◇レミナの町
◆中隊本部通信班へ所属
この町はアラカン山脈の南端山麓(さんろく)の東方二十キロに位置する平地の中にあるのどかな町であった。レミナに到着した頃、中隊本部に、指揮班とは別に金井塚中隊長の側近に通信班が編成され、師団司令部と無線で連絡をとるようになった。通信士、暗号士達が師団司令部等から派遣されて来た。
溝口通信班長、清水通信士兵長、平松通信士上等兵、三枝(さえぐさ)暗号士上等兵、原上等兵、中隊長当番構(かまえ)一等兵、それに無線機器に詳しいということで私、小田一等兵が選ばれ配置された。
中隊本部の全員がいる建物とは少し離れた所に、大きな屋敷の上等な民家を借り上げ、無線アンテナを張りこの八人で一つ屋根の下で日常生活をすることになった。
金井塚中隊長は陸軍士官学校出身のエリート大尉で、公式の場で全員に号令をかける時の威厳は素晴らしく、近寄りがたいものがある。我々兵隊からすれば雲の上の人で、めったに言葉をかけてもらえるものではない。
しかし、起居を共にし八人で毎回食卓を囲んで一家だんらんの形で話していると親しみも増し、中隊長からも内輪的な話や冗談も飛び出し、和やかな雰囲気をかもし出すのである。逆に言えば、トップに立つ人の孤独をいささかでも慰(なぐさ)めることができたのではなかろうか。その頃、内地から何個かの慰問袋(いもんぶくろ)が届き、中隊長が受け取ったその中に、松竹の映画女優水戸光子のプロマイドが入っていた。中隊長は独身でパリパリの最中で大いに喜び、我々にも見せてくれ楽しんだものだった。
二、三日後の夕食の時「今日、この家の持ち主のビルマ人に、このプロマイドを見せ、これが俺のワイフだと言って紹介してやったら、ミヤージカウネー(大変よい)美くしくきれいだ、素晴らしい奥さんを持っておられ幸せだと言ってくれた。たわいのない嘘(うそ)がうまくいった」と話され、明るく「ワッハッハッ。ワッハッハッ」と笑われたものだ。
その頃ビルマのお祭りがあり、奇麗な衣装をまとった婦人が大勢出て、舞ったり踊ったりして楽しく平和でのどかだった。また部落の運動会があり、我々兵隊も参加するなど良い雰囲気であった。

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