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教育 ちょっといい話
 宮原中時代,養護教諭の上田さんから,だんなさんのクラス通信(江田島高校)や「値遇」(豊田高校)を読ませていただきました。今の私たちよりも当時は,若かったような気がする。たくさんの貴重な文章を山ほど書いていた。  今も読み返してみて,学ぶところは多い。
(『涙を流していたこの若い先生って,誰だったっけ?』」また,夫の妻いじめが始まった!)
 「初心忘るべからず」と簡単に言うつもりはない。経験年数で仕事のすべてが決まる−そんなもんじゃないだろう!若くても,年をとってもそのときどきに感じとったきらきら光るものを大切にしていく。振り返りつつ・・。そんな生き方をしたいと思う。


私の妻が,中学校の養護教諭をしていることは,前にも話したことがありますね。
その妻が先日,学校であったできごとを話してくれました。久々に聞いたいい話だったので,みなさんにも紹介します。

つい数日前,妻が保健室でワープロを打っていると,今年教員になったばかりの女性の先生が,ポロポロと涙を流して入ってこられたそうです。妻は,「何かあったんじゃろうか?」と思い,悪い方へ悪い方へと想像を巡らしたそうです。ところが,その若い先生の話されたことは,妻の想像を,見事に裏切るものだったようです。

その若い先生は,私と同じ,国語の教師だそうです。大学を卒業してすぐですから,あれもやりたい,こういう教え方もしたいと,理想に燃えておられたことでしょう。しかし,私の場合もそうでしたが,こういう理想は,たいてい,はじめて授業にでた瞬間に,生徒たちによってぶち壊されてしまうものです。この先生も,どうにもうまく理想と現実が結びつかなかったようです。そりゃあ君たちだって新卒の先生が来たら,うれしくて仕方がなくなって,調子にのるよねー。この先生も「教科書を持ってこない」「ノートはとらない」「ペチャクチャと話をする」「授業に全くついてこられない」ある一人の少年に早速,悩まされたそうです。そのうち,あきらめが先行し,やらんものはしょうがないという心境になったそうです。
実際,多くの先輩教師が,その少年のことはあきらめているようだし,そうしなければ,他の生徒の授業が進まないと,自分自身を納得させてしまったそうです。

ところが,先日(涙が思わず出た日)のことです。教材は,芥川の「トロッコ」。テープの朗読にあわせて,教科書を黙読することにしました。例のごとく,あの少年は教科書なんか持ってきていません。そこで,その先生は,何気なく自分の教科書を開いて,少年の机の上に置きました。すると・・・,いつもとは違う光景が先生の目に映りました。「教科書なんかクソ食らえ」の少年が,テープに合わせて文字を追い,ページをめくっているではありませんか。その時から,先生の目に涙がにじみはじめたのです。テープが止まっても,先生は,満足に授業ができなかったそうです。皆さんに,この若い女性の先生の涙の意味を考えてもらいたいのです。

この先生は,文字を追っている少年を見て,「今まで自分は何しよったんじゃろうか」と考えたそうです。つまり,「できんものはしょうがない」「わからんものはしょうがない」という,教師の立場でしか物事を考えていなかった自分に気づき,その思いが脳裏をめぐり,思わず涙が出たのでしょう。

(少しだけ−後略)


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