持ち物は‘体力’!?
RURUBU調「信州湯田中温泉の旅」
(1991.1.4〜1.6)

◇ 眠れない夜行列車 ◇

「体を張った旅をしよう!」
って事になり,夜行列車,それも寝台ではなく座席の急行列車で,猿が温泉に入ることで有名な長野県の地獄谷温泉へ行ってきました.
 1月4日午後11時50分.もうすぐ日付けが変わる.
 昼間なら人であふれている名古屋駅のプラットホームも,この時間は人影もまばらで,スキーウェアに身を固めた若者のグループをいくつか見かけるだけでした.スキーもいいな〜,という気持ちを抑えて,0時32分発の長野行臨時急行ちくま81号に乗りこみました.
 中央本線を北に進むにつれ,線路の脇には雪が積もり,木曾福島ではとうとう雪が降ってきたので,さっそくホームに飛び出し,カメラのシャッターを押した.
 ひさしぶりの学生時代の友人との旅行なので,眠たいのも忘れて,名古屋駅で買ったビールとおつまみで,周りのひんしゅくを買いながら大宴会.瞬く間に,窓際に空になったビールの空き缶が並んだ.もっとも電車はすいていて1両に10人も乗っていませんでしたが….でもやっぱり睡魔には勝てず,塩尻の手前ぐらいから,うとうとしはじめ,6時05分長野に着くまで寝たり起きたり.睡眠時間はのべ1時間くらいってとこ.一緒に行った友だちもあまり寝ていないみたい.

電車の窓際に並んだビールの空き缶

雪の中央本線大桑駅

◇ 朝一番の善光寺 ◇

 まだ夜明け前の長野駅,駅前の温度計は氷点下2度.そしてその隣には「オリンピック開催地決定まであと○○日」という電光表示が….最近こういうの多いなーと思いながら,善光寺めざして歩き始めた.ひんやりとした朝の空気を吸いながら歩いていると,少しずつ夜が明けてきて,うっすらと雪化粧をした山並が見えてきた.
「へー,こんなに近くに山があるんだ.」と平野育ちの,わたしは感動.
 朝一番の善光寺.境内の樹木にうっすらと雪が積もっている.
善光寺で見つけたお守りの自動販売機(写真).おみくじの自動販売機は,いろんなところで見たけど,お守りは初めて.
 初詣は地元の神社ですませてきましたが,善光寺でも初詣?をして,おみくじを引いた.出たのは「小吉」.最近小吉から全然浮上できない.去年の暮れに京都の地主神社(ここは縁結びの神様です)でも小吉だった.一緒に行った友達の中には大吉を引いた人もいて,「お正月って普段より大吉が多いのかな?」と,どうでもいい事を心配しながら善光寺を後にした.
「信州っていったら,やっぱりお蕎麦.」
ってわけで長野でのお昼は,ガイドブックを見て,手打ちそばの『一茶庵かしわや』で名物三色そばに決めた.三食そばっていうのは簡単に言うと,3種類のおそばがのっているざるそば.でも本当はとっても奥が深くって,食べる順番から入れる薬味まで決まっていて,お店の人が親切に教えてくれた.

早朝の善光寺

善光寺で見つけたお守りの自販機

◇ 地獄谷温泉野猿公苑 ◇

 目指す地獄谷温泉は長野から長野電鉄で湯田中まで行き,そこからバスに乗り,さらに山道を歩かなくてはいけない.電車に乗るなり,
「湯田中まで何分?」
「1時間ぐらい.」
「少しは眠れるね.」
みんな寝不足なので,電車が走り始めたらすぐに寝てしまった.
 湯田中が近づいて目を覚ますと,あっちっこっちにスキー場が見えてきた.私たちは温泉の事しか考えてなかったけど,湯田中は温泉とともに志賀高原の入口でもあったのです.
 湯田中温泉からバスで約15分の上林温泉まで行き,そこからは山道を歩いて行く.足元は雪が凍って滑り易く,片側は山,反対側は谷で「ああ野麦峠」か「水曜スペシャル」の世界.いつもなら20分位で歩ける距離だが,30分くらいかかって地獄谷温泉の野猿公苑に着いた.『そして,そこで我々の見たものはっ!』.
「ワァーかわいい.親子でノミをとりあってる.」
「あの猿,さっきからずーっと温泉に入ってるから顔が真っ赤.」
「猿って風邪ひかないんかなー?」
 ちょうど餌の時間だったので餌付けをしているおじさんに少し餌をもらって,かわいい子猿に餌をやった.こどもは大人に餌を横取りされてしまうので,こうやって直接餌を与えるそうです.野猿公苑の売店で絵はがきとテレホンカードを買って今晩の宿,湯田中温泉へ戻った.

地獄谷温泉への山道

温泉に入るサルたち

◇ 湯田中温泉 ◇

 ここで,ちょっと湯田中渋温泉郷の紹介を,
 かっては山ノ内温泉郷と呼ばれた温泉郷で,湯田中・渋温泉を中心として,新湯田中,星川,安代,上林,地獄谷,穂波,角間の温泉の総称.春秋はハイキングに,夏は避暑に,冬のスキーにと年間を通してのリゾートで,泉質は旅館によって少しずつ違うそうで,神経痛・リューマチにいいそうです.
 さて,今晩の宿,湯田中温泉『望山荘』は,かっては名前の通り客室から志賀高原の山並が一望できたのですが,今はすぐ前にリゾートマンションを建築中で残念ながら志賀高原の山並は見えませんでした. 今のシーズンはスキーヤーがほとんどで旅館では何人もの人から,
「スキーですか?」
って聞かれた.その度に
「地獄谷の猿を見に来たんです.」
と言いながら,今度来るときはスキーで…と思いながらも,スキーのできない私でした.
 夕食は,まずビールで乾杯.今回の宿は部屋で夕食が取れなかったのはちょっと残念.でも,地獄谷温泉のかわいい猿を見たことで,一緒に行った友達も,
「でも今回の旅行は正解だったよね.」
って言ってくれた.
いつもなら明け方近くまで飲みながらお喋りするんだけど,何しろみんな睡眠不足なもんで10時過ぎには深い眠りに就いていました.
 翌日,いつもの癖で早起きしてしまった私は,これもいつものように窓のカーテンを開けると,なんと外は一面の銀世界で雪がしんしんと降っているではありませんか.この非日常性が旅なんだ…と思いながら窓を開け,大きな伸びをして深呼吸.本当に気持ちいい.

◇ 帰りの電車は次の旅行のプランで盛り上がった ◇

 宿の車で湯田中駅まで送ってもらい,途中,長野でお土産を買って松本へ向かいました.そして松本へ来た私たちは,「松本へ来たら『山小屋』の山菜ピラフ.」とばかりに松本では必ず行く駅前の喫茶店『山小屋』で,山菜ピラフを食べて,松本14時57分発の特急しなの18号で帰路につきました.
 このメンバー(今回参加していない人もいる)で旅行をするようになってから,今年の秋で10年になります.長野の駅ビルMIDORIで買ったおやきを食べながら,
「今度は10周年を記念して海外旅行にしようか.」
「ハワイって温泉あるかな.」
「火山があるんだからあるんじゃない.」
「もっと何か記念になることをしようよ.例えばみんなで温泉を掘るとか.」
「ばかなこと言ってないで,5周年に総勢20人で大ツアーをしたみたいに,また大勢で旅行するのってのは?」
「10年経ったらみんな結婚していると思っていたけど,そんなこと無かったね.」
「……….」
 帰りの電車の中でのおしゃべりは,もちろん10周年のプランでもちきり.
夜行列車,そして山道を歩いての旅は,ちょっぴり眠たかったけど,私たちの旅心を十分満足させてくれました.

※今回の旅行メンバー:K. Ohnishi/Kasagi/Tsuge/Fukumura

(JIC社内誌「親和」1991年3月号に掲載されたものに一部加筆修正しました)


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