第21話  クリスマスパーティ

どれくらいの時間がだったのだろう…頬を伝う涙と重い足取りの私は失恋の悲しさにも似た演唱會のあとの感情を隠すことなく、自分を取り戻さしてくれるような冷たい海風が吹くプロムナードをただ前を向いて歩いていた。私の後ろには、何も言わず優しい瞳で私を見ている有有の暖かさを感じながら…
「小香?大丈夫?もう落ち着いた?」
「うん…有り難う…演唱會が始まったときは感動だけで何も思わなかったのに、終わったとたんに悲しくなっちゃって…へへ…もう大丈夫よ…有り難う」
「うん…わかるわ…私もそんなときも有ったもん」
「え?有有にもそんな気持ちが?…」
「(^。^)そうよ…そんなこともあったわ…ささ…小香、気分を変えてそろそろクリスマスパーティーに行かなくっちゃ!d(^-^)ネ!」
「うん(^_^)!そうだね!思いっきり楽しむわ♪」
私は優しい有有に連れられてプロムナードを後にした…

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「きゃ〜〜〜〜!!なになに??すっご〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い(@_@) こんなマンション見たことないよ!!うっわ〜〜〜(^○^) ステキ!ステキ!!ねえねえ有有♪ もしかして今日のクリスマスパーティってばこんなステキなマンションであるの??キット誰かすご〜〜〜〜〜〜〜く有名な人のおうちがあるのよね?う〜ん…ドキドキしちゃうわ♪」
「('-')フフ そうね♪小香は初めてだからd(^-^)ネ!…ちょっと吃驚しちゃうかも♪ もう、先に学友はついてるはずだから…じゃ〜早速行きましょう」
私は今まで見たことのないようなものすごくステキな高層マンションの前に来ていた。香港は貧富の差が激しいとはきいていたけど…ここまですごいとそんな貧富の差がどうとかこうとか考えられなくなってしまったわ…それよりここにはどんな人が住んできるのか、そればかりが気になっていた。
「はい♪小香。到着です。どうぞドアベルを鳴らして頂戴(^。^)」
「へ?あたしが?いいの??誰が住んでるか知らないのに…あ!学友が先に来てるから大丈夫か(^○^)」
…♪♪リンゴ〜ン♪♪リンゴ〜ン♪♪……カチャッ…
「うっわ〜(^○^)いらっしゃ〜い♪ 待ってたよ〜 さ・さ・早く入ってよ♪ もう皆沢山集ってるんだ。ほら〜 どうしたの?早く早く!!」
……(@_@)へ?何?どゆこと??…ここって…
「有有…ここ…」
「('-')フフ そうよ…兄の家なの。小香が大好きなアーロンのおうちよ♪」
「ええええええええええええええええ!!そうだったの??今日のパーティってアーロンのおうちのパーティだったの??」
「そう♪なぜか兄が急にこの日にクリスマスパーティをしたいって言ってネ…だから私も学友もこの日のチケットを取ってもらって演唱會も行くことにしたのよ。小香も一緒にって思ったけど先にチケットを持ってたから、だまっておいて驚かそうと思ったの♪」
「そ・そ・そうだったの…あああ吃驚…心臓がまだバクバク言ってるわ(-_-;)」
私はみんなにナイショでアーロンと2人で逢ってることをまだ言っていなかった。しかし、2人で逢ったのはレストランだけなのでこのアーロンが済む豪華なマンションには来た事がなかった。
アーロンのおうちの中には学友や呉 奇隆・紗和夫妻の姿もあった。
その他にも、TVや電影、雑誌で見かける有名な明星が本当にたくさんいるのには驚いた。
「小香、遅かったね?演唱會で何かあったの?」
「ううん…違うの…あまりの感動に余韻に浸っていたかったの…心配掛けてごめんね、、、学友…」
「そっか〜。それならいいんだけど…ちょっと心配だったんだよ。例のこともあるしd(^-^)ネ!」
「うん(^_^)ごめんなさい…今度からは勝手な事はしないから…」

しばらくしてアーロンがニコニコ顔でこっちにやって来た。
「小香♪今日はね、小香の為にパーティを開いたんだ♪」
「へ?そうなの?どうして??」
「('-')フフ 決まってるじゃないか♪この間の話のこと…いいことを思いついたんだよ」
「いいこと?いいことって??」
…あ…しまった!ーー; 私は何気なくアーロンが話し掛けた瞬間に返事をしてしまった。
「え??どういうこと??どうして小香とアーロンが知り合いなんだ??」
学友と有有は驚いたように私たちを交互に見ていた。
あああああああ…アーロンたらーー; どうしてくれるのよ!!…まあ私も悪いんだけどね…
「ええええっと…えええええっと…それはね…」しどろもどろの私を見てアーロンは一言…
「('-')フフだってお友達だもん♪」
「あっぎゃ〜〜〜〜〜」
私は声にならない声を出した。
…そのまま私は学友と有有に抱きかかえられるようにプライベートルームへと連れて行かれた。
「あら…ステキなお部屋♪」
こんな浮かれた私を横目に学友は顔が怒っていた…
「どういうことか説明しておくれ!小香!」
「え〜っと…この間紗和さんに連れられてスタジオに連れて行ってもらったときにね…うんぬん・かんぬん…」
しどろもどろにことの次第を話した。
「ふう〜ん・・そう言うことなんだね…知り合ったきっかけはわかったよ。でもね、さっきの一言が気になるんだけど…」
「へ?一言??」
「そうだよ!アーロンが言った一言…」
「なんだっけ?」
「いいことを思いついたってことだよ」
「あ!そっか…私も何のことかわかんなかったんだわ…アーロン??どういうこと?」
「ん??小香が言ってたじゃないか♪人を探してるって♪」
…最悪だった…私はもう学友の顔をまともに見ることはできなかった。…アーロンのばか!!
「小香!!!!!何を言ったの!!」
「いえ…何も…」
「学友!そんなに小香を怒らないで!僕が嫌がってる小香から聞き出したんだよ。だって大切な人を探してるんでしょ?僕も役に立ちたいじゃない♪d(^-^)ネ!」
…私は天然のアーロンのことをこ時ほどいとおしいと思ったことはなかったわ..あああああアーロン大すきよ♪
「そ・・・そっか…そうだったよね…でもまあ〜あまり人前では言わないほうが…ね…」
学友はばつが悪そうにもごもご言っていた。
有有はただ下を向いて肩を震わせて笑っていた…

「きゃーーーーーー!!!!」
そのときであった…ゲストルームで大きな悲鳴が聞こえた。
「何?」
そう思った瞬間アーロンの姿はすでにゲストルームに向いていた。
「あ!あの人が!!いきなり…」
そういって震えながら呉 奇隆にしがみついている紗和さんの姿があった。その指先の方向を見た瞬間に黒い影は消え去って行った。
一瞬アーロンの顔に翳りが見えた気がした。しかし何事もなかったようにアーロンは
「紗和さんごめんね♪大丈夫??なんだか知らない人が紛れ込んじゃったみたいだね…どこも痛いところはない?」
「あ、アーロン…ええ…大丈夫よ…呉 奇隆くんがいるから…ね、ダーリン♪」
「う・うん…何もないよ…大丈夫だよ…さ!紗和!あっちで飲みなおそうよ…」
「うん(^_^) そうしましょう♪ダーリン」
そういいながら紗和さんは私に(-_^)-☆パチッとウインクしながら<大丈夫よ!>といわんばかりに微笑んでいた。
…どうしたんだろう…今日はパーティのことを知ってる人間は限られているはず…もしやアーロンの知り合いなの?それとも…
私は落ち着かなかった。キット学友も有有も同じ同じ気持ちだろう。アーロンは??アーロンはもしや犯人がわかってるの??なんだかそんな気がしてきた。

ゲストルームはすっかり最初の賑わいを取り戻し大勢の明星達が話しに花を咲かせていた。
こんなに楽しいクリスマスパーティのはずなのに、私は心から楽しめないでした。
「小香…もう気にしないで…兄もしっかりホスト役を務めてるわ。今日はパーティが楽しく成功するように一緒に盛り上げてあげて頂戴…お願い…」
「有有..ごめんなさい…そうね…うん(^_^)わかったわ♪私もアーロンのところへ行くわ♪」
私はいそいそとアーロンの側へ走っていった。
…しかし…そのとき有有が今まで見たこともないような悲しそうな顔をしていたことには全く気がつかなかった。

第22話  有有の彼?

あのクリスマスパーティ以来、私はアーロンとはとっても仲良しになった。(…と言ってもラブラブな関係になったわけではないのだが(-_-)) みんなの前でも普通に話も出来るようになったし、学友や有有に隠れて合う必要も無くなったからだ。
しかし、勿論アーロンは例の事件のことに私も一役買っていることは全く気がついていなかった。うんうん(^_^)そこがアーロンのいいところ??なのよ(爆爆)
最近は大手を振ってアーロンのスタジオにも遊びに行ってはスタッフとも会話するようになり、交友関係もだんだんわかってきた。そこで不思議に思ったことはすぐに学友に相談して問題が無いことを確認していた。
そんないつもの相談をするために、久しぶりにあの家庭的なレストランにも行くことになった。

「('-')フフとっても久しぶりだわ♪やっぱりここは落ち着くから好きだな〜」
「そうだね。みんなこの店が本当に好きだよ」
「ねえ〜学友…最近ちょっとだけ気になることがあるの…」
「何??スタジオで何か問題があったの?」
「ん〜そう言うのではないんだけど…」
「…どうしたの?」
「実は…」
私は、この間のクリスマスパーティで犯人が去っていく後姿を見ていたアーロンの淋しそうな顔を忘れられなかったのだ…
「別に、何もたいしたことではなかったとは思うんだけど…わたしの勘違いかも知れないんだけど…」
私は気になっていたことを話し出した。あまり気にしなかったことだけど、スタッフの人たちと一緒にいるときにパーティの事件が話題に上がるとアーロンはすぐに話を変えて別のことを話し出すような…そんな場面に遭遇したから…
「そっか…アーロンはかなり気にしているんだね…この間のこと…」
「うん…私にはそんなふうに思えるの。」
「しかし、あれ以来彼には別に変ったことは起こってないんだろう?」
「…そうなんだけど、でも…なんだか気になるのよね(-_-)」
「うん、わかったよ小香。でももう少し様子を見てみよう…何かわかるかも知れないし…」
「そうね。解ったわ。私なりに考えてみるわ」
私は一通りの話を済ませ、またまたおなか一杯になるまでご馳走になって部屋に帰ることにした。
おなか一杯の嬉しさと楽しい毎日を感謝して浮き足立って自宅に向かっていた。
しかし、部屋について驚いた!そこには顔を赤く腫らせた有有がうずくまっていた!

「きゃ〜〜〜〜〜!!!どうしたの!!有有!!何があったの?」
「あ!小香!!ご・ごめんなさい!勝手に上がり込んじゃって…」
「そ・そんなことはどうでもいいわよ!でもどうしたの?有有の白い美しい顔がこんなに赤く腫れて…どうしたの?誰にされたの?」
「そ・そんなに酷いかしら?とにかく逃げてきたの…どうしていいか解らなかったから…とにかく逃げてきたの」
「相手は誰?・男?女?それともわからなかった?何人くらい?どんなヤツだったの?」
私は機関銃の如く聞きまくった!
「…何も…何もわからないの…」
「え?解らない?どうして?どうしてなの?暗闇だったの?後からだったの?不意打ちなの?」
「…本当に…本当に解らないの…本当に…」
…私はそれ以上聞くことが出来なかった…よほど辛い目にあったのか…もしくは…考えたくはないけれど誰かをかばってる??そう…そう考えるしか出来なかった。
「有有ごめん…怖い思いをしたばかりの貴方を追い詰めてはいけなかったわね…ごめんなさい…さ、こちらに来て気分を落ち着かせましょう…コーヒーでも入れるわ…」
それから有有は何も話さずただ口をつぐんだまま一晩を過ごし、明るくなったころ私の知らないうちに一目を避けるように帰っていった。

翌日私は昨日の出来事に合点が行かず、有有にはナイショで一人で有有の行動を手繰ってみることにした。
近くに住む人や有有の行き着けのお店の人からおかしなことはなかったか聞き出していると、意外なことに出くわした。
昨日有有が男の人と二人連れだったことだ。彼女に彼氏がいても不思議でもないし、今まで話しに出ないほうが不思議なくらいだった。しかし、みんなの話だと、とても仲の良い2人だと言うような雰囲気は感じられなかったと言う。有有がその男の人を問い詰めているような、不思議な感じがしたと言うのだ。
問い詰めている?有有がそんな話方をする人ではないことを有有を知る全ての人が知っている。だから不思議だったんだ。
しかも、その男の人は最近たまにTVや雑誌で見かける売出し中の明星だと言うのだ…
有有がアーロンの大変な姿を見て、芸能界に興味がないこともしっているし、芸能界に友達がいるようなそんなそぶりは一度もなかった…
益々合点が行かなくなった私は直接有有に問いただしてみたところで相手のことがわかるわけもなく、その相手の彼を突き止めるべく行動を起した。売り出し中の明星達が集ると言うTV局の歌番組の収録会場を目指したのだ。

第23話  新キャラ登場!

収録会場には見慣れた有名な明星達に混じって、初々しい新人らしきスター候補生達が沢山群れをなしていた。
「ふう…こんなに沢山いちゃ〜誰が誰だかわかんないわ..」
「あれ?小香♪どうしたの?こんなところであうなんて♪」
「あら(@_@) 紗和さん!! どうしたんですか?おやや?今日はご主人も出番があるの?」
「そうなのよ〜 おおおお〜ふぉっふぉっふぉ〜 今日はダ〜リンが司会なのよ〜」
…かなりのハイテンションだったーー;
「そうそう、紗和さん!!最近デビューしたばかりの新人の明星って詳しい?」
「ん?最近の?…ん〜そうね〜最近て言うか今人気の彼ならわかるけどな〜」
「え?誰??誰?」
「え?い・言うの?」
「うん!教えて!!!!!!」
「ん〜詳しいって言うか…ちょっとお気に入りなんだけど・・」
「誰!!!!!」
私は少しでも情報が手に入るならとかぶりつくように聞いてしまった。
「し・小香…そ・そんなに必死に聞かないで…こ・怖いわよ(~_~メ)」
「あ・ごめんなさい…ちょっと必死すぎ(^^ゞ」
「あ〜そっか探し人のことね…でもキット違うと思うんだわ…だって私のお気に入りは謝 霆鋒なんだもん(^^ゞ」
「(-_-;)…そっか…謝 霆鋒か…彼はデビューしたてどころか大人気だったわ…」
「ふぉっふぉっふぉ〜失礼…ダーリンは誰にも負けないくらいくらいかっこいいけど彼も可愛いからちょっとお気に入りなのよ〜あ!でもダーリンにはナイショでね!お願いね♪」
「はいはい…わかりましたよーー; しかし…他には知らないかしら?」
「そうね〜ダーリン以外はあまり目に入らないから…案外知らないかも…ごめんなさいお役に立てなくて…」
「いいえ、どういたしまして…そうよね,私もアーロン以外はあまり知らないかもね…」
そうこう言ってる内に収録が始まりだした。
ダーリンこと呉 奇隆くんがステージに上がり、参加者の紹介をはじめた。彼は少し髪が伸びたようで、前よりちょっと大人っぽくなった感じがした。
まだこれから人気が出るだろうという初々しい明星達が次々に紹介されていった。
…キットこの中にヤツは居るんだ..私は必死で誰も見逃さないようにと一人一人の名前と特徴を控えていた。
すると若手の中でひときわ歓声が大きくなった明星が居た。
陳 冠希…エディソンだ。彼は確か既に電影にも主役を張って出ているような人気スターのはず…しかしキャリアから言うとまだ新人の部類に入るのかも知れない。でも周りの新人と比べると明らかに発するオーラは違っていた。自信に満ち溢れた輝きと、もって生まれた美しい容姿・人なつこさ…彼の人気が出るのが分かる気がした。
「エディソンか…ん〜一応チェックしておくか…」
私は彼も控えておいた。そこへまた一段と歓声が上がった。
「きゃ〜〜〜〜〜〜!!!ニコラス!!素敵よ!かわいい!!!!!!」
俺様、若様、謝 霆鋒様のご登場だ!…なんださっきの歓声は紗和さんの声だったのか(爆爆)
謝 霆鋒と馮 徳倫は仲良く二人一緒に登場だった。会場が割れんばかりの歓声で包まれていた。
「ここから先は新人とはいえないな…まあ〜このあたりでいいか」
チェックはこの辺でおしまいにして少し収録を楽しもうと思っていたときだった。呉 奇隆くんがなんとなく私のほうを見たような気がした。
「さあ、ここからは今日のプレゼンターの登場です♪彼のことを心待ちにしている人がどれだけいるでしょうか。少なくとも僕がここから見えるだけでも100人や200人は居るでしょうね♪さあ!登場していただきましょう!城城!郭 富城!!」
ええええええええええええええ!!アーロンがでるの??アーロンがプレゼンターだったの??
ぎゃあああああああああああ!!早く言ってよ!もっと前まで見に行ってたのに!!
「きゃあああああああああ!!!ああああああああああアーーーーーーーローーーーーーーン!!」
…気がつけば紗和さんと同じ状態になってしまっていたーー;
その上、なんと学友まで登場したのだ!私はもう吃驚だった。
「さあ今日はこれだけではないんだよ!スペシャルプレゼンターとしてはるばる日本から帰ってきてくれた、僕の親友 武も来てくれたよ!さあ武!来ておくれ!!」
な・な・なんと!!武ちゃんが??いや〜〜〜〜〜〜〜〜!!武ちゃんなんて東京の舞台挨拶以来お目にかかってなかったわ!!ぎゃ〜〜〜〜〜!!
もうほとんど本来の仕事を忘れるくらい私は発狂していた。ふと横を見ると紗和さんはなぜかさっきのテンションは感じられず、少しうつむき加減になっていた。
しかし、私は気にも止めずに興奮冷め遣らぬまま収録を楽しんでしまった。

新人達がゲームに勤しみ、中堅たちは得意技を披露する。ベテラン組は歌を披露し宴もたけなわ…と言った頃だろうか、私はふとステージ上のアーロンを探した。
あれ?アーロンたら出番が終わったら帰っちゃたのかしら?ホンのついさっきまで学友のとなりで楽しそうに話していたアーロンの姿が見えなくなっていた。
それとも衣装がえなのかな?でも、もう歌はないはずだし…
私は必死でステージに近づき学友の視界に入るようにゼスチャーをして見せた。
『学友!!学友!!こっちこっち!!ちょっと気がついてよ!!』
『お?小香!今日見にきてたの?あ!アーロンもいるよ見た??』
『そんなこと解ってるわ!そのアーロンてばどこ行っちゃったの?』
『へ?アーロン…おや?いないね…すぐに戻ってくるんじゃない?何も言わずに行ったから…』
『んも〜(`ヘ´) フンダ!!!何で引き止めとかないのよ!!』
『ん?何かあった??』
『何にもないけど〜…学友アーロンの行きそうなところ知らない?TV局の中で行きそうなところ…』
『ん〜そうだな〜控え室は行ってみた?とりあえずそこが一番手っ取り早いと思うけど…』
『そっか、解ったわ…アリガト!』
『あれ?小香…僕の歌次なんだけど…あれれ?聞いてくれないの?…淋しいな…(;.;)ヴヴヴ』
私は学友との話もそこそこに会場を飛び出した。学友ごめんね!今度は絶対貴方の歌を心行くまで聞かせていただくから…
何故か、今、アーロンを探し安全を確認しなければならないような、そんな不安が頭をよぎったのだ。
自然に足は速くなりTV局の中を全速力で駆け抜けていた。



第24話  武との関係

走る・走る…TV局の中を私はとりあえず走った。アーロンが何処にいるかもわからないまま、とりあえず走った。手当たり次第控え室という控え室は全てドアを開け放した。
…あああ…やっぱりいないわ…何処にいるのかしら…何故かよからぬ不安ばかり募っていった…。
しかし、ふと、ある部屋の前で足が止まった。あれは…。
少し開いたドアの隙間から見えた2人の姿…武と紗和さんだった。
え??どういうこと?武と紗和さんて知り合いだったの??私はなんだか見てはいけないような場面に出くわしてしまったと、何故か心の痛みを覚えた…。
今度、機会があれば紗和さんに今日のことを聞いてみようと思った…。
しかし、その機会はあまりにも早く来た。2人が私に気付いたのだ。
「あ!小香!」
「あ…こ・こんにちわ。お・お元気ですか?」
…何と間抜けな挨拶をしている私(-_-;)
「紗和?彼女は誰?」
武が怪訝な顔をして私の素性を知ろうとしていた。
「あ、彼女は小香…日本から来ているのよ。アーロンが大好きでね♪」
「な・何を言ってるの!!紗和さん!」
「あ、そうなの?アーロンのファンだったんだ」
それを聞いて武は少し温和な顔に戻った。しかし、紗和さんは私の不思議そうな顔をみて、ポツリと言った。
「彼と知り合う前に…武とは…」
彼…彼とは呉 奇隆くんのこと…彼女の言ったその一言で私は全てを理解した…しかし、何もわからない振りで、
「あ!そうなんだ!すっご〜〜〜い!昔からの武ちゃんと知り合いだったんですね?いや〜〜日本のファンが聞いたら吃驚しますよ!いいな〜お友達だなんて(^。^) 私もそんなかっこいいお友達ほしかったですよ。あ!今、ちょっと急いでるのでまたあとでお会いできたら〜では〜」
…なんて脳天気なことを発して2人の顔を見ないようにしてその部屋を出て行った。紗和さんはまだ何か話したい振りだったが、私は今、聞きたくはなかった。とても複雑な経緯があるように思えたから…知らないままの方がいいのかも知れないと思ったから…。
 私は武と紗和さんの二人の姿を見て、ふと彼女達を思い出した。彼女達とは…吾朗くんと陽子ちゃん…。駆け落ちのようにしてこの香港を去っていってしまった二人。今はどうしているのだろうか…。この香港から姿を消した1週間後、日本の芸能界では超人気アイドルの失踪が大騒動となっていた。反対にその騒動を香港の新聞で知った私。あれ以来陽子ちゃんからの連絡は何もなかったが、しかし、2人が関係者に発見されたという報道もないので2人無事に暮らしているのだと信じている。武と紗和さんも彼らのように大きく報道されていたら、今とは全く違った生き方をしていたかも知れない。どちらが幸せかわからなかったが、しかし、どちらも2人が選んだ生き方なので私にはそれぞれの幸せを祈るほか何も思いつかなかった。いつか私もアーロンとこんな生き方を選択するときが来るのかしら…
「あ!」
私はふと我に返った。
そうじゃない!私はアーロンを探しにここに来たんだ!のんびり思いにふけってる場合ではなかったんだった。
そして私はまた走り出した。

…しかし、私が勝手に紗和さんと武の関係を勘違いし、納得して走り出していた頃、紗和さんは私の頭の中を読んでいた。
「あ〜あ…小香はきっと私と武のことを…」
「ん?どうしたの?俺と紗和のことを何か勘違いしてる??」
「キットね(爆爆)彼女は感がいいんだけど、ちょっとおっちょこちょいかもd(^-^)ネ!」
「まあ〜いいじゃないか、何も悪いことはしてないんだし…」
「そうね。ダーリンに知り合うきっかけが貴方のイベントだったなんてね♪」
「はっはっは〜そうだったよね。しかし俺には何の興味がなくって、一緒に遊びにきていたニコラスに一目ぼれなんて…俺も情けないよ(爆爆)」
そんなことに私は全く気付くはずもなかった。←情けないヤツ(-_-;)



第25話  2人の時間…



楽屋の大きな通路を曲がろうとしたとき遠くで大きな歓声が聞こえた。収録が終わったようだった。
「ん〜大変!早くアーロンを探さないともっと探しにくくなっちゃうわ」
私はかなり焦っていた。ただでさえ慣れない楽屋道で何処にいるかわからないアーロンを探すことがこんなにも大変だったと今改めて思ってしまった。
しかし、なんとしても探さなきゃ!!ただそれだけで走っていた。
…ふと、廊下の奥の大道具の物陰に目が止まった。
「ん?…何?」なんだか人の気配…
え??誰?何?えぇぇぇぇっっっ!!!!アーロン!!!!
「ど・ど・どうしたの??アーロン!何があったの??」
「あ!!し・小香…お願いだから…このことは誰にも言わないで…静かにしておいて…」
「静かにって…でも…この傷…どうしたの?誰がこんなことしたの??ね!どうして??」
「…お願いだから…お願いだから…静かに…誰かに聞こえちゃだめなんだよ…小香、ちょっと手を貸して。ここから連れ出してほしいんだ。皆にこの姿を見られるわけには行かないんだ…。」
「そ・そうね!病院の方が先決だわ!」
「病院はだめだよ…お願いだから別の場所へ…」
そういってアーロンは私の腕の中に崩れ落ちた…
ゆ・ゆ・許せない!!!私は抑えきれない怒りを何処にもぶつけることを出来ず、ただただアーロンを抱きしめていた。

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「…気分はどう??目が覚めた?」
「あ…うん…ここは?」
「え?あぁ、私の部屋なの。ちょっと汚いけど(^^ゞ アーロンのマンションにとも思ったんだけど、もしやまた変な人が来たりしたら困るし…誰も知らないここが一番安全かとも思って…」
「小香、ありがとう。ごめんね、迷惑かけて…」
とっても穏やかで、そしてまっすぐな瞳。誰からも愛されるこのアーロンをこんな目にあわせる人間て…アーロンの優しさと心からの言葉を耳にし私は嬉しくも、悲しくもなってしまった。
「小香…今日の事は…」
「ん?今日のことは…心配しないで。今は何も考えないでゆっくり休んで頂戴。でも本当にお医者様に行かなくて大丈夫?それともかかりつけのお医者様に来てもらうとか…あ!有有に頼んで呼んで貰ったほうがいいかしら?」
「いや、いいんだよ。大丈夫だから…有有には絶対知らせてほしくないんだ…」
…何故かアーロンの顔が淋しそうになってしまった。
「うん…わかったわ。でも…もうお仕事は無いの?今日はこれで終わりなの?あ…余計なことは考えない方がいいわよね。」
…アーロンがこんな状況なのに何故か私は嬉しい気持ちで一杯になった。無防備で私を信頼しきってくれている…そんな姿が嬉しかった。なぜかまともにアーロンの顔を見ることが出来なくなってしまって、台所に向かいただひたすらにアーロンの為に料理を作り始めたのだった。

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…一方会場では姿の見えなくなった私とアーロンを探して学友がウロウロしていた。
「あれ??おかしいな??小香もアーロンも何処に行ったんだろう…小香はすごく慌てていたようだったし…アーロンは途中から姿が見えないし…エンディングにいないなんて珍しい事だし…もしや?…」
学友はなぜか急に不安を感じた。しかし、売れっ子の学友は次のスケジュールの為にその場を離れるわけには行かなかった。
「ん〜どうしたらいいんだ…なんだか嫌な予感がするんだ…電話…あ!(-_-;)そっか、小香には持たせてなかったんだ!ん〜誰か、誰かいないのかな??」
学友は私が必ず誰かといっしょに行動すると思い込んでいたので携帯電話を持たせていなかったのだ。
イライラしながら学友は次の仕事場へ向かわなければならなかった。
スタッフと一緒に会場を後にしようとして楽屋口に向かう通路で学友はキラッと輝く物を見つけた。
「あれ?これ、どこかで…あ!これは!」
学友が手にしたものはいつもアーロンが身に付けていたペンダントだった。
「どういうことだ?どうしてこんなところに?」
学友は鎖のちぎれたペンダントを握りながら足早にその場を立ち去った。



第26話  再会



次の仕事場に着いた学友はすぐさま有有に電話をかけていた。
「有有?そっちに小香は行ってない?」
「あら?学友さん?え?し・小香は…昨日会いましたけど…今日は…」
「そうか…ん〜…もしそっちに行くことがあったらこっちまで連絡するように言ってくれる?」
「あの…何かあったんですか?」
「いや…今日の収録に顔を見せてたんだけど、いつのまにか姿が見えなくてね…アーロンの姿も一緒に見えなくなったんで…ちょっと気になってね」
「え?兄も?」
「うん…それに…有有も知ってるだろ?アーロンがいつも身に付けていたあのペンダント…それが楽屋近くで落ちていたんだよ…大切にしていた物を落とすなんて…アーロンには考えられないし…」
「…え?…まさか…」
「どうしたの?何か心あたりがあるのか?」
「い・いえ…別に…わかりました…何かあればすぐ連絡します…では…」
「あ!有有!!もしもし??…」
・・・どうしたんだろう…いつもの彼女らしくもない…やはり何かを知っているのか?しかし…ああ!!今日のスケジュールほど憎らしいと思ったことはないよ!!!
有有の声を不信に思いながらも学友は次のステージに立たなければならなかった。

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一方、自宅で学友の電話を切った有有は体を強張らせていた…なぜか体の震えを止めることができなかった。
…小香は私の昨日のことを…そうだわ、きっと昨日の私の姿を黙って見過ごすはずはない。何か原因を探りに動いているんだわ…ああ、小香!小香の身に何も起こっていなければいいんだけど…だけど兄も一緒に姿を消した?どういうことなの?2人の身に何かが起こっているの?まさか…彼が…2人にも何かしているんじゃ…まさか!!
今まで震えていた彼女の小さな肩が嘘のようにピタリと止まった。そして何かを決心したようにベットルームに向かっていった。枕元に飾ってあった、豪華なベットには不釣合いの小さな古い写真立てを掴み、有有は駆け出していった。

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アーロンはぐっすり眠っていた…安心しきっているんだ…。私が出した食事にも目をくりくりさせながら満足して“美味しい!”を連発しながら全て平らげてくれた。しかし、いつものような元気と目を見張るような食欲は感じられなかった。
…精神的にも肉体的にもきっと疲れきっていたのね…本当に何も考えないでゆっくり…ゆっくり休んで頂戴…私はアーロンの長いまつげを見つめながらそうつぶやいていた。
 しかし、傷は浅いとしても…アーロンは香港を代表する超・超大スターだし…傷が残っても大変だわ。ん〜お医者様を呼んじゃ〜だめっていわれても…ほって置くわけにはいかないし…何か方法を考えないと…ん〜どうしよう…私は途方にくれてしまった…
 
“リンゴ〜ン”その時、玄関のチャイムが鳴った。
え?誰?有有?学友?私の家を知ってるのはこの2人だけのはず…だけどこの2人にはアーロンのこの姿を見せえる訳にはいかないの!
私は気配を消してドアに近づき外の様子を伺った。
…あれ?女の人だ。でも有有とは違うシルエット…紗和さんでもないわ…2人以外に私を知る人なんて…
私は用心して居留守を決め込んだ…しかし、“リンゴ〜ン リンゴ〜ン リンゴ〜ン…”のんびりした玄関のチャイムは3度続けて音を発てた。なんだ??居ないって言ってるでしょ!(…そんなことはいえる筈はないが…)
もう一度外の様子を伺うとなんとそこには!!
「陽子ちゃん!!」
私は言うと同時に力いっぱいドアを押し開けていた。
「あ〜kaochan♪ ('-')フフ元気??な〜んだ居たのね?居ないのかと思っちゃったわ♪」
「な・な・な・な・な・な・・……」
私は驚きのあまり声にならなかった。
「な・な・何やってんの!!!どこに行ってたのよ!!ちょっと!!陽子ちゃん!!」
やっとの思いで、私は言葉を口にした。しかし、相変わらずの陽子ちゃんは
「そんなに驚かないでよ。ちょっと旅をしていただけよ。」
言葉少なにおっとりと話す陽子ちゃんは以前の元気が無くなったようにも思われた。
「kaochan…今、お邪魔してもいい?お話がしたいんだけど…」
「うん!勿論いいわよ…あ!」
しまった!!今はアーロンが居るんだったわ!どうしよう!
「え〜っと…え〜っと…」
「?Kaocahn?あ…誰か先客があるのね?じゃ〜いいわよ、また出直してくるわ♪」
「い・いや…あの…先客というか…」
落ち着きなく (;_; )オロオロ ( ;_;)オロオロする私は頭がパニックになっていた。
「…小香?小香?誰?何かあったの?」
奥から声がした。大声でバタバタしていた気配を感じてか、アーロンが目を覚ましてしまった。
「あ!な・なんでもないのよ!気にしないで!!」
瞬間的にそう言い放った私は心臓が飛び出そうになっていた。私の落ち着きのなさはピークに達していた。陽子ちゃんは“やっぱり〜はは〜ん♪”と言った風な顔を私に向けてうっすら笑みを浮かべていた。きっと今の私の顔は世界中のどのりんごよりも真っ赤っ赤になっていたに違いない…あああああ恥ずかしい!!…アーロンのばか!!
ん?待てよ??そうだ!そうだわ!!きゃ〜〜〜〜〜〜〜!!いいことに気がついたわ!そっか陽子ちゃんだ!陽子ちゃんが居たんだわ!
その瞬間、私は陽子ちゃんの手を掴み思いっきり部屋の中に引きずり込んでいた。



第27話  ナースな陽子ちゃん♪



「ちょっちょっちょっと!kaochan!どうしたの??お客さんがいるんじゃなかったの?」
「いいのよ、気にしないで!こっちに来て!」
アーロンが眠っている私のベットまで陽子ちゃんを引っ張っていった。
「本当に…ka・kaochan!私だってそんな無粋なことしたくないってば〜(~_~;)」
「はあ?無粋?いやだ!そんな事はあるわけないじゃない!もう、勘違いしないでよ〜私が恥ずかしくなっちゃうわ(-.-)」
私は真っ赤になりながら、陽子ちゃんの腕をバンバンたたいていた。
「小香?その人は…?」
「あ!心配しないで、大丈夫よ(^。^)私のお友達なの♪陽子ちゃん♪」
「こんにちわ(^ー^)ノはじめまして♪小香のお友達なんだね。香港にも小香のお友達が居たなんて知らなかったよ。」
「えええええええ?(@_@)まさか!!!ええええええええええええええええええええ!!」
陽子ちゃんは驚くばかりで言葉にならなかった。
「ka・ka・kaochan!!!こ・こ・こ・こ・・・・・・」
「よ・よ・陽子ちゃん!お・お・落ち着いてよ!私までうつっちゃうわ(~_~;)」
「だ・だ・だって…この人郭 富城でしょ??どうしてここに居るの?ね・ね・どうして??ねぇ〜〜〜〜〜!!」
「いや、まあ〜あの…深い意味はないんだけど…話すと長いから…今度ゆっくり…ね…」
「え?え?え?で・でも…でも…」
「いいの、いいの!ね、ね、そんなことより!陽子ちゃんてば看護婦さんの経験あったよね?傷の手当てとかものすご〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜く得意だったよね?」
「う・うん…日本では病院に勤めていたわよ?でもどうして?」
「きゃ〜〜!!そうだったよね!…実は…」
そういいながらベットに座っているアーロンの傷を見せた。
「え?どうしたの?この傷…すぐに手当てしなくちゃ!」
そう言うと元看護婦の血が騒ぐのかさっきまでのうろたえは何処へやら、急にテキパキと働き始めた。
「kaochan!きれいなタオルとガーゼ!それときれいなお水を頂戴!後は消毒液ある?」
「はい!はい!ん〜消毒液はないな〜どうしよう?」
「そっか〜じゃ〜近くに薬局ある?これとこれを買ってきて欲しいの」
「へ?あ!うん、すぐに買ってくるわ…」
「じゃ〜これを持っていって!後はこれも。」
「う・うん!」
陽子ちゃんは的確な指示で私に消毒の準備と必要な物を買いに行かせた。
私が買い物から戻って10分ほどたっただろうか…陽子ちゃんは満足げに
「うん!これで大丈夫♪しばらくすると熱を持っていたところも落ち着いてくると思うわ。」
「本当?本当に大丈夫?傷が残ったりしないかな?」
「('-')フフ大丈夫よkaochan♪私を信じて頂戴!2〜3日で痛みもなくなるわよ」
「ん〜〜〜〜〜!!ありがとう!!!!」
私は思いっきり陽子ちゃんに抱きついていた。
「kaochan?抱きつく相手が違うんじゃない?(^。^)」
「ば・ば・ばかなこと言わないでよ!そんなんじゃないってば!!」
私の顔はこの上なく真っ赤で思いきり熱を帯びていることは自分が一番わかっていた。
「多謝!陽子小姐。助かりました(^○^)本当にありがとう。小香、僕、陽子ちゃんにお礼がしたいな!あ!勿論小香にもね♪」
「いえいえ…お礼なんて…ねぇ?Kaocahn?」
「('-')フフそうだね…でも…そういえば陽子ちゃん…私に話があったんじゃ?」
「え?…あぁ…」
「そうだ♪ねぇアーロン!陽子ちゃんも一緒にご飯でも食べに行かない?そこで話も聞けるし…アーロンのお店…はまずいかしら??問題ない?」
「そうだね♪僕のお店だと今は開店前だから大丈夫だよ!陽子ちゃんにもご馳走できるな。」
私とアーロンはちょっと伏目がちになってしまった陽子ちゃんを無理やりお店に連れて行くことにした。
アーロンの傷の手当てが出来たことで私はめちゃくちゃ嬉しくて陽子ちゃんの話の内容がどんな事かなど想像もつくはずもなかった。ただ、少し元気のなくなった陽子ちゃんの身に何かあった事だけは確信が持てていた。
3人は揃ってアーロンのお店に向かった。



第28話  それからの2人…



アーロンの傷を手当てしていた時とは全く別人のように陽子ちゃんは静かだった。うつむいたまま、ただ静かにアーロンが運転する車の後部シートに収まっていた。
その静かな気配を背中に感じて私もアーロンも言葉を発することなく、ただ黙ったまま車の流れに身を任せていた。
しばらくして見慣れた銅鑼湾の町並みが目に入ってきた。
「陽子ちゃん♪もうすぐだよ(^。^)アーロンのお店♪」急に元気な声で話し掛けてみた。
「え?あ!あ〜うん…ほ・本当に?ん〜なに食べようかな?」上の空だった陽子ちゃんから驚いたように返事が返ってきた。
「陽子小姐!何でも好きなもの食べて頂戴d(^-^)ネ!僕のお勧めはね〜」
「あたしはランチのセットだな♪」
「小香はそんなに食べないからな〜え〜っとね〜…」…っていうかアーロンと普通の人とは比べられないのよ…異常に食欲が旺盛なのよ(~_~;)あたしがアーロンと同じだけ食べれるわけ無いでしょ〜…そんなことは言えないけどね(爆爆)
そうこうしているうちにアーロンのお店の前に到着した。
「え?ここ?このビルの中?」
「うん♪ここの2階なの…ちょっとお姫様気分が味わえるのよ〜ここの玄関(爆爆)」
緑色の大理石で彩られたビルの玄関ホールをいつもくるたびに私はお城のようだと感じていた。
「うっわ〜すごいね〜本当にお姫様みたいだわ〜」
陽子ちゃんも納得して目を丸くしていた。
「ささ、2階だよ♪上がって上がって!」
アーロンに促されてエスカレーターを上がりお店に入って行った。
ちょうどランチタイムのお客様が全部引けて誰もいない時間帯だった。見覚えのあるスタッフの一人がにこやかに私たちを出迎えてくれた。
アーロンには『どうしたの?その傷…?』といった風なゼスチャーをして見せていた。厨房からは食器を片付ける音がかすかに聞こえていた。
初めて訪れた陽子ちゃんは楽しそうに店内を見回している。アーロンのCDやグッズが並ぶショウケースや雑誌が置かれた本棚、テーブルの上のお花に到るまで珍しそうに手にとって眺めていた。
お店の中では大きなスクリーンでアーロンのMTVが映し出され、音楽が流れ、体中でアーロンを感じていられる、そんな雰囲気一杯のお店なのだ。
奥のレッスンスタジオでは次のステージに向けての新曲の新しいダンスの振り付けが考えられ、レッスンが開始されているようだった。
「ちょっとスタジオ見てくるね。小香、陽子小姐の分も頼んであげてね。」
そういってアーロンはスタジオに入っていった。
「え?アーロンの分は??」
「僕はお勧め全部!!(^○^)」
スタジオの中から元気な声が返ってきた。
「え?(~_~;)ぜ・全部?はいはい…解りましたわ。」
陽子ちゃんとアーロンの料理を決め、注文した。
私と陽子ちゃんはやっと席につきお互いの顔を見合わせた。
「で?私に話って…」
私は陽子ちゃんの顔を見るなり問い掛けた。
「…ん…実は…」
陽子ちゃんは私に話しながら目を逸らし、うつむいてしまった。
「…ん…実は…私と吾朗君のことなの…」
「え?吾朗君…あ…」
吾朗君は陽子ちゃんの彼で日本で有名な芸能人だった人だ。ある日この香港で陽子ちゃんと2人姿を消し、日本でも新聞をにぎわしていたのだ。しかし、ここ最近香港の新聞でも吾朗君の芸能界復帰が取りざたされていたのを思い出した。
「そうだわ…吾朗君、仕事復活したのね?」
「うん…そうなんだけど…」
「あ!ということは…今は日本?あら?陽子ちゃんも日本に住んでるの?」
「ん…うん…というか…」
とても話しにくそうに陽子ちゃんは口ごもった。
「私たち…別々の道を歩くことにしたの…」
「…え?!別々って…」
「うん…サヨナラすることにしたの…というか、もう、サヨナラしてきたの…」
「ええええええ??ど・ど・どうして??別れちゃったの??」
「うん…彼の事は今でも好き…だけど、仕事をしている彼が好きなの…私のこととても大切にしてくれてるけど…でも…新聞や雑誌…芸能界のことを目にするたび仕事に戻りたくなってる彼の気持ちが手にとるようにわかったの…」
「でも…二人一緒でも仕事には戻れたでしょ?だめなの??愛し合ってるんでしょ?」
「うん…彼は別れなくても平気だって言ってくれたわ…いつも私のことを愛してるとも言ってくれた…でも…でもそれじゃ本当の彼には戻れないと思ったの。」
「本当の彼?」
「そう…日本の芸能界で光り輝く彼は、皆からの憧れと羨望の眼差しと、そしてが彼皆を愛する気持ちが彼自身を美しく、素敵に見せているのよ。私は普段の彼も大好きよ…ただただ私だけを見つめつづけてくれる、私だけを愛してくれる彼も大好き。だけど…だけどそれだけじゃ彼は本当の彼の美しさには戻れなかったのよ…」
「…」私には言葉が思い浮かばなかった。陽子ちゃんは今まで思いつめてきた自分の気持ちを一気に吐き出すように話しつづけた。
「こうすることが決して良い事だとは思わないわ、反対に彼を失望させて光を失うことになるかもしれないわ…。でもそれでも、本当の姿を取り戻す彼を見たいの。本当にその後、彼が本の姿を取り戻してくれてそしてまた私の所に帰ってきてくれるのなら…」
「…帰って来てくれるのなら?」
「いいえ…帰って来てくれなくても…私は何時までも彼を待ってる…何時までも待ってる…」
「え…だったら…だったら…」
陽子ちゃんはめい一杯元気に振舞っていた姿が一瞬で崩れ、最後の言葉は聞き取れないくらい小さく震えていた。
…私にそんなことができるのだろうか…。そんな強い行動が取れるのだろうか?
今、ここを離れて一人日本に帰れるのだろうか…。アーロンと離れて自分ひとりの生活に戻れるのだろうか?陽子ちゃんの姿に自問自答していた。
「お待たせしました。」
美味しそうな匂いと一緒にスタッフが料理を運んできた。
私は運ばれた料理をただじっと見つめるしかなかった。


第29話  学友の苦悩…



「あれ??小香?もう全部そろってるよ?早く食べなきゃさめちゃうよ♪あ?それとも僕を待っててくれたの?ごめんね〜♪」
スタジオから出てきたアーロンの元気な声で私も陽子ちゃんも我に帰った。
「あ!今呼びに行こうと思ってたの!匂いで嗅ぎ付けちゃったのね?やっぱりアーロンの嗅覚はすごいわね(爆爆)」
アーロンが席に着いたとき、私と陽子ちゃんは目が合った。そしてさっきまでの二人の話は二人だけの心の中にしまっておいてね…そんな空気が流れた時、陽子ちゃんは一言だけポツリと話した。
「…kaochan…自分の想いに後悔だけはしないでね…私は後悔してないから…」
私は思わず席を立ってしまった。
「え?小香?どうしたの?ご飯食べないの??」
「うん?アーロン先に食べてて!ちょ・ちょっとお手洗い…ごめんなさい…」
私は思わずトイレに駆け込んでいた。次から次から流れ落ちる涙を止めることが出来なかった。
…後悔していないなんて絶対にうそ!嘘に決っている!それならどうして…どうしてあれほど辛い顔をしているの?ね?陽子ちゃん…そうすることが彼のためだというの?そのために自分が犠牲になるの?それで本当に彼のためなの?彼は喜んでいるの??
きっと・・・きっと誰かに引き裂かれたのね?そうなんだよね?だけどそれを乗り越えられなかった自分を責めているのよね?ね?陽子ちゃん…
…何分たった頃だろう、陽子ちゃんの声が聞こえた。
「kaochan?大丈夫?アーロンが心配してるわ…出てこれる?」
「あ…ごめんなさい・・・す・すぐに出るから…」
「ごめんなさいね…私の話したことが…」
「ううん…違う…私ならどうするかと思って…そう考えたら頭の中でぐるぐるいろんなことが回りだして…ちょっとくらくらしちゃったわ…へへへ…」
そういいながら私は陽子ちゃんと一緒に席に戻った…あれ??
「遅いよ〜小香♪早く来ないからこんなに食べちゃったよ〜(^o^)」
「…へ??食べちゃったって…あああああああ!!あたしの頼んだランチ!!メインディッシュが無くなってる!!アーロン!!!!!」
信じられない!!あれほど頼んだランチメニューがきれいに平らげてある!!うっそ〜〜〜。。゛(ノ><)ノ ヒィ
「アーロン!!どうしてそんなに食べれるのよ!出てくる前にも私の部屋でもご飯食べたでしょ??信じられないわ!!」
「あれ??そうだっけ?あ!食べたよね〜でも寝ちゃったし…さっきダンスのレッスンもしちゃったし〜おなかすくんだよ〜♪まあまあ〜足らなかったら追加しようよ〜」
(´ヘ`;)ハァあきれちゃったわ・・・なんだか食べる元気なくしちゃったわ…でもこのアーロンの明るさに私は救われた気がした。
もし…陽子ちゃんと同じ状況になったらどうなるかわからないわ…でも、今は…そんなことを考えずに今側にいられることだけを信じて着いて行こう…たとえこの夢が覚めても…。

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その頃、やっと今日のスケジュールがひと段落して急いで電話を手にする学友の姿があった。
「あれ??どうしたんだ?有有は電話に出ないし、アーロンも通じないぞ??どういうことなんだ?(´ヘ`;)ハァも〜!!小香も全くだめじゃないか!!どこに行ってるんだ??誰かつながらないのか??」
学友のイライラは頂点に達していた。今日1日のことを思い返しながら、それでも仕事を抜けられなかったことを責めながらもアーロンたちのことを心配していた。
なのに…なのに誰一人として連絡が通じなければ、連絡もしてこない!普段は温厚な学友でさえイライラするのは当然だった。

そんなことは全く気にしていなかった私たちは学友がそんなに怒っていることも気がつかずのんびり陽子ちゃんをホテルまで送り、アーロンとのんびりドライブに興じていた。
「はあ〜なんだか今日1日は長かったね…気がついたらもう・・・こんな時間だったんだ〜」
有有の行動を不審に思いスタジオに向かったのは朝の7時・・・アーロンの出番が終わって慌てて探し出したのがちょうど12時・・・陽子ちゃんが家に来たのが3時でアーロンのレストランに行ったのが4時で…(´ヘ`;)ハァもう7時なんだ〜そりゃ〜疲れるわ・・・と大きな伸びをしてアーロンの車の後部シートに目をやると携帯電話が転がっていた…
「あれ??アーロン…携帯電話…置き忘れてる??」
「ん??あ?そう??小香取れる??」
「ん〜出来るかな…ん〜もうちょっと…あ・あいたたた…横腹つっちゃった(爆爆)」
「はっはっはっは〜だめだよ小香〜!ちゃんと鍛えておかないと〜それくらいでつっちゃうなんて…はっはっは〜いいよ!後で取るからそのままで」
…(`ヘ´) フンダ!!!どうせ私は運動不足よ!…あ〜でも…マジで痛いわ〜…ううう情けない(泣)
そんなこんなでまたまた学友からの電話に気がつくのが遅くなってしまったのでありました。学友ごめんなさい!!

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一方有有はとあるマンションの一室に立っていた。
「…あなたなんでしょ?兄を…アーロンを狙っているのは…そうなんでしょ?」
「…有有…何を根拠に?証拠はなんなんだよ・・・どうして俺がアーロンを狙うのさ・・・」
「しょ・証拠って・・・そ・それは・・・でも…でも兄が何も言わずに、誰にも何も言わずに襲われたことを黙ってるなんて…相手があなた以外考えられないわ!」
「お・襲われたって?…そんなことがあれば大騒ぎになるじゃないか!誰もそんなことは言ってなかったよ!君の憶測なんじゃないのか?有有!」
「いいえ…事実よ。兄が一番大切にしていたペンダントが落ちていたのよ…楽屋の廊下でね。鎖がちぎれていたわ…。落としたらすぐに気がつくわ!こんなに大切なものを気がつかないなんてことはありえないわ。」
「なんだよ!ペンダントごときで。忙しかったんじゃないのか?はは〜ん彼女でも遊びに来ていていいことでもしてたんじゃないのか?はっはっは〜アーロンも男だもんな!」
「なんてことを!!」
有有は思わず男の顔をひっぱたいていた。
「あいてっ!!なにすんだよ!なんでおまえがそこまで怒るんだ?どうでもいいことだろ!!」
「…兄の持っていたペンダントは…亡くなったお父様の形見なのよ…なくすはずがないでしょう?」
有有はそのまま言葉をなくしその場に崩れ落ちていった…
「おじさんの形見・・・」
男はただ立ち尽くすしかなかった。
…しばらくして男は有有が手に持っていた古い写真たてに気がついた。
「有有…これは…」
男はその写真を見てすぐさま有有の体を抱き上げた。
「…私はずっと信じていたわ…きっとこうなれることを…いいえ、今でも信てるわ…」
有有は涙一杯の目を男に向けながらそう語った。
「有有…ご・ごめんよ…そんなこと…本気なのか?本当に?…あああ…有有…ごめんよ…」
そういいながら男は涙でぬれた有有の頬をぬぐいながら、愛しく有有を抱きしめ…口づけをした。
有有は男の胸に体をあずけ、ただただ涙を流すばかりであった。
そこには何年もの間、誤解と嫉妬が大きな溝を作っていたことに気がついた二人の姿があった。
そして、全ての物語への終わりを告げる鐘が鳴り始めたのであった。

そのとき…有有のかばんの中で携帯電話が鳴っている事など知るはずも無かった。
学友のイライラは治まることは無かった。・・・(´ヘ`;)ハァ可愛そうな学友であった・・・


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