極めて難関だが企業財務のプロへの道が開ける日本の公認会計士。高額の報酬が
約束されることもあり、弁護士と並んで文系学生に人気が高い資格だ。ただ、受験
勉強に膨大な時間を費やすためビジネスマンには手が出しにくい。そこで注目を集
めるのが米国公認会計士。日本より難易度は低く、国際標準規格により近い米国会
計基準を学べるとあって、国際派を志す企業人の挑戦が増えている。
ソニーの知的財産渉外部ライセンスグループに所属する入社三年目の服部真さん
(25)は、入社後間もない二〇〇二年九月に一念発起した。専門の知財問題でも
話が込み入ると会計用語が飛び交う。法学部出身の服部さんは「会社の成果が表さ
れる財務諸表の知識が全くない」ことにもどかしさを感じていた。
そこで始めたのが米国公認会計士の受験勉強だ。弁理士の受験勉強など自己啓発
に励む先輩が周囲にいたことも背中を押した。上司に合格を宣言して、さっそく専
門学校に通った。
ただ「あくまで会社の仕事がメーン」と割り切る。「資格は目標を明確にするた
めの手段にすぎない」。会計の知識を身につけるのは、将来「重要な経営判断に携
わる仕事がしたい」という夢があるからだ。平日は仕事に専念、勉強は休日だけと
決めた。土曜は朝から学校に通い、日曜は自宅に缶詰めで勉強した。
最初の受験では全四科目が不合格。「受かるまでやる」と覚悟を決めて挑んだ二
度目で全科目合格した。
(中略)
資格取得の効果は当初の思惑とはやや違う。米国公認会計士の受験勉強で得た知
識で、現在所属する知財部門で使うのは「百分の一程度」。強いて言えばカンパ
ニー制を取るソニーで、複数部門にまたがる知財問題に直面しても「経理処理まで
分かるので問題をイメージしやすく、人にも伝えやすくなった」。
だが、服部さんは「財務の知識はどんな仕事にもついて回る」と前向き。「身に
つけたい知識がまずありき」。仕事の幅を広げることが目的だ。服部さんは米国の
法律の勉強も始めている。根気を要する受験勉強も手段に過ぎない。
(前略)
合格率は四〇%台半ば。日本の公認会計士の八・四%と比べれば格段に広き門
だ。資格学校大手のTACによると、合格者の七〇%強が社会人。「半年で合格す
る人もいるが、働きながらだと平均一―二年かかる人が多い」と言う。受験勉強に要
する時間は千―二千時間程度だが、英語の習熟度で大きく異なる。
人事コンサルティング会社、マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティン
グ(東京・新宿)の舞田竜宣シニア・コンサルタントは「資格取得を推奨する企業
は増えているが、まだ定着していない」と話す。企業人にとって、米国公認会計士
などに挑戦するなら時間・費用の面で個人の負担によるところが大きいようだ。
ソニーはビジネスや技術関連の教育講座に対して、授業料が一万五千円を超えた
場合に半額を社員に還付する処置をとっているが、資格取得後は賃金面での優遇は
ない。「自分のキャリアは自分で築く」(同社人事部)というスタンスだ。(杉本
貴司)
日経産業新聞2004年11月8日23面の記事より。
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