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実践データベースマーケティング(第6号)
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『実践データベースマーケティング』第6号をお送りします。
発行者の岩瀬です。ホームページにメーリングリストを開設しました。
実践データベースマーケティングのバックナンバー等もこちらでご覧
いただけます。 http://www.bea.hi-ho.ne.jp/o-iwase/

●○ 目次 ●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

1.RFM
1.1.マトリクスセル法
1.2.ポイント法

2.RFMポイント
2.1.Rポイント
2.2.Fポイント
2.3.Mポイント

3.総合RFMポイント
3.1.総合ポイントの作成
3.2.購入商品による差別化

【今週のキーワード】:ビジネスルール
【今週のお勧め書籍】:経営に終わりはない(藤沢武夫氏)

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1.RFM
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今回はRFMについてお話しさせていただきます。RFMポイントは
通販では基本的な考え方ですが、現在ではFSP(フリークエント・
ショッパー・プログラム)など他の業態にも応用されています。
すでにご存じの方も多いと思いますが、最初からお話しをさせていた
だきます。RFMは過去の注文履歴によって、お客様を識別するため
の方法です。購入期待度によってお客様を分類したり、購入額を予測
するのに使います。

1.1.マトリクスセル法
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まずはR・F・Mの意味です。

●R(リーセンシー:最新の注文時期を表す)
●F(フリークエンシー:過去の注文回数を表す)
●M(マネタリー:過去の注文金額を表す)

この3つの指標でお客様の識別を行ないます。3つの尺度でお客様を
分類して、注文の期待度を決めるのです。R・F・Mそれぞれの範囲を
決めてその組み合わせで表す方法をマトリクスセル法と言います。
例えば次のような形式があります。

●R:最新注文日が過去半年以内をR5、過去1年以内をR4、
   過去18ヶ月以内をR3、過去2年以内をR2、
   過去2年よりも古い注文しかないものをR1とします。
●F:過去に注文が3回以上ある場合をF3、注文が2回の場合をF2
   1回だけの場合をF1とします。
●M:累計注文金額が5万円以上をM3、1万円以上5万円未満をM2
   1万円未満をM1とします。

こうすると3つの指標の組み合わせでグループを作ることができます。
注文のあるお客様のグループは5×3×3=45通りになります。
まったく注文のないお客様もいますから、合計46通りになります。
RFMをそれぞれいくつのグループに分けるのか、あるいはどこで
区切るのかはデータを調査して決めます。企業によって色々です。

1.2.ポイント法
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マトリクスセル法は実際に運用し易い方法です。しかしお客様を期待
確率の高い順に並べかえるには難があります。あくまでグループを作る
方法だからです。そこでRFMから総合得点を作る方法があります。
今度はポイント法についてご説明しましょう。

2.RFMポイント
=========

まずはRFMを得点化するところから始めましょう。得点化するには
次のような注意が必要です。

●更新が簡単であること
●意味するところが分かり易いこと
●結果データとの相関が高いこと

これらをご説明しておきましょう。RFMを得点化するには過去の注文
履歴を使います。更新する度に何年も前からの生データを検索するのは
大変なことです。出来れば前回までの得点と差分データから更新できる
方が便利です。

RFM得点をそのまま使うとは限りません。組み合わせたり変換したり
して使います。その場合、元々何を表していたのかがハッキリ分かる
ことが望ましいのです。また統計ではマルチコという現象がおきます。
解析に使う要因同士の相関が高いと、良い解析が出来ないことがありま
す。マルチコが起きるのを防ぐためにもデータの意味を知っていなけれ
ばなりません。

ここで言う結果データは注文の実績です。99年の春カタログについて
分析するのであれば、98年冬までのデータと99年春の注文実績デ−
タを使います。98年までの履歴で色々なRFM得点を作りながら、
99年春の結果と照合していくのです。

2.1.Rポイント
=========

まずRFMそれぞれを得点化します。Rの得点化にも様々なものがあり
ます。基準日を設けて日数差を得点にする方式もあります。1日を1点
に数えるわけです。月単位でマスタを更新するばらば、次のような方式
があります。

●当月注文のある場合を360点とする
●注文が無かった月は10点を差し引く
●マイナス計算はしない

このルールで運用することを考えてみます。

表1.減点法
 −−−−−−−−−−−
|最新の注文時期|得点 |
|−−−−−−−−−−−|
|当月     |360|
|先月     |350|
|2ヶ月前   |340|
| ・     | ・ |
|1年前    |240|
| ・     | ・ |
|3年前    |  0|
 −−−−−−−−−−−

この得点がどんな企業にも適用できるかどうかは分かりませんが、
いったん得点化した上で分布を調べてみます。分布のしかたによって
対数にするとか得点の変換を行ないます。厳密には標準化して単位を
なくしておくと精度が高まります。

さて、マトリクスセル法でも同じなのですが、一つの問題が生じます。
それは最新の注文日しか識別出来ないことです。次の二人のお客様を
比較してみましょう。

●Aさんは当月と先月に2万円ずつ注文をした
●Bさんは当月と1年前に2万円ずつ注文をした

もしもFとMで過去1年間の累計で得点化すると、AさんとBさんは
RFMそれぞれでまったく同じ得点になってしまうのです。企業にして
みれば、連続でお買い上げいただいたAさんは優良顧客の筈です。
この二人のような場合、識別する方法はないでしょうか。

最新だけでなく、その前の影響まで加味する方法が欲しくなります。
指数平滑法というのがあります。この場合は指数平滑法の変形ですが、

●注文があった場合、前回の得点×20%+360点とする
●注文がなかった場合、前回の得点から10点差し引く
●マイナス計算はしない

このようなルールで運用したらどうなるでしょうか。この場合は前回の
得点の2割の影響が残ると仮定したものです。

表2.連続注文があった時の得点
 −−−−−−−−−−
|連続注文回数|得点 |
|−−−−−−−−−−|
|    1回|360|
|    2回|432|
|    3回|446|
|    4回|449|
|    5回|450|
|    6回|450|
 −−−−−−−−−−

以上のように5回連続で注文があると450点に収束します。データが
オーバーフローすることはありません。次に同じ2回の注文でも間隔が
違う場合の得点を見てみましょう。最新注文日は全て当月だとします。

表3.注文間隔による得点の違い
 −−−−−−−−−−−−−−−−−
|前回の注文時期|得点 |先月の得点|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|先月     |432|  360|
|半年前    |422|  310|
|1年前    |410|  250|
|2年前    |386|  130|
 −−−−−−−−−−−−−−−−−

このように識別をすることが出来ます。実際の計算式は結果データを
使って調査することになります。

●前回の注文の影響を何割にするか
●最新注文に何点を与えるか
●注文がない場合にどう減点するか

カタログ配布の直前の状況と配布後の実績を使って、最適化をします。
EXCELでもソルバーやゴールシークという最適解を求める方法が
あります。

利用する場合の係数を決めるには色々な方法があります。重回帰・判別
・主成分分析などの方法が使えます。現在では統計解析ソフトも一般的
になり、使い易くなりました。しかし分析の精度は最初の範囲分けや
得点化に左右されてしまいます。得点を変換しながら分布や結果データ
との相関を見ていく必要があります。

この他に特殊な使い方もあります。Rポイントはあくまで最新注文時期
に着目した得点です。これに対して、注文の間隔に注目する手法もあり
ます。最新の注文間隔を使います。前回の注文日とその前の注文日との
間隔を指標化するものです。ただしこの指標は2回以上注文がないと
使えません。お客様全体に使う指標ではないのです。予測の精度を上げ
る場合や、お得意様を識別するために使います。実際には先述のような
指数平滑などでRポイントに取り込む方が使いでがあるようです。

2.2.Fポイント
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Fポイントは注文回数を表します。通常は過去2年とか期限を決めて
注文回数を計算します。ただし期限付きの計算をするには過去の明細
データを集計する必要があります。更新という観点では負荷がかかる訳
です。

反面、取り引き以来の累計注文回数を使うと、はるか昔に頻繁に注文を
いただいたお客様の得点がいつまでも高いという状況が起こります。
これは指標として使い難いということになります。またリストの棚卸し
をする際に正確な状況が分からないという欠点もあります。

一つの例として注文回数は累計にしてしまい、Rポイントでふるいに
かける方法があります。最新注文日が古いリストは休眠としてフラグを
つけます。休眠リストのシミュレーションを分けてしまう訳です。

また注文時期を一月ずつビットで持つ場合があります。過去2年とか
3年分を、一月ずつ注文有無や注文回数で表しておきます。得点を作る
場合の元データとしても使えますし、注文時期や継続注文の分析に使う
ことが出来ます。シーズンによる注文特徴を調べるにも役立ちます。

2.3.Mポイント
=========

Mポイントは累計受注金額になります。扱う商品が一定だとFとMは
相関が高くなります。
Rポイントは購入時期が近い程、次に購入していただける確率が高いと
いうことです。Fポイントは何回も購入されたかた程、次に購入して
いただける確率が高いという意味です。それではMポイントの意味は
なんでしょうか。二つの解釈ができます。

●累計購入金額が高い程、次に購入する確率が高い
●金額の高いお客様は、次回の購入確率が同じなら購入金額が高い

前者はFポイントとほぼ同じ意味になります。後者では購入単価という
意味になります。統計の話しですが、説明変数同士の相関が高すぎると
マルチコを起こします。マルチコとは説明変数が独立でないので計算式
に悪影響を与えることです。そこでMを購入単価と考えてしまうことも
一つの方法なのです。Mポイント自体は累計の注文金額で計算して、
M/Fを使うことができます。

RFMとしては使いませんが、過去の最高オーダー単価や最高商品単価
を使う方法もあります。これはRFMでは評価できない商品特性を考え
る場合に使います。このような例として、オーダー当たりの平均受注点
数や最多価格帯などがあります。

3.RFM総合ポイント
===========

以上のRFMポイントを中心にしてお客様の識別指標を作るのが総合
ポイントです。総合ポイントの高い順に並べれば、期待度の高い順に
お客様を並べることが出来ます。総合ポイント毎に次回の期待効率を
予測出来れば、カタログ部数を変化させた時の受注金額を試算出来る訳
です。

3.1.総合ポイントの作成
=============

一番簡単な総合ポイントは重回帰分析でしょう。RFMポイント毎に
リストの集計をします。するとグループ毎に平均の期待効率を求める
ことが出来ます。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
|R |F |M |配布人数|受注人数|受注金額|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|○○|○○|○○|    |    |    |
| ○|○○|○○|    |    |    |
| ・| ・| ・|    |    |    |
|  |  |  |    |    |    |
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

受注人数を配布人数で割ったものを注文発生率と言います。受注金額を
受注人数で割ったものが購入単価です。受注金額を配布人数で割った
ものを受注期待効率と呼んでいました。この期待効率を目的変数に、
RFMや年代などの項目を説明変数として予測式を作ります。人数に
よって重み付けをしてやればより現実に即したものになります。表計算
ソフトでも強力な関数を持っていますし、解析ツールを備えているもの
もあります。それでも足りない場合には専用の統計解析ツールが必要で
しょう。統計解析ソフトには、SAS・SPSS・S−PLUSなど
色々なものがあります。目的によってQCASなど、よりパッケージ化
されたものもあります。ユーザー会のしっかりしているSAS
http://www.sas.com/japan )はユーザ事例なども紹介しています。

重回帰分析と同じ働きをするものには数量化1類があります。もしも
目的変数を注文の有無とすれば、判別分析や数量化2類が使えます。
目的変数を取らずに総合指標を作るだけなら主成分分析があります。
グループを分けるだけであればクラスター化分析が使えます。分析手法
を使わなくても目的を達する方法はいくつかありますが、大切なのは
運用方法です。予測式を作るには前もってデータを加工するのが普通で
す。その結果、対数変換したり逆数をとったりと専門的なものになって
しまう場合があります。実際の運用では感覚的に分かり易く計算し易い
ものであるのが理想です。実運用ではCOBOLやSQLで運用できた
方が便利だからです。出来ればあまり精度を落とさずに、代替式を作る
のがお勧めです。

さて総合ポイントの利用方法はお客様を期待確率の高い順に識別できる
ことです。予測まで出来てしまえば言うことはありません。予測まで
出来れば損益のシミュレーションが可能になります。

3.2.購入商品による差別化
==============

RFMに購入商品種類によって味付けをする場合があります。次のよう
な方法があるでしょう。

●商品種類毎のRFMポイントと全取り引きの得点を持つ
●一定商品の購入があると得点を多くする

商品種類毎のRFMポイントを持つことで媒体によって使い分けること
ができます。商品種類別のRFMポイントで期待効率を予測してみると
係数に大きな差が現れます。継続傾向の高い商品ではRの係数が高く
なりますが、継続傾向が低い場合にはMの係数が高くなるのです。

また過去の購入商品種類毎にお取り引きの継続性が違うのであれば、
加点のしかたを変えることが出来ます。一定商品の購入によって得点
の付け方を変えるのもこの考え方です。確かに購入商品種類によって
企業へのロイヤリティは違うのです。内容については前回の第5号を
参照してください。

その商品を購入すると、その後も注文発生率が高いという傾向があれば
強み商品とします。商品種類や価格帯毎に強み商品得点を決めます。
得点化するためには、分散分析などで特徴を得点化しておく必要があり
ます。購入があった場合には、その得点を加算していく訳です。

以上のようにRFMだけでも色々な方法があります。ここでご紹介した
ものは、1990年頃のものです。この10年でRFMを含めて意欲的
な挑戦がされています。現在ではもっと面白い方法もあるでしょう。
私自身も10年間データを観察して来て、変化が大きいのに驚いていま
す。私はRFMなどの得点法を続けていましたので、注文期待効率との
相関が変化していくのを眺めることができました。時代や商品・競合に
よって、データの相関も恐ろしく早く変わっているのです。

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【今週のキーワード】:ビジネスルール
過去のデータから様々なビジネスルールを見つけ出すことができます。
この時、非常に大切なのが時間の感覚です。時間の感覚には二つの意味
があります。

●時系列で未来を見ること
●ビジネスルールは時間によって変わってしまうこと

当たり前のことですが、データは過去のものです。ビジネスにしろそれ
以外にしろ、活用するというのは未来のためのものです。土俵はあくま
で未来なのです。そこで過去の変化から未来を見る努力が必要になりま
す。1点だけを見ては特徴や変化は見分けられないものです。

一度見つけたルールも2〜3年のうちには変化してしまいます。5年も
経てばビジネス構造そのものが変化してしまいます。ルールは常に変化
するし、こちらから変化させていくものだと考える必要があると思いま
す。あなたの携わるビジネスにはどんな変化が起こっていますか?

【今週のお勧め書籍】:経営に終わりはない(藤沢武夫氏)
藤沢氏は世界のホンダを陰で支えた人物と言われます。本田宗一郎氏と
の関係は、トップと参謀のお手本の一つに数えられています。
松明は自分の手でというのが持論で、複眼的な物の見方をする人でも
あります。本田宗一郎氏についての本と併せて読まれると一層面白いの
ではないでしょうか。またトップと参謀ということでは渡部昇一氏の
ドイツ参謀本部がとても参考になります。

ホームページでは、このように併読や比較のお勧めをしています。是非
一度ご覧ください。

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研究を始めた当初は手元に統計用のソフトもありませんでした。そこで
データを標準化して分析を行ないました。データの変換やマスキング
から自分でやったことは、理解を深める上で大変役に立ちました。
どうやら不便な環境の方が身に着くことも多いような気がします。
人まねでなく、オリジナルでやらざるを得ないからでしょうか。やはり
自分で判断をするというのが何よりも大切なことなのだと思います。

発行人/編集人:岩瀬 理(Osamu Iwase)

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