ろまん探検隊
ウミガメの産卵が見たい
(1993.7.1〜7.12)

※※※※※※※※※※※※ プロローグ ※※※※※※※※※※※※

学生時代,
同じサークルの仲間4人で南紀へ旅行をした.
そのメンバーで旅行をするようになって10年.
初めのうちは,旅行に行くこと自体が目的だった.
回を重ねて,メンバーが30才を過ぎて,
だんだんと,そんな旅に飽きたらなくなり,
行くたびごとに,何かを残してくれる…….
そんな旅がしたくなった.

今,見たいものがあります
それはウミガメの産卵です.
ウミガメの産卵を見る.
どうでもいい事かも知れないけど,
その,どうでもいい事のために一生懸命やるのも,
たまには,必要なことではないかと…

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◇ Project-A 作戦会議 ◇

 4月のある日,大阪に住む友人から電話で,いきなり
「ねえ,ウミガメの産卵を見に行かない?」
「………」
「それで,いつ,どこへ行けば見れるか調べて,わかったら電話して.」
「………???」
まったく,人を旅行代理店と間違えているんじゃない!?と思いながらも,こういうことはやっぱりプロに聞かなくっちゃ…と,いつもお世話になっている旅行代理店で,
「ウミガメの産卵を見たいんですけど,どこへ行ったら見れますかー?」
「ウ・ミ・ガ・メ??ですか.ちょっと待ってて下さいね.」と言って,奥の方へ消えてしまった.しばらく待たされてから,
「徳島県の日和佐ってところで,6月〜7月の夜に見れるそうですよ.」と教えてくれた.
 その夜,大阪の友人にTELすると,
「基本的に,休めるのは土・日だから1泊2日の1発勝負だけど,『6月〜7月の夜』ってのは,ちょっと漠然としてるから,もう少し確率の高い日を限定できない?」
ってことになって,今度は「日和佐うみがめ博物館」に電話して,ウミガメの産卵を見れる確率の高い日を聞いてみることにした.その結果次の様なことがわかった.

■■ ウミガメの産卵を見れる確率が高い日 ■■

・最盛期は6月下旬〜7月いっぱい
・天候(雨)による影響はあまり無い
・満月の日に多いといわれている
・満潮の方がいいといわれている

 次にしなければならないことは,上の条件を満たす土曜日を探すこと.
 理科年表で調べたり,気象台に電話したりして,私たちが決定した日は1993年7月11日(土)〜12日(日)の1泊2日.さて,ウミガメが見れるでしょうか.

JTB大垣支店

ウミガメの上陸と月の満ち欠け

◇ Project-B 探検実行 ◇

 さて,待ちに待った7月11日(土)
朝から小雨が混ざるぐずついた天気の中を,7時06分発のひかり61号で岐阜羽島を出発.途中,新大阪で友人夫婦と合流し,岡山へは8時57分着.岡山からは瀬戸大橋線を走る快速マリンライナーで四国へ渡り,高松に10時11分に着いた.
 高松では,栗林公園へ行き,園内の掬月亭で抹茶とお菓子を頂いた.室内にはクーラーなんかもちろん無いけど,不思議なもので,手入れされた庭と池を泳ぐ鯉を見ていると何となく涼しくなる.昔の人ってすごい!って思った.
 昼食は,「香川といえば讃岐うどん」とばかりに,市内の川福本店でざるうどんを食べた.このざるうどん,あーうーの故大平総理の命名によるそうで,細めの食べやすい太さと,のどごしの良さが持味.
 さて,お腹もふくれたところで,いよいよこの旅行のハイライト,ウミガメが産卵に上陸する日和佐に向かって,特急「うずしお」で高松を後にした.

今回の同行のお二人

栗林公園

◇ ウミガメの来る町 日和佐 ◇

 無人駅の日和佐駅を出るとまず目につくのが,小高い山の上にそびえる日和佐城.この城の築城は1978(昭和53)年と新しいが,町のどこからでも見えて,すっかり町のシンボルになっている.駅から宿までの途中,「日和佐うみがめ博物館」でウミガメについて勉強し,「ウミガメ博士」の称号をもらってしまった.そしてウミガメが産卵に上陸する大浜海岸の下見をして,今夜の宿「ホテル白い燈台」へ着いた.
 フロントでウミガメが上陸したら連絡してくれるように頼み,大浴場で一日の疲れを流す.夕食時にはウミガメの産卵が見れる事を祈って「乾杯!」.
 ウミガメ上陸の連絡を待つ事5時間.もう,ほとんど諦めかけてうとうとしていた(私は寝ていた)時,電話のベルが鳴った.時計の針は午前1時.まずビデオを回してから受話器を取る.
「ウミガメが上陸したそうです.」すぐ着替えをし,撮影道具一式を抱えて,海岸へと向かう.宿泊客はほとんどがウミガメの産卵めあてで(それ以外の人はお遍路さん?),私たち以外にも大勢の人が,海岸へ向かっていた.
 海岸へ着くとウミガメの周りは既に黒山の人だかり.ウミガメは卵を産むとき,産まれてくる子どものために涙を流すといわれている,でも,実際はえさを取る時に体内に入った海水を排出しているってことを,昼間うみがめ博物館で勉強した.そんな事実がわかっていても,やっぱり涙に見えてしまう.いなかっぺ大将(昔のTVアニメです)のような,大きな涙を流したアカウミガメの姿がとても印象的.そして,卵を産み終わって海に帰っていくウミガメの後ろ姿を見て,浜にいた多くの人が,思わず拍手を贈っていた.
 卵は約2ヶ月で孵化し,生まれた小ガメは海へ帰って行く.小ガメが再びこの浜へ帰ってくるのは約15年後.その時までこの浜を守って行かなければ….ウミガメを守ることは,地球を守ること,そして,私たち人間を守ることなんでよすね.この夏産まれた子ガメが,再び大浜海岸へ帰ってくるとき,もう一度日和佐を訪れたいと思います.

ウミガメが上陸する大浜海岸

産卵を終えたアカウミガメ

※※※※※※※※※※※※ エピローグ ※※※※※※※※※※※※

旅の楽しさは,プランを作ることから始まります.
「旅にでたい!」そう思ったときから旅は始まっています.
あての無い気ままな旅もいいけど,
いろんな情報を集めて,じっくりプランニングをする.
たった1泊2日の旅でも,
計画期間を入れれば1ヶ月の旅にでも…….

そこに行けば必ず見れる旅ではなく,そこに行けば見れるかも知れない.
これからも,そんな不確実性のある旅をしていきたいと思います.

※今回の旅人:M. Kasagi,K. Kasagi,Tsuge

(JIC社内誌「親和」1993年10月号に掲載されたものに一部加筆修正しました)


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