◆赤紙到着

下宿に帰ると速達が来ていた。赤い紙の召集令状が入っていた。父の手紙も添えてあり、もう驚くことはなかった。
当時、この召集令状より強い力を持つものはなかった。赤紙こそ絶対の力を持った命令書で、これに背くことはできなかった。これには、入隊日は昭和十八年二月十五日午前九時、場所は姫路の城北練兵場で輜重兵第五十四聯隊衛門前、番号九十三と記載されていた。
間もなく内田君、黒沢君、中村君が次々にやってきた。みんな勤めをすますと直ぐに訪ねてくれたのだが、一刻も早く私の顔を見たかったと言う。
「小田君、いやに早くお召があったじゃあないか」と内田君が言った。
「こんなに早かっちやあ俺達の方が後になってしまったわい。俺達が新兵で小田が古年兵で、絞られることになるわい」と黒沢君が空気を和らげた。
「小田にこんなに早く来るのなら、俺もいつ来るか分からんわい。早くよいことして遊んでおかなきゃあ」と中村君が続けた。
「小田よ、召集されると内地におれないぞ、少し教育を受けたら外地に行かされるかもしれんぞ。覚悟しとかなくちゃあ」と誰かが言った。
「やはり、内地の方がいいなあ」と私は答えた。
「赤紙とやら見せてみい」
「これだ」と言って出すと
「フーンこれか。強いもんだなあ。これ一枚で、人間なんて、どうにでもなるんだからなあ。ところで、輜重兵第五十四聯隊第一中隊か。俺達の同級生は在学中に学校で検査を受けたが、一般で普通の徴兵検査を受けると、こんなことになるのか」
「小田よ、自動車を習っているそうだが上手になったかい?」
「三田の自動車教習所へ、まだ三回ぐらいしか行っていないんだ。こんなに早く召集がくるのならもっと早く始め、免状を取っておけばよかった」
「まあ、しょうがないさ、馬と自動車があるが、馬ではないだろうね」
「そうならいいがね」

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