『風車祭(カジマヤー)』池上永一/文芸春秋(1997)

2000.01.01読了
2000.01.10記

bk1 / ISIZE / 旭屋 / Jbook / BOL / 紀伊 / amazon
池上永一の著書をbk1で検索

 石垣島に住むフジは、来年迎える数え97歳の誕生日だけを楽しみに生きてきた。97歳の誕生日には長寿を祝う祭「風車祭(カジマヤー)」が催され、その時は島中でただ一人の主役になれるからだ。
 しかし島にはもっと長く生きる女があった。246歳のピシャーマである。彼女は18歳の婚礼の日に叢で石になってしまい、次いで起こった大津波のために肉体を失った盲目の魂(マブイ)だった。ピシャーマは完全に死ぬことを望みながら、6本足の豚の妖怪ギーギーと、アラピキ橋のたもとで暮らしていた。
 旧暦8月15日節祭、フジの娘トミの元に遊びに来た高校生武志は、ピシャーマの声を聴いてしまったことから、おかしな少女郁子と共に魂を落としてしまう。魂を落としてしまった人間は1年も生きられないという。しかしピシャーマに恋してしまった武志は魂を取り返すことをためらっていた。魂を拾ってしまうと、完全な人間となり、ピシャーマと話すことも、触れることもできなくなるからだ。一方で豚妖怪にも惚れられてもいたのだが。
 だがピシャーマはそれどころではなかった。神から島が滅びるというお告げを受けたのだ。予言された滅亡の予兆が、ピシャーマ、ギーギー、武志、フジの≪活躍≫によって、次々と引き起こされ……。

 純朴で素直な高校生武志と、オージャガンマー以上にパワフルな老婆フジ、案外まともに見えて妖怪であるという自覚に乏しい分ハタ迷惑なピシャーマ、豚でありながら一途で健気で頑張りやさんのギーギーが巻き起こす超ドタバタ活劇。

 舞台は『バガージマヌパナス』に引き続き、沖縄。私が知っている「日本」とは明らかに違う風習、伝統が息づいているその土地は、まるで異世界だ。でも、地続きだという感覚が確かにある。異世界のように見えて、異世界ではない、この世界の続きに確かに存在する「沖縄」。私は沖縄には行ったことがないが、そういう感覚が、池上永一や目取真俊の作品の魅力だと思う。

 このお話は言ってしまえば武志をめぐる切ないラブストーリーである。武志とピシャーマの報われぬ恋にからんで、豚妖怪ギーギーの武志に対する一方的な片思いの切なさ(ピシャーマよりもこっちの方がハイライトである)、武志の魂が勝手にアプローチしてしまった睦子の悲劇(?)、これら人間×魂の恋愛談は、想像通り思わず笑ってしまうような無茶苦茶なものばかりなのだが、ラストには思わずホロリ。超一流のラブコメディであると言えよう。

 そして当然、破天荒おばぁフジを筆頭とする老婆たちの活躍も見逃せない。私的にはトミにももうちょっと活躍してほしかったような気がするが、ツカサやユタ達がそれを補ってあまりあるので、婆萌えな方には必読だ。

 536ページ全編に、愉快で明るくさわやかな沖縄の空と大気が溢れた一編。読み応えありまくりのエンターテインメント巨編。お薦めである。  


ざぼん
ざぼんの実

*この背景画像は有里さんの千代紙つづりを元に、ヒラノが手を加えたものです。