『白夜行』東野圭吾/集英社(1999)
1999.09.06読了・記

 昭和48年、放置されたビルで起こった質屋殺しは、容疑者と目された質屋の客だった女の愛人の不可解な事故死によって、犯人を特定できないまま、時の流れに忘れ去られたかに見えた。だが、翌年、客の女も謎の自殺ともとれる死を遂げる。残された客の娘・雪穂は裕福な親戚に引き取られ、何不自由なく美しい女性へと成長した。が、彼女の周囲では、奇妙な不幸が相次ぐ。それも決まって、雪穂にとって都合のいいように、その不幸が舞い下りるのだ。
 一方、殺された質屋の息子・亮司は、人と深く関わり合うことを避けながら、ゲームやソフトの偽造に手を染めつつ、裏世界を渡り歩いていた。
 質屋殺しを追い続けていた刑事・笹垣は、雪穂の周囲にもたらされる不幸の背後に、亮司の影を見る。そして、時効を超えた19年後に、彼が見出した真相とは……。

 作品中に流れる19年という時の流れの重さと、その長い時によっても決して癒されることのない二人の傷と罪が、痛い。事件は起こり、犯人が捕まってめでたしめでたしではないのだ。事件が未来へ投げかけた波紋が広がり、それらは途絶えることなく、波のように周囲の人間を不意に飲み込み、さらっていく。

 亮司と雪穂、この二人の間にあった感情は一体何だったのか。読者にはこの二人が会話する場面どころか、同じ時空に在る場面さえ提示されない。だが、確かにその2人の人生の糸が、複雑に織り込まれていることだけは分かる。その糸が目指す場所は幸福という名の夜明けであるはずなのだ。彼らはひたすらにそれを求める。彼らが動くごとに波の力が増幅され、また周囲に不幸の波紋を広げるとしても。

 事件と謎と解決という閉じた空間の物語ではなく、それぞれの人間の、それぞれの20年を追ったこの物語は、ちょっと作りすぎかもというきらいはあるけれども、上手い。株や土地を利用して地位を上げていく雪穂と、技術革新目覚しいコンピュータの世界で、時代に乗りきって突き進む亮司。この二人の行動が示す時代の確かな流れも効果的。うーん、こういうの好きだなあ。軽々と、去年の『秘密』を飛び越して、東野圭吾のベスト。

 最後に、ちょっと一個所だけ、特にねたばれではないけれども気になったこと。

 


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ざぼんの実
ざぼんの木


 

 

 

 

 

 彼が同年輩の女性は犯さずに、娘ほど年の離れた少女のみを犯したのは、彼にも少女性愛的な傾向があったということなのでしょうか? だから典子とは駄目だったとか。それが父から継いだ質として書かれているのだとすれば、輪をかけて悲惨ですが……。

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