアフガニスタンの民衆ではないだろうことは確かである。今この時期に,ある国の民衆やある宗教を信仰する人々全体を報復の的にすべき発言は,それこそ「人権尊重」を保証していると自慢する国のトップの立場にある人のすべき発言ではない。
 しかもこの発言には,「決定的な誤り」がある。中学校社会科歴史指導書(日本書籍)には,こう書いてある。

(ルネサンス前のこと)当時のヨーロッパ文化の程度はイスラム文化に比べてはるかに低く,ヨーロッパ人外科医の技術は,イスラム人外科医の物笑いの種であった。西アジアとの交流によって,イスラムの科学は,キリスト教会への盲目的信仰に疑問を投げかけ,教皇の権威の絶対性への批判を生み出した。これは,のちにルネサンス合理精神へと発展することとなる。

 ルネサンスとは「再生」の意味である。自由都市を生み出した商人たちの力と中世的禁欲と教会の権威から放たれたヒューマニストたちは,その模範としたギリシア・ローマ文化を復興しようとした。彼らはその多くをイスラム文化から吸収したのである。イスラム文化こそギリシア・ローマ文化の継承者であったからである。
 ルネサンスがイスラム世界と接触の多かった北イタリアから起こった理由である。
 ところが,ヨーロッパ人の意識の中では,ギリシア・ローマと近代ヨーロッパは直接つながり,イスラムはドロップしてしまった。日本人の世界認識の視野にもイスラムの影はうすい。 

10年以上前の指導書の記述である。しかし、学ぶべき点はあるだろう。しっかり「真意」を伝えてほしいと思う。偏見や差別を増幅しないために。新たな戦争を誘発する事態は避けてほしいと思う。


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