妹が嫁いで行った。
明神様で挙式の後、汐留で披露宴になった。ボクは披露宴のあいだビデオカメラを回し続けたせいかどうも落ち着かなかった。否、披露宴というやつが落ち着かないからビデオカメラを回して気を紛らわしていたのかもしれない。
挙式の当日を迎え何かが変わったかと言えば確かに色んな事が変わった。まず妹の名字が変わった。住所が変わった。それはきっと大変なことなんだろうが、全て役所の都合くらいにしか感じないボクには些細な事にしか思えなかった。簡単に考えれば結婚なんて馬鹿馬鹿しいくらい簡単だ。どっかの国のタレントみたいに一晩で取り消す事だって出来る。
ボクは挙式の日までの間ぼんやりと色んな事を考えていた。挙式当日に何か特別な事が起き、決定的な変化が訪れるのだろうか。でもボクには何かが変わるとは思えなかった。妹が嫁いで行くのに何も変わらないはずが無いのだが、やっぱりボクにはリアルに感じる事が出来なかった。
これから彼女は彼と新しい家庭をつくって生きて行くことになる。当然、今以上に彼女の顔を見る機会は減ってくるだろうけど、ボクは寂しさも感じなかった。
彼女は生まれた時からボクの妹だった。歳が離れていたせいかもしれないけど、ボクは彼女の独立した自我を尊重していた。否、一個人として信頼していたと言うべきかもしれない。それは今も変わらない。彼女には彼女の世界があり、彼女の人生がある。ボクが何か言うまでも無く彼女は彼女の足で歩いて行くだろう。
彼女が嫁ぐ日になってもボクは彼女にかけるべき言葉を見つけられなかった。でもボクが何故こんなにも平常心でいられるのか理由はハッキリした。本当に単純な事だった。ボクは知っていた。ボクにとっては結婚がもたらす変化なんかよりも変わらない事の方が圧倒的に大きかった。おそらく、間違いなく、ボクが死ぬまで彼女はボクの妹だ。彼女がどこで何をしていようと彼女はボクの大切な妹だ。
ボクは妹に伝えるべきデコレートした言葉を探すのをやめ、穏やかな気持ちで幸せそうに微笑む花嫁衣裳の妹を眺めていた。ひょっとしたら、こんな静かで圧倒的な気持ちのことを愛情と呼ぶのかもしれないと思った。