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実践データベースマーケティング(第4号)
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『実践データベースマーケティング』第4号をお送りします。
発行者の岩瀬です。ホームページを開設しました。ビジネスマンの情報活用を
テーマにしています。実践データベースマーケティングのバックナンバー等も
こちらでご覧いただけます。
http://www.bea.hi-ho.ne.jp/o-iwase/

●○ 目次 ●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

1.データ構造を考える
1.1.基本的な構造
1.2.静的情報と動的情報
1.3.行動についての情報
1.4.データ構造と活用

2.法人顧客の場合
2.1.名寄せ処理
2.2.相手の立場

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1.データ構造を考える
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データベースマーケティングの基本になるデータ構造についてお話ししたいと
思います。現在の技術では色々な情報の持ち方をすることができます。プラッ
トホーム・ネットワーク・データベース・ソフトウェアについても色々な選択
が出来ます。元々はCOBOLなどでSAMファイルやVSAMファイルを扱
う方式が主でした。顧客単位に判断をしながら結果を吐き出すという形です。
この場合にはレコードアットアタイム方式のアクセスで充分でした。その後
OLTP(オンライン・トランザクション・プロセシング)の必要性から様々
なデータベースが提案されます。現在ではRDB(リレーショナル・データベ
ース)が一般的なものになりました。

データベースの活用シーンを考えてみましょう。

●OLTPで情報の登録・検索・修正を行なう
●様々な切り口でデータの解析を行なう
●バッチ(一括処理)で出力を行なう

OLTPが一般的になってもバッチ処理はなくなりません。印刷や大量のデー
タ更新など作業的にバッチの効率が良い部分があるからです。リアルタイム
(即時)処理とバッチ処理の効果的な組み合わせを考える必要があります。

クライアント・サーバー/システムについても、決定版がある訳ではありませ
ん。元々はサーバーの負荷を軽くするために分散処理が考えられました。しか
しデータの同期やメンテナンス・大量処理などを考えると、集中処理が有利で
す。分散処理と集中処理でも効果的な組み合わせを考える必要があります。

ハードやソフトの面では、検索専用システム・超並列技術・OLAP製品・
ケースツールなど様々な技術の進歩があります。ここでは、ハード・ソフトに
依存しない基本的な構造のお話しをしたいと思います。

1.1.基本的な構造
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通信販売での基本的なデータの持ち方は三角構造になります。3種類のマスタ
情報を元に考えます。3種類とは、

●顧客マスタ
●商品マスタ
●媒体マスタ

の3つです。顧客マスタはお客様についてユニークな情報です。ただしユニー
クという意味はあくまでその時点でユニークということです。マスタといえど
も静的なものだけでなく、動的な情報もありえます。商品マスタについても
同様です。媒体マスタというのはカタログやチラシなどお客様への露出をする
ものになります。テレビなどの広告もここに入ります。カタログ通販以外では
媒体が流通チャネルということになります。この3つをつなぐ所に行動のトラ
ンザクションが発生します。

1.2.静的情報と動的情報
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静的情報と動的情報について補足しておきましょう。顧客マスタを例に取りま
す。お客様の住所・氏名・性別・生年月日などは静的な情報です。住所を変更
されることもありますが、常に最新情報を使うということであれば、必ず一つ
に特定できます。これに比べてお客様の状況を示す情報があります。累計での
お買い上げ金額や年齢・興味ジャンルなどです。こういう情報は時間とともに
変化します。実際問題として効果測定をする場合に扱いが難しくなります。

例えば累計のお買い上げ金額と注文率の関係を調べることを考えましょう。
1月1日にお客様にカタログをお届けしたとします。2月末でデータを締めて
効果を検証してみましょう。累計のお買い上げ金額別に配布口座数と注文口座
数を集計します。ここで問題が発生します。累計金額はいつの時点のものを
使うべきでしょうか。この集計の利用価値は、次回カタログを発送する時に
シミュレーションに使えるということです。すると、カタログを見る前の
お客様の特性が知りたい訳です。この場合は1月1日以前の情報でないと意味
がないことになります。12月時点のお客様の状態別に1月1日のプロモーシ
ョンがどんな効果を与えたのかを知りたいのです。

これでお分かりの通り、効果を検証するにはプロモーション直前の情報がどう
しても必要になるのです。もしもプロモーション後の情報を使ってしまえば、
データにフィルタがかかってしまうことになります。1月1日から2月末まで
のお買い上げ金額まで入ってしまっては、お買い上げの多いお客様が注文率が
高いのは当たり前です。時系列で変化を見るような場合はなおさら、どの時点
の情報をマスタとして使うかに気を付けなければなりません。実際にRFM
情報などは時系列で持っていなければ分析には使えないのです。時系列で持っ
ていない場合には、明細情報から作り出す必要があるのです。

このためマスタ情報と言われるものでも時系列で持つ場合もあります。

1.3.行動についての情報
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次にマスタ間で起こる行動のトランザクションを見てみましょう。

●顧客と商品
顧客と商品の間に購買や返品・入金などの情報があります。実際には注文・
欠品・出荷・返品・交換・入金などです。データベースマーケティングでは核
になる情報と言えます。誰がいつどの商品を買ったのかが基本情報です。

●顧客と媒体
通販はレスポンス広告です。お客様に対してどんなアプローチをし、その結果
がどうだったかを元にしてビジネスを組み立てます。基本情報の一つとして、
企業からお客様へのアプローチの履歴を保管する必要があるのです。誰にいつ
何をアプローチしたのかがこの情報です。

●商品と媒体
商品と媒体の間ではアプローチの状態を示す情報が発生します。カタログで
言えば、ページ数・写真の大きさ・表示している商品の色・キャッチコピー・
スペック表示などです。ポップと同じで価格表示の色で売れ行きが変化する
場合もあります。流通チャネルであれば、取引条件なども入るでしょう。

★その他の情報
この他に必要になる情報があります。地域の意味を表す地域マスタなどです。
主にデータベースの正規化の問題でデータを外に置くものがあります。生デー
タ以外にも統計的な情報が必要になります。例えば、地域特性を表すもの・
気候を表すもの・業界の状態を表すもの・競合の状態を表すもの・金額を実質
化するための補足情報などです。これらの統計情報を外部情報と呼んでおきま
しょう。

1.4.データ構造と活用
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大きく捉えると次の二つの情報を扱うことになります。

●企業からお客様へのアプローチ情報
●お客様から企業への(注文などの)結果情報

この二つの情報を

●お客様の特性
●商品の特性
●媒体の特性

の三つで多次元的に解釈していくことになります。そして第4の切り口として
時間軸を分析の切り口として考えます。継続注文率を考えると、必ず二つの
時点を扱うことになります。それ以前の情報を元にして継続率を考えると時点
は三つ以上になってしまいます。分析の際は全ての可能性を考えますが、実際
に使う時に必要なのは再現性です。常に再現性を考慮に入れた情報が必要に
なるのです。

有用な情報は必ず時間軸を伴います。ビジネスに生かすということは、これか
ら起こる未来を予測するということです。予測をするためには、

●直前の情報でまだ継続的に起こる確率が高い
●周期的な特徴があって、次を予測し易い
●移り変わりを観察することで、次を予測し易い

という種類があります。どの場合であっても時間軸を伴う訳です。ですから、
顧客・商品・媒体・時間という4軸を柱に考える必要があります。

さてこういったやり方でデータを観察し、外部情報と比較しながら戦略・戦術
を練る訳です。更に必要なことは、結果情報を観察するだけでなく、仕掛けて
いくことです。ビジネスの場にある情報は必ずフィルタがかかっています。
そのビジネス特有の条件の下、特有のアプローチをした結果だからです。実際
にお客様にアプローチをする前から結果データの使い方を考えておく必要が
あるのです。

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2.法人顧客の場合
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法人販売へのデータベースの活用ということで何人かの方から、ご意見をいた
だきました。私は直接法人への販売に携わったことはありませんが、それに
近い部分をご紹介したいと思います。

2.1.名寄せ処理
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個人通販の場合にも、お客様同士をグルーピングしたり階層を持たせることが
あります。一般的なのは家族名寄せというものです。

まず名寄せからお話しする必要があります。名寄せとは複数レコードについて
同じお客様だと認識することです。顧客データベースではお客様が特定できる
ように顧客コードを作ります。顧客コードでなく電話番号などで代用する場合
もありますが、通常は別に識別する項目を作ります。現在では一人のお客様が
複数の電話番号を持っているのが普通だからです。

名寄せをする目的は、お客様についての情報を結び付けるためです。実際的な
問題として売り掛け金の処理や過去の購入実績評価、物流費用の低減などが
あります。

●売り掛け金処理
代引や前受け金・カード決済などではあまり関係がありませんが、後払いでは
色々なケースが考えられます。一人のお客様で複数の顧客コードを持っている
場合を想定します。AとBの顧客コードが同一人物だとしましょう。

(過剰金・遅延のケース)
このお客様がAの顧客コードで1万円の買い物をしたとします。通販会社発行
の振り込み票を紛失して、手書きのもので振り込まれたとします。この時に
Bのコードで処理されてしまうと、

Aのコードでは → 1万円の売り掛け残 → 不良残として督促を実施
Bのコードでは → 1万円の過剰金に  → 過剰金の返金処理を実施

という可能性があります。
企業としては余分な経費が発生し、お客様としては企業に対して不満が残る
という結果になります。

(信用審査のケース)
後払いの場合は、お客様によって予め掛け売りの限度額を設定しています。
詐欺や不良残への対応の一つです。入金の実績によって、掛け売りの限度額を
変えたりします。もし名寄せをしないと、複数の顧客コードを作れば限度額の
何倍もの買い物が出来てしまうのです。

●過去の購入実績の評価
通販会社ではお客様の履歴によって販売活動や販売促進などの対応を変えま
す。沢山買ってくださるお客様には色々な特典でますますファンになって
もらおうというものです。
同一のお客様でA・Bのコードがあるとします。Aで5万円、Bでも5万円の
お買い物をしていただいたとします。お客様にしてみれば、その企業から
10万円の買い物をしています。10万円以上で○○特典などと宣伝していた
ら、トラブルの原因になります。トラブルにならないとしても本来の
マーケティングプログラムの目的が達成出来ないのです。

●物流の問題
これも通販では大きな問題です。通販では店舗費用が要らない分、カタログ
制作費や物流費が余分にかかります。これらの費用を削減することに知恵を
絞っています。
ここでも同じお客様がA・Bのコードを持っているとします。最初にAのコー
ドで注文をいただきました。翌日追加注文をしましたが、こちらはBのコード
で処理されました。するとわざわざ別々にお届けすることになってしまうので
す。これを一緒に出来れば物流費を安くすることができます。私はこういう
処理をオーダー併合と呼んでいます。

以上のように名寄せには色々なメリットがあります。特に物流費の部分は、
出来ればもっと拡大したいところです。家族であれば一緒に送ってしまって、
この商品は○○様の分というようにしたいものです。職場であっても同一なら
ば、オーダー併合が可能です。
こんなケースでは統合顧客コードを使う方法があります。通常は個別の顧客コ
ードを使いますが、お客様が同送を認めてくださる場合には、一緒に送るよう
にするのです。個別の顧客コードと統合顧客コードは関連付けされています。
物流や販売促進では統合顧客コードを使います。
家族の場合には家族名寄せをして、階層型の管理をする場合もあります。この
場合は顧客コードは一つしか持たず、下の階層に家族登録をしてしまいます。
この様にすれば、階層毎あるいは統合顧客コードでの処理が可能になります。

元々は代表のお客様だけで管理する方式が一般的でした。なるべく代表者を通
していただくように、注文金額によっての値引きなどを販促策として採用して
いました。ところがお客様がグループから離れてしまうとデータ上で追跡する
ことが出来なくなってしまいます。職場での通販以外にもヨーロッパに多い
エージェント販売などがこのケースです。エージェント販売とは販売代理店の
ような仕組みです。取り引き金額の大きさによって販売手数料を払います。
しかしエージェントが販売をやめてしまうと、個人と企業とのつながりがなく
なってしまうのです。このような問題に対処するために階層型でデータを残す
努力が始まったのです。

このような顧客のグルーピングや階層構造は法人の場合でも応用できる手法だ
と思います。

2.2.相手の立場
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法人相手のデータベースマーケティングに特徴的なことはなんでしょうか?
企業として購入するものと個人通販との違いで考えてみましょう。

●本人個人の需要ではない
●本人個人の財布から支払われるのではない
●担当者が適任とは限らない
●担当者に異動がある

以上のようなところでしょうか?通信販売の経験ではありませんが、私は現在
企業向けのコンサルタントを生業としています。そこで感じるのは、担当の方
の立場です。例えばシステム部門の方とマーケティングのためのシステムを
構築するとします。担当者の方にとってお客様とは誰でしょうか?最終目的で
言えば、企業のお得意様ということになります。しかし当面のお客様はユーザ
部門であり、上司なのです。あくまで企業のお得意様を考えなければいけませ
んが、ビジネスとして成立するためには担当者の方の当面のお客様にも気を
配らなければなりません。

具体的には担当者の立場や社内での受けといったものに気を配る必要が出て
きます。その上で、目的達成性と着手容易性から実施する順番も考えなければ
ならないでしょう。良い例が保守や情報のサービスです。担当の方には社内
ユーザから質問やクレームが入ります。その憂いを絶つような工夫が必要に
なります。あるいは上司やユーザに対して何故その製品が良いのかという説明
が出来なければなりません。更に担当者の意見として企業に価値を提供できる
ことを説明しなければならないのです。製品の価値だけでなく、これらの要素
も満足させる必要がある訳です。

以上のことはデータベースマーケティングに限った事柄ではありませんので、
これ以上のお話しは止めておこうと思います。データベースマーケティング
として成功させるためには、購入履歴だけでなく次のような情報が必要になる
筈です。

●企業・部門・上司の情報
●担当者の立場の情報
●企業内での実際の役割分担
●発言力・決裁権のあるキーマン情報

実際のセールスマンはこういう情報まで考慮に入れる訳ですから、こういった
情報の活用方法を具体化していく必要があります。私の専門外のことまで口出
ししてしまいました。あなたはどう考えますか?

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【今週のお勧め書籍】:SUPERセールスマネジャーの鉄則(二見道夫氏)
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マネジャーの債務やリーダーらしさ・モチベーションについてのお話し。本論
のマネジメントの他にも、マクロ情報とミクロ情報の使い方・マーケティング
感覚を磨き続けろ・ビジネス計数を活用しろなど情報活用の部分があります。

【今週のお勧め書籍】:「社長になる」という目標を紙に書け(新将命氏)
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目標設定とその実行プログラムが主題。他にエレファントテクニックという、
問題を分解して解決していく考え方が参考になる。目標設定を物語風に読むの
であれば、『成功の掟』(マーク・フィッシャー)がお勧め。

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ホームページでは他にもお勧め書籍をご紹介しています。是非遊びに来てくだ
さい。 
http://www.bea.hi-ho.ne.jp/o-iwase/index.htm


発行人/編集人:岩瀬 理(Osamu Iwase)

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