◇ビルマへの道のり

◆高雄へ上陸

「馬を上陸させて休ませよ」の命令である。船底にいる馬を一頭一頭ウインチで吊り上げ波止場に降ろした。この港では直接岸壁へ接岸できて、艀(はしけ)は不要であり幾らか楽であった。しかし、瀬澤小隊だけでも百頭からの馬で、波止場から五百メートルばかり離れた公園らしき場所に連れて行き繋(つな)ぐのだから、全部終るまでには五時間程かかったと思うが、兵隊にとっても馬にとっても大変な仕事である。
●イメージ図・写真●
陸の上で馬糧(ばりょう)を食うている馬はうれしそうである。新しい水を一杯飲んで体調を整えているのだろう。我々も久し振りに陸地に上がり、大きな風呂に入り体の垢(あか)を落し、さっぱりすると格別な嬉しさが湧いてきた。
台湾の本場でバナナを買って食べたが素晴らしい美味しさである。生まれてこの方こんな美味しいのを食べたことはなかった。
何日ここに泊まれるのだろうか?と思っていると「出発準備」の命令だ。馬を降ろして一晩(十二時間)しかたっていないではないか、何たることか。
それでは、馬も兵隊も疲れるだけではないか。上の方の意志統一ができていない証拠か。だが兵隊達がそんなことを言ってみても始まらない。どの辺の上層部相互の食い違いか知れないが、命令は命令だ。合理性等どうでもよい、命令がすべてを支配するのが軍隊なのだ。
早速、馬を船室に入れる作業に取りかかった。馬絡(ばらく)に縛られ馬は一頭一頭吊り込まれていった。馬もこんなにして吊りあげられるのはいやだろう。全員がかりでまた約五時間かかった。幸い誰にも怪我はなく順調に乗船作業ができ、すぐに出航した。
何のためか知らないが、次はボウコ諸島の馬公(まこう)に錨(いかり)を降ろした。しかし三時間程でそこを出港した。それからもジグザグコースを取りながら南へ南へと航海した。割合平穏で波も静かな日が続き、船内の生活も今までどおりでこんなものかと馴れてきた。
その頃厩当番に就いた。馬の糞を熊手のような物で掻きだし、集めてクレーンに乗せ海に捨てる作業、馬に餌を配分してやる作業、水を飲ませる作業、異常はないかと見て回るのだが、多くの馬だから結構仕事がある。馬との関わりも半年になり、常に用心は必要だが馴れてきた。馬も我々の方に馴れてきたのだろう、言うことをよく聞くようになっていた。
護衛艦(ごえいかん)が高雄(たかお)当たりまで来ていたが、その後この航海にはついていない。どうしたのだろうか。
また、初めの内は飛行機が時々飛んで監視してくれていたのに、今頃は全く姿を見せてくれないのが心配だ。輸送船団は無防備の丸裸、やられればそれだけのことで、助かることは先ずないだろう。

次の章に進む

TOPへ戻る