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趣旨説明


 「闇の男爵(ナイトバロン)」シリーズから工藤優作を知ったファンの方の中には、彼を日系英国人だと思いこんでらっしゃる方が少なからずいらっしゃるようだ。実際彼の原文は英文で、日本での出版に際しては翻訳者がつく。ロサンゼルス在住で、日本のマスコミには一切と言っていいほど顔を見せない。――彼を日本人だと主張する方が、分が悪く感じられるほどの状況ではある。

 凝りまくった構成のページにしてしまったがために、こんな所にしか本音および解説が書けなくなってしまいました(何てマヌケ)。

 “工藤優作未公認ファンページ”は、優作とーさんの旧知の出版関係者が作ったページという形態を想定して作らせていただいた、でっちあげのファンページです(出版各社に顔が利いて、記事の転載許可を取り付けられる人物ね)。雑誌のインタビューとか対談とかから工藤優作という作家の方向性を想像していただこうというのが、ページ全体の目論み。本当はもうちょっと現実の作家のファンページっぽくしたいんですが…修行が足りませんねぇ。
 原作での彼の性格と工藤家の家庭事情から“私立探偵時代の彼”とか“彼の性格の根底にあるもの”とかを想像して、それをあぶり出すようなインタビュー記事や対談なんかでページが作れたら楽しいだろうな、ってのが最初からの考えでした。実際やってみてすごく楽しいです。毛利小五郎との対談なんか、自分でわくわくしながら書きましたもの。きっとこの二人が紙面で対談するならこんな感じだろうな、なんてニヤつきながら(他人はこれを一人なりきりチャットと呼ぶ)。
 世界的作家ってコトだから「人を楽しませる事」に対してすごく敏感な人だろうとか、推理小説家としてのコダワリはハンパじゃなかろうとか。きっと人当たりいいから誤魔化されちゃうけど、根はとんでもない悪人だろうとか…考えるだけでワクワク(笑)。

 だってね、これだけマイナーな人物じゃないですか。ただ単に「この人が好きっ!」ってやったって、誰も興味もって見ちゃくれないでしょ。だからちょっと変わった構成にしてみただけ。元を質せばそれだけなんですが、しなくていい苦労をしこたま背負い込みました。男性向け雑誌読みあさったり推理小説読んだり…愛ゆえの苦労ってヤツよね。

 ひょんな縁からデビュー間もない氏と知り合い、その人柄に触れたことのあるせいだろう。新作が出るたびにベストセラーに顔を見せるこの作家が(なかなかマスコミに登場しないこともあってか)、ずいぶん誤解されているのではないかと思っていた。ごくごく希に雑誌やTVのインタビューに答える氏は、いかにも“世界的な推理小説家”であり“信頼できる識者”であり“よき家庭人”という風貌をしている。その顔が全てだと思っているファンも数多いだろう。

 優作父さんに入れ込んだ大元の原因は“声”でした。アニメで優作役を演じてらっしゃる田中秀幸さんは、何を隠そう私がかれこれ10年以上追っかけている声優さんで(オタク!)。だからチェック入れたのは当然だったんですが…よもやここまで入れ込むハメになろうとは思いませんでした。うーん、CCさくらの藤隆父さんより声的に好みだったからなぁ。
 あの声で耳元で囁かれたらと思うだけで、理性飛びます(笑)。

 その気さえあれば誰もが見られるフィルムの中に、若い頃の彼の(駆け出し作家時代の、まだ私立探偵を兼業していた頃の)姿を留めた物がある。

 振りちぎれてお茶目な性格に加え、作家という職業はハマるポイントでした。こうやって素人文章書いてるだけでも結構自分の中の小汚いモノと向き合わなきゃならないんですもの。プロともなればどんなだろう、ってのが絶えず頭の中にあって。んでモデルが『探偵物語』でしょ。その時点でかなりヤバかったのに、だめ押しのとどめに『さまよえる赤い蝶』。傍若無人な若き日の優作父さんの姿に「たぶんこの男は若い頃にありあらゆる悪事をやり倒して、更正して今の姿になったんだろーな」なんて考えたからたまらない(更正したオヤジに弱いんだ、私)。

 研ぎ澄まされた剃刀みたいに尖って、どこか捨て鉢な雰囲気さえ漂わせた男がそこにいる。俳優のようなポーズでシャレたセリフをキめ、こちらを小馬鹿にするような不遜な顔で笑う。本気とも悪ふざけともつかない行為で車を逆走させ、退屈を持て余した子供のように街をうろつき、刺激を求めて自ら作った危険に飛び込み…。恐らく、今の氏の姿からは想像もつかないような姿が、このフィルムの中には写っている。

 息子の工藤新一は一種の優等生というかエリートというか…多少の軋轢を孕みながらもソツなく世間を渡っちゃえるタイプ。でも優作父さんは思いきり社会生活不適応人間。たぶん結婚して子供こさえて30過ぎて、ある日ふと気がついたら大人になってたってタイプでしょうね。若い頃は生きて30歳を迎える事なんて考えてもいなかったんじゃないかな。早く大人になりたいとか子供のままでいいとか考えもしなくって「明日死んでも後悔しない」って位毎日無駄なエネルギー使って生きてた人。自分の中の法に忠実に生きていた人。――そういう人生回り道的な蓄積とか絶望的な疎外感とかないと、物書きはできない気がするので。

 「ありあらゆる悪事を働」き「何度も警察の手を煩わせた」という氏の言葉が本当の事であるのを、このフィルムは教えてくれる。有希子夫人の「放っておくと何をしでかすか判らないから」結婚した、という言葉も恐らく真実だろう。
 そんな彼だからこそ、あんなにも魅力的な男が書けるのだろう。どこか捨て鉢で、放っておくと何をしでかすか判らなくて、片時たりと目が離せないような、毎日を太く濃く生きている男たちが書けるのだろう。

 現状否定の突破者なのは、世界的に認められていいお父さんになった今でも変わってないと思う。だからシャレとも本気ともつかない冗談で周囲を煙にまいたり、突飛な行動で息子を脅かしてみたり。妻も子供もほっぽらかして、自分の楽しみにダイビングしちゃうかも知れない可能性のある困った男(有希子母さんのワガママって、ある種の自衛だと思う)。命の危険さえある息子を自由にさせとくのって、そういう彼だからこその判断じゃないかな。
 ――誰に何を言われても構わない。どんな結果に終わっても構わない。ただ自分自身に忠実であれ。誠実であれ。そしてそうある以上、断罪される事を覚悟しろ。
 息子さんが社会の法に関わる“探偵”を選んだのは、皮肉と言えば皮肉なのかな。

 人間は書かなくても日々を生きていける。それでも書き、それで日々の糧を得る作家という職業に、常から私は一種の畏怖をもっていた。“書く”という不自然な行為で世間と繋がることを選ぶ人々は、身の内によほどの修羅を抱えているのではないか。だからこそ“書く”という間接的な行為で他人と繋がる事を選んだのではないか。

 はい。原作に3回しか登場しない彼に、“とてつもなくイイ男”の臭いを嗅ぎつけてしまった訳なのですよ。で、気がついたらこんなページになっていた(笑)。たぶんこんなヤツは日本に(ってコトは世界で)私一人だよな、とちょっと優越感感じてます。だって私以外の誰もここまで正面切って「優作父さんが好き」って言ってる人いないでしょ?

 最愛の妻と息子を持ち、作家としての揺るぎない地位を築き、世界各国にファンを得ている。穏やかな人柄と幅広い知識・経験は、多くの警察関係者の信頼さえ集めてもいるとも聞いている。けれど思うのだ。彼の本質はおそらくあのフィルムの頃のままなのだろう。“よき家庭人”であり“偉大な作家”である外皮を一枚めくれば、あの頃の「何かの冗談で生きていた」ような氏の本質が顔を出す。

 こういうコトはいった者勝ちのやった者勝ちだから、感情表現にテレて冗談でしか「好き」と言えない方々に一日の長を感じてます。そりゃあね、2Dのキャラクターに真面目に入れ込むのって尋常なコトじゃないし、それを公言するのって確かにキチガイ沙汰ではありますよ。でもそれ言っちゃったら、アイドルを好きと言うコトもニュースキャスターを信用するというコトも、同じレベルでキチガイ沙汰じゃありません?
 「こういう男が魅力的だと思う」「こういう男を愛してる」って公言するには、それだけの積み重ねが自分の中になきゃダメですよね。だから思いが同じなら言った者勝ち。――てな訳なので優作父さんを魅力的と感じてる人は気合い入れて公言して下さいませ。誰の挑戦でも受けて立ちますわ(いや、勝ち負けの問題じゃないんですがぁ)。
 そうして…こんなイイ男の臭いをプンプンさせてるキャラクターを見逃している方々には百日の長を。ふふん、顔だけじゃないイイ男を見抜くにはそれなりの目が必要なのよ。お判りかしら、お嬢さん方?

 そうして現在の氏のありようを見ていくらかくすぐったく思っている。おそらく氏自身もそう思っている事だろう。



 「愛情だけなら原作者にだって負けない」ってのがこのコンテンツの隠れ趣旨ですが…感じ取っていただけましたでしょうか、皆様。

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