《編制》 |
《ローリス・ロンバース》
リタルダンド大陸西方、地平に身を埋め行く韓紅の夕日を背に霧雨の舞うナーガールジュナ連邦ボーヴォワールのくたびれた港に、こちらも負けじとくたびれた時代物の光帆船が転がっていた。操舵士は着艇させているつもりらしいが、大小様々な傷と我が物顔の錆、悲壮感で覆われた全長二百メンヒル余りの鈍色の外装は、その塊が光帆船に見える金屑なのか、金屑に見える光帆船なのかを判別し難くさせるに充分だった。
おざなりな石畳にめり込んだ三本の支持脚の中央、船底部分に貼り付いている金属板には〈レイキャヴィック〉と、ぎこちない流書体文字で打ち込まれている。それが船名だと知るものが、光帆船〈レイキャヴィック〉の船長ローリス・ロンバースと、彼以下数名の船員以外に果たしてどれほどいるであろうか。
穿たれた丸窓から閃灯の明かりと遠吠えにも聞こえる潰れた濁声が、程なく夜を迎える人気{ひとけ}の無い港に洩れ出している。
「怖じ気付いたってか? はっ! そうじゃあねえよ、そうじゃあ……。負ける気はしねえよ、ああ、これっぽっちもだ。だがな、勝てる気もしねえんだよ、ちっとも、な」
吐き捨てるように、或いは自問するかのように云うと、〈レイキャヴィック〉船長ローリス・ロンバースは大ぶりの木椅子に反り返り、鼠色の頭髪を乱暴に撫で付ける。船体の最前部にしつらえた板張りの瀟洒な娯楽室には〈レイキャヴィック〉の船員が勢揃いしていた。