『だれかを好きになった日に読む本(きょうはこの本読みたいな1)
アンソロジー/偕成社(1990)
1997読
1999.7.15記

ざぼん
ざぼんの実


 「きょうはこの本読みたいな」という結構ポピュラーな児童文学アンソロジーの1冊目である。テーマは「初恋」。表紙も、黄色い猫とおぼしき物体が、背中に4羽の小鳥縦にを乗せて、うっとりとしている、という図案のもので、なんとなくファンシーだ。

 が、この表紙に騙されてはいけない。これが異形コレクションよりも異形な、ギャフン・アンソロジーなのだ。

 収録作は、以下の通り。

 執筆陣の面子だけを見ると、確かに錚々たるものではある。が、個別の作品を1つでも知っている人なら、「なぜこれが?」と思うはずだ。

 そもそも、私がこのアンソロジーの存在を知った時もそうだった。川島誠の最初の単行本(入手不可)の表題作にもなっている「電話がなっている」が、この『だれかを好きになった日に読む本』に収録されているとメールで教えてもらったときのことである。事前にこの短篇を図書館から借りた単行本『電話がなっている』で読んだ私には、どう考えても小学生がだれかを好きになった日に読むものとしてふさわしいものとは思えなかったのだ。

 ちなみに「電話がなっている」のあらすじは、

 近未来の管理社会らしき世界が舞台。子どもは中学三年生の年末の試験で格付けされ、それによって以降の人生が決まる。主人公の少年は、幼なじみの少女の協力でB-2も難しいといわれていたにも拘わらず、A-4のランクを手に入れた。人よりもちょっと豊かな生活を送れる約束を手に入れたのだ。今日の食事はお祝いで、食卓には貴重な肉料理が並ぶ。その後ろで、電話はなり続ける。君――、少年を愛してくれた少女からの電話だと分かっているのに、少年は電話を取ることが出来ない。家族も。なぜなら、少年のA-4は、彼女に対する許されざる裏切りの結果なのだから。

 裏切りに至る過程もすごいんだが、ふさわしいとは思えないでしょう、とても。実際、何かの間違いでは?と返事してしまったほどだ。

 だが、実際に川島誠「電話がなっている」は収録されていた。目次を見ると、川島誠の名前は妙に浮いているような気がするが、順番に読み進むにつれ<=重要、「電話がなっている」が収録されていることなど、ほんの些事にすぎないくらい、スゴイ構成であることに気がついた。

 ああ、初恋に胸をときめかせた小学生が、この本を読んで蒼ざめ、震え、ひきつる様が目に浮かぶようだ……。

 そう、表紙の猫がうっとりしているのは、今4羽の小鳥を食べることが出来るからであったのだ。縦に並んで、串刺し状だしね(^^;。

 というわけで、ギャフンしたい人にはお薦め。読んでみてみれ。


ざぼんの木
ざぼんの実

ざぼん
ざぼんの実