bake
オタクの花道


 同人誌を作る時、私が使っているペンネームは『本郷京』と申します。2002年をもってこのペンネームは満10年を迎える予定。恐らくこの先も可能である限り、私は本郷京でありつづけたいと思っております。

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 “京”は本名から取った字だからいいとして、問題は“本郷”。これは「キャプテン翼」というマンガの登場人物“ロベルト本郷”からいただきました。個人的思い入れで全く恐縮な話ですが…書き手としての私はこのロベルト本郷という男に嫁いだと思っております。おそらく一生私はこの男を引きずるだろうと悟った時にこのペンネームを決め、以来10年近くふわふわしながらもこの男を書くことで追い続けてきました。

 早い話が…病気です。

 一体どこのバカがたかがマンガの登場人物、しかも主人公ですらない、誰も知らないような脇役に入れ込んで、あげく生涯の愛を誓って一文の得にもならない自費出版にうつつを抜かすって言うんですか。しかもこれは著作権の見地からすれば明らかな違法行為なんですよ。10代の物知らずなお嬢さんならそれもアリ、そういう事もあらあなと世間も許してくれるでしょう。しかし私は、四捨五入すればもう40の立派な大人だというこの事実。どう考えたって精神病の範疇、真剣に医者に相談してもおかしくない位の壊れっぷりじゃありませんか。
 こういうのに半径3m以内に近付いて欲しくないし、同じ空気吸いたくない。その気持ちは大変よく判ります。私だってそうです(これをオタクの近親憎悪と申します)。

 世の中には、毎日大変な思いで生活してる人がいます。若い身空で人身事故を起こして借金抱えてしまった人。嫁姑問題のバトルで日々地獄のような日々を送っている人。胃が痛くなる思いで毎日会社に通っている人。毎日人死にと隣り合わせて不条理とつかみ合うようにして生活してる人だっている(だから知り合いにはそういうヤツがいるんだよ。そんな話珍しくもないんだよ)。…むしろそういう人の方が、この世の中じゃ大半でしょう。そのすぐ隣にああた、こういう極楽トンボが大手を振って生きてる。腹立つでしょう。本物の苦労の一つもしてみろと思うでしょう。その分のエネルギーをもっと有意義な事に使えんのかと思うでしょう。ええ、その通りですとも。

 これがオタクの“業”です。誰も判らない事に価値を見いだし入れ込んで、たとえ身を持ち崩したとしても「我が人生に一片の悔いなし!」と言っちまう誇大妄想。世の中の価値のある物全てより、紙の上の絵空事の方がはるかに大事だと思ってる非常識。自分の魂の一番密度の高い場所を、そんな物に明け渡しちまう無頓着。どこへ出しても立派に通用するキチガイですよ。しかもそういう自分に屈折したプライドを持ってたりもする。どうしょうもなく間違っている自分を誇らしく思っている。大勢から外れている、だからこそそこに自分があるんだと燃える。――こーゆーバカに救いようなんてないです。一度死ぬまで放っとくしかありません。

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 「世の中の8割はゴミだ」と言った方がおりました。確か若手の映像作家の方だったかな。でもって「だから私は燃えるゴミになりたい」と。
 私もそれに近いです。いい響きじゃありませんか、萌えるゴミ(爆笑)。「燃える」より「萌える」の方が、頭の中に花が咲いてるオタクらしくてそぐわしい。何の役にもたたないハズレっぷりの脱力感がつき抜けてていい。ええ、もう人生投げてます。思えばガキの頃から自分はハズレだと自覚してました。他人様と同じ事がどうしてもできない社会性欠如の困ったガキでした。だからもう諦めてます。トレンディなデートスポットも、最新流行のファッションも、美味しい料理も、人に自慢できる尖った車も宝石も、私は欲しいと思えない。心の中に住まわせた架空の男が、私の人生一番の宝物です。

 報われる事のないエネルギーです。一緒にいける仲間も、志を継いでくれる者もいません。常に「世の中から自分は必要とされてない」「はみ出してる」という思いを背負っていかなきゃなりません。著作法規違反の確信犯で(著作法自体は親告罪なので、先方に訴えられない限り罪ではないようですが…)、思いこみだけ人一倍、相手が実在してるなら間違いなくストーカー行為に当たる事をやってます。苦労知らずの役立たずで、世間様への協調性ゼロ。生まれる時代が違っていたら、たぶん生きてはいけなかった。脆弱なもんだと思います。この時代に生まれて本当に良かった(笑)。

 自分の思う通り歩いていって、ケモノミチの彼方に消える。それがオタクの人生です。口に出すのも恥ずかしいようなとっ外れた対象への傾倒でも、自分の内の欲望に忠実であること。それがオタクの持つ業です。


 …一応世間様に対して顔向けできん事をしてる自覚はあります。すいません。ちゃんと仕事もしてるし、自分の社会的責任は果たすよう努力しますから、どうか見逃してやって下さい。
 この胸に迸る熱くて臭い思いに免じて。

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