◆点呼
軍隊では、朝夕、人員の状況を調べるための集合があり「点呼(てんこ)」と言っていたが、その日は夜の点呼前になり、助教の大仲伍長が来て、召集兵の皆を整列させた。「気をつけ」「休め」「気をつけ」「休め」と何回も号令をかけ、また「番号」の号令で「一」
「二」 「三」 「四」::と次々に番号を唱えた。何回もやり直しがあり、その後は一人一人を見て回り、「お前は腰が伸びていない、シャンとせい」「お前は右肩が上がっている、少し下げろ」「ああ、よし」などと注意を与えた。
次は、服装だ。「ボタンが外れている」「衿の掛け金が掛かっていない」「靴下の履き方がだらしない」などと注意を受ける。自分も注意されるのではないかとひやひやする。
ここでも、もう一度「官等級氏名(かんとうきゅうしめい)を言え」と命ぜられ、次々に名乗った。「声が小さい」「発音が不明瞭だ」などと指摘された。
その内、週番士官が赤い襷(たすき)を掛けてやって来た。見習士官であった。週番下士官も付いていた。
教育係班長で助教の大仲伍長が「気をつけ」「敬礼」と号令をかけ、「教育隊第四班、総員三十名、現在員三十名、異常なし」と報告した。入隊最初の点呼も無事終わった。
大森助手が寝床の作り方を教えてくれた。四枚の毛布を上手に敷き包んでそこに入って寝るのだが、何回かやってみた。そして折り畳んで片づけることも早くしなければならないので、みんな練習をした。三回、四回と競争させられた。遅い者は「お前はいつも遅い、ナメクジか」と叱られた。
万事、軍隊は機敏で要領の良いこと、荒くても動作を早くすることが肝心である。やがて、ラッパが鳴った。消灯ラッパだ、みんな用をすまし寝床に入った。電燈が消えた。兵営生活の長い初日を振り返っているうちに、いつしか眠りについた。