高野山と龍神温泉の旅
(2000.9.16〜17)

■ 高野山への正しい?アクセス ■

 2000年の夏は中山道の和田峠から塩尻までを歩いてきた.2泊3日の旅で,3日とも日帰り温泉に入って温泉三昧の旅ではあった.しかしひとり旅では和風の旅館に泊まるのは難しく,浴衣に着替えて温泉に浸かって,美味しい料理とお酒を味わい,食後にまた温泉に入って…,という旅への欲求が急に高まってきたので,友人を誘って和歌山県の龍神温泉に行ってきた.
 同行してくれる友人は,この夏休みに中国の海南島へ行ってきたようで,毎日昼寝と中華三昧の生活で,ビーチで眼鏡を波にさらわれたという,相当にリゾートボケが進行しているようであった.が,こちらも日本の温泉への禁断症状が出てきたためか,話はトントン拍子にまとまった.

 今回の旅では移動に自家用車ではなく公共交通を使うことにした.そのため,路線バスが走る高野山〜龍神温泉〜紀伊田辺を結ぶルートを中心に計画を考えた.大阪を起点にすると,和歌山県の北半分を一周するルートになるが,どちら向きに回るか迷った.高野山へは和歌山県の橋本から入るのが正しいアクセスではないか!?というのが決め手になって,1日目に高野山へ寄り龍神温泉に泊まる.2日目は龍神温泉から紀伊田辺へ出て大阪に帰ってくるというルートに決めた.

 9月16日土曜日.南海難波駅.南海というと南海ホークスを思い出してしまう世代であり,わりと地味なイメージがあるが,いまや難波駅は関西国際空港の玄関口でもあるため,赤れんがを使った,とてもオシャレな建物になっている.ここで,同行する友人と合流した.
 われわれの待つホームに4両編成の特急「りんかん2号」が入ってきた.この列車が,折り返し「こうや1号」となって高野山へ向かう.「りんかん2号」の乗客が全て降り終わると扉が閉り,車内整備が行われる.そして,シートが自動的に反転して進行方向を向いてから扉が開いた.関西では阪急や京阪の特急電車の始発駅でも同じような光景を見ることができるが,阪急や京阪は背もたれだけが方向を変えるのに対して,南海の特急はシート全体が半回転する.シンクロナイズドスイミングを見ているような感じである.
 高野山の玄関口極楽橋まではおよそ1時間20分である.まだ朝の9時過ぎだというのに,われわれは列車が走り出すと同時にビールを飲みはじめた.これだから自家用車での旅なんかできない.ほろ酔い気分で車窓から空模様を心配していると,橋本を過ぎて,列車が山の中に入ったころから窓に雨粒があたり始めた.さほど強くない雨であるが,平行する道路の路面は黒く光っていた.極楽橋からはケーブルカーに乗り換える.入り口が沢山あって,なんとなく,いも虫みたいな車両である.急斜面を登るために車体が斜めになっているので,ホームで列車を待っていると錯角を起こして自分が倒れそうになった.ケーブルカーに乗っておよそ10分,10時45分に高野山駅に着いた.

出発を待つ特急こうや1号(難波駅)

ケーブルカー(極楽橋)

高野山駅

■ 宗教都市 KOYASAN ■

 高野山駅につくと,まず南海りんかんバスの営業所に立ち寄り,龍神温泉までのバスの予約の確認をした.龍神温泉方面へのバスはこの高野山駅前から出るが,途中の千手院橋前と奥の院前からも乗ることができるので,われわれは千手院橋前から乗ることを告げて,バスで金剛峯寺をはじめとする120の寺院が立ち並ぶ,いわゆる高野山に向った.

 ケーブルで高野山駅に着いた乗客は,ほとんどがバスに乗るので,バスは満員である.バスを千手院橋前で降り,喫茶店に入って,これからの行動を考え,まず金剛峯寺へ行くことにした.喫茶店を出ると,空はどんより曇っていたが,なんとか雨は降らずにいた.歩いていると,外国人の姿を多く見かけた.かっては女人禁制の真言密教の霊場も,今では国際的な宗教都市になっているようであった.
 金剛峯寺は豊臣秀吉が亡き母の供養のために建立した青厳寺で,真言宗の総本山である.後に金剛峯寺と呼ばれるようになった.350円を払って建物の内部へ入る.数々の襖絵や石庭がきれいである.しかし,ここで私が興味を持ったのは,3つの大きなお釜が並ぶ炊事場であった.かまどの上には換気用のおおきな吹き抜けがあり,この3つのお釜で,ここに住む全員のご飯を焚くことができるとの説明があった.また,洗い場の床は簀の子になっており,水が床下へ逃げるようになっていた.つぎに,特に理由は無いが,高野山大学へ向かった.日曜日のためか,キャンパス内は静まり返って,誰も歩いていなかった.
 さて,そろそろお腹がすいてきたので,食事場所を探した.「高野山では精進料理を」と思ったが,値段が高いので,いなり寿司とうどんのセットを注文した.そして,当然のようにビールも.昔の高野山参りの人たちも,旅先では精進料理なんか食べずに,こんな料理を食べていたのだろう…と思いながら食べた.他のテーブルの家族連れやグループの人たちの顔も,なんだか楽しそうである.昔から旅は楽しいものである.もちろん楽しくない旅もあるだろうが….
 食事を済ませて奥の院へ向かって歩いた.奥の院へ向かう杉木立に包まれた参道沿いには,大名や歴史上の著名人のお墓がずらり並んでいた.お墓ウオッチングをしながら歩くと楽しい.ひょっとすると,自分の遠い御先祖様のお墓が見つかるかも知れない.奥の院までは約2キロあるので,途中で引き返し,バスで千手院橋前へ戻った.そして時間を潰すために,また喫茶店に入った.歩いているより喫茶店や食堂に入っている時間の方が長い高野山であった.

金剛峯寺の石庭「蟠龍庭」

高野山大学

奥の院への参道

■ 日本三美人の湯 龍神温泉 ■

 14時15分,千手院橋前で護摩檀山行きのバスを待つ.われわれの他に年配のご夫婦が同じバスを待っているようであった.小雨が降ってきた.定刻より少し遅れてバスが着いて乗り込んだ.バスは高野龍神スカイラインに入り,徐々に標高が上がり,それにつれて雨が強くなった.花園村あたりでは沿道にコスモスの花が咲いていて,秋の気配が感じられたが,だんだん霧が濃くなって,景色は全く見えなくなった.15時15分,予定通り護摩檀山に着いた.ここは和歌山県の最高峰で,「ごまさんスカイタワー」という展望台にあがれば,天気の良い日は,遠く四国までを望むことができるらしいが,今日は霧のため,わずか200メートル先も見えないほどで,展望台にあがる人はいないようであった.乗り換えのバスの時間まで約25分あるので,売店の2階のレストランで休むことにした.
 15時40分発の龍神温泉行きのバスは,定刻より少し早く出発した.しばらく走ると道に沿って川が流れる様になるが,雨と急流のため,かなり速い流れになっている.約40分で龍神温泉に着いた.

 今晩の宿は,バス停の川向こうの下御殿という旅館である.旅館まで歩く途中に,公衆浴場の龍神温泉元湯がある.建物から出てくる若い女性の髪が濡れていて,なんとなくきれいであった.そう,ここは群馬の川中温泉,島根の湯の川温泉と並んで日本三美人の湯といわれているのだ.「美人の湯に美人は来ないよなー」と思っていたが,そうでもないようである.
 下御殿は紀州藩の手厚い保護を受け,約360年続いている老舗である.建物は鉄筋コンクリートに造りになっているが,畳敷きのロビーや部屋の堀ごたつに暖かさが感じられた.部屋に案内されて,まずはビール.部屋は日高川に面していて,窓から強い雨音と川の流れが聞こえてきた.窓を開けていると少し肌寒い.食事の前に風呂へ向かった.お目当ての露天風呂は,雨による川の増水のため中止になっていた.残念である.内湯の槇風呂で一日の旅の疲れを洗い流した.夕食は山菜と川魚が中心で充分な量があったが,これがメインといったインパクトに欠けた.訪れた季節が中途半端で,もう少し遅ければ松茸を味わうことができたはずであり,少し残念であった.

霧のごまさんスカイタワー

龍神温泉での夕食

■ 日本一の梅の里 南部 ■

 翌朝,天気が回復し,龍神温泉9時46分発のバスで紀伊田辺へ向かった.きのうとは打って変わって車窓から見る景色は絶景であった.これが路線バスとは思えないほど,標高の高い,景色の良いところを走っていった.バスが山あいから平地に出る手前に奇絶峽と呼ばれる景勝地がある.渓谷と言うと見下ろす感じがあるが,ここは道のすぐ下が川である.大小の岩の間を水が勢いよく流れ,カヌーでもしたくなるようなところである.

 11時すぎに紀伊田辺駅へ着き,ここから11時20分発の和歌山行き普通電車に乗り,約10分で南部に着いた.駅からまっすぐに延びる道は,きれいに整備されており,町の公共施設などが並んでいる.道の突き当たりが千里の浜という砂浜で,伊勢物語や枕草子などにその美しさが歌われたところである.ここは毎年5月から8月にかけて,赤ウミガメが産卵に上陸することでも有名だ.
 南部の周辺は梅干しの産地で,ここで採れる梅は南高梅と呼ばれる果肉の多い大粒の梅である.千里の浜から国道42号線を北へ歩き,南部川を渡ったところに紀州梅干館がある.建物の近くまで来ると,梅干特有の甘酸っぱい香りが風に乗って来た.ここ紀州梅干館は梅干工場に売店が併設され,工場の見学もできる.あいにく日曜日のため工場は稼動していなかったが,自動化された倉庫に沢山の梅干が眠っていた.二人とも売店で梅干しや,梅エキスの入ったお茶などを買った.
 駅に戻る途中,商店街に梅の花をあしらった街灯を見つけた.昼食は駅前の中華料理屋でとった.店内のテレビは,シドニーオリンピックの日本対アメリカの野球の試合を映していた.日本は西武ライオンズの松阪投手が投げていたが,苦戦しているようであった.

 紀州というと海のイメージが強いが,実際には山の国でもあることを,今回の旅で再確認した.1日目,高野山から龍神温泉に向かう途中に見た日高川の流れは,この世の全てを飲み込んでしまうかのような濁流であった.しかし,翌日,天気が回復すると,川の流れは澄みわたり,山々の緑は,私たちをやさしく包んでくれているかのようであった.一方で,南部町の千里の浜や,帰りの特急電車の車窓から見た景色は,もうひとつの紀州の姿,海の国であった.

龍神温泉

千里の浜(南部)

梅の花の街灯(南部)

※今回の旅人:Fukumura,Tsuge


■南海電鉄

今回の旅のスタートは南海電車でした.高野山への正しいアクセス?

■高野山

高野町、高野山観光協会、高野山宿坊組合が運営するサイトで,協賛が総本山金剛峯寺という,それこそ町全体で盛り上げているサイトです.

■大熊小学校

小学校のホームページですが,龍神村の観光から歴史,なぜか宿泊情報まであります.

■下御殿

私たちがお世話になった旅館のホームページです.

■南部町

南高梅のふるさと,南部町のホームページ.

■和歌山県

和歌山県庁のホームページ.和歌山県下の各市町村のホームページへのリンクがあります.


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