月曜の夜、聖者が街に帰ってきた。
昨年の大型ハリケーン・カトリーナの直撃で甚大な被害を受けたニューオーリンズの街にセインツが帰ってきた。ニューオーリンズ・セインツはNFLアメリカンフットボールのチームで1966年の「All
Saints Day」に誕生しそれ以来ニューオーリンズの人々に愛され続けている。セインツが本拠地にするルイジアナ・スーパードームは1975年に新造されたドーム型スタジアムだ。
2006年9月25日に行われたWeek3マンデーナイトゲームはセインツにとってもニューオーリンズの街の人達にとっても一年ぶりのホームゲームとなった。セインツを待ちわびた多くのファンは自前で用意した「WELCOME
HOME SAINTS」「DOME SWEET DOME」「WE'RE COMING BACK!」「BLESS
YOU BOYS」「BACK WHERE WE BELONG」等様々なパネルを掲げスタジアムは大いに盛り上がっていた。試合前にはU2のライブがあったり、元大統領ジョージ・ブッシュのコイントスがあったり、スーパードームはまるでスーパーボウルを思わせる雰囲気だった。
そんな空気の中で始まった全米が注目するマンデーナイトゲームはニューオーリンズのファンだけでなく全米がセインツを応援するムードとなった。この日の対戦相手は同地区で共に開幕2連勝の好スタートを切ったアトランタ・ファルコンズだった。ゲームは開始直後にセインツがパントブロックしてそのままタッチダウンするビッグプレーが出るなどして23-3でセインツが勝利し今シーズン3戦全勝とした。不幸にしてこんな日にビジターとして迎えられたアトランタ・ファルコンズはとんだ役回りとなってしまった。
昨シーズン、スーパードームは被災後ドーム自体も被害を受けたが被災者の避難場所として優先利用していた為にゲームに使用しなかった。壊滅状態の街の復興の為に少しでも市民に勇気を与えようと戦ったセインツだったが本拠地でゲームが出来ず3勝13敗という散々な成績で終った。カトリーナの爪痕はニューオーリンズ市民にもセインツにも深く重く突き刺さっていた。しかしそのおかげでセインツは今年のドラフトで全体2位の指名権を得てカレッジのトップRB、レジー・ブッシュを獲得した。
Week3にして早くも昨年の勝ち星に並んだセインツにはこのままスーパーボウルに出場するというアメリカンドリームが早くも囁かれている。今年のセインツはニューオーリンズの復興とスーパールーキー、レジー・ブッシュの活躍など素材には事欠かない。
昨年史上初ワイルドカードからスーパーボウルを獲得した愛するピッツバーグ・スティーラーズにもアメリカンドリームはあった。主役は"THE
BUS"ことジェローム・ベティス。その渾名は彼が大きな体で相手ディフェンスのど真ん中をパワーで突き進む姿がをバスの様だとしてつけられたものだ。派手な空中戦ではなく泥臭い陸上戦を根気強く進めて試合を支配するのがピッツバーグスタイルでその中心をベティスのランが支えていた。否、ベティスの存在こそがピッツバーグスタイルなのかもしれない。彼はNFLのRB獲得ヤード歴代5位の記録を持つ偉大なプレイヤーなのだがスーパーボウルの出場経験が無かった。それで自分のサラリーを削ってまでスーパーの為に一年引退を延ばし現役を続行したのが二年前。しかし念願のスーパーボウル出場を目の前に敗れ失意の引退を決めた。その試合の直後QBベン・ロスリスバーガーがベティスに来年は必ずベティスをスーパーボウルに連れて行くからもう一年現役を続けて欲しいと約束を申し出た。ベティスはシーズンオフに悩んだ末に故郷デトロイトで開催される40回スーパーボウルにもう1度挑戦することを決めた。その年チームは途中で3連敗するなど調子を崩しプレイオフが絶望とされたもののそこからベティスの活躍もあり4連勝してプレイオフに滑り込み、プレイオフ3試合を全てアウェイで勝利し、彼の悲願だった故郷のデトロイトで行われたスーパーボウルに出場した。ピッツバーグは35年ぶりにスーパーボウルを制覇し、ベティスは満面の笑顔でヴィンスロンバルディーカップを手にし全米の祝福の中で「バスはここで終点です」と引退宣言をした。
スーパーボウルを勝つチームにはアメリカンドリームがつきものだ。2001年の911事件のシーズンは“愛国者”というチーム名を持つニューイングランド・ペイトリオッツがスーパーを制覇している。
第32回スーパーボウルのジョン・エルウェイの物語等NFLにはアメリカンドリームとよばれる物語がたくさんある。アメリカじゃなくても奇跡の物語はいくらでもある。でもボクはそれらの物語は後から用意された物語だと思っている。奇跡として語られる物語の絶対必要な要素は“ハッピーエンド”であってそのハッピーエンドを手にした者の物語だけがアメリカンドリームとして語られる。どれだけドラマチックな物語があっても成功が無ければ物語にはなりえない。否、成功があるからこそ物語が奇跡にみえたりドラマチックになったりするんだろう。ピッツバーグのベティスの話をとってみてもデトロイト出身の選手は彼だけじゃないし、スーパー出場の為に引退を一年延ばしたのも彼だけじゃないはずだ。でも彼が成功した結果それらの物語がアメリカンドリームに昇華したんだろう。愛国者の勝利だってそうだ。ペイトリオッツの勝利よりもニューヨーク・ジャイアンツやニューヨーク・ジェッツの方が物語としてはしっくり来るような気がする。
だからといって成功無き努力を評価しない国を非難するつもりは無いし、アメリカンドリームが色あせる事も無いと思う。一つのサクセスストーリーの裏には物凄い数の挫折があり、そんなことは全て承知しているからこそアメリカンドリームは一際輝くのかもしれない。
今年のスーパーボウルはマイアミで開催される。
さてさて、聖者の行進はマイアミへと続き新たな夢を見せてくれるのだろうか。それとも違う夢が用意されるのだろうか、楽しみである。