ワーキングウーマン――コントローラー、経営計画にも関与する経理

女性の活躍目立つ
キャリア志向映す
専門性高く転職にも有利

 キャリアウーマンの間で、経理の管理・専門職「コントローラー」として活躍する人が目立っている。外資系や一部のベンチャー企業では経理部門の権限が強く、やりがいが大きいほか、専門性が高いため転職の際に有利なのも魅力のようだ。企業のトップレベルにまで登りつめる例も出始めている。

外資やVBで

 若い女性を中心に人気の化粧品「メイベリン」。このブランドの市場戦略を支えるのが、日本ロレアルのコンシューマープロダクツ事業本部で働く山辺真理子さん(31)だ。
 社会的に注目されている法令順守の一翼も担う。事業部の社員がそれぞれの業務を遂行する際に、きちんと決められた社内手続きを踏んでいるか、不正を働いていないかなどの監視だ。「この仕事は経営の方向性が見えてくるので、とてもおもしろい」と山辺さんはやりがいを強調する。
 企業内でこうした仕事をする人はコントローラーと呼ばれる。外資系企業では一般的になっており、「最近は日系でもベンチャー企業でコントローラーを置くところが出てきた」(キャリア戦略研究所の坂野尚子所長)など活躍の場が広がりつつある。
 職務内容は各企業によって多少異なるが、事業計画の立案に経理の立場から助言する、損益計算書や年次報告書を作る、業務が社内のルールや倫理規定に違反していないか監視する、などを主な仕事としているところが多いようだ。部下がいて管理職の側面も持つ。

交渉力欠かせず

 日本企業での経理の経験もあるモトローラの森川典子さん(45)は「一般的な日本企業の経理はあくまで数字をはじくところで、事業に参画することはまれ」と、コントローラーと「経理」の違いを説明する。
 コントローラーの中には米国公認会計士(CPA)や経営学修士(MBA)を取得している人も多い。社内の様々な部門と掛け合い、厳しい注文をつけることもあることから、コミュニケーション力も必要だ。高い専門性と対人能力を兼ね備えているため、「転職にも強く、キャリア志向の女性向き」(坂野所長)との見方もある。
 ゼネラル・エレクトリック(GE)の不動産部門、GEリアル・エステートで働く内田恵美子さんはその好例だろう。大学の教育学部を卒業後、米国の大学院で日本語教師をしたり、銀行で派遣社員として働いたりしていたが、米国の大学院で国際経営学の修士号を取得したのを足がかりに、コントローラーとしての道を歩み始めた。
 転職を繰り返しながら実績を重ね、二〇〇二年末、ヘッドハントでGEに移った。現在の肩書は日本、韓国、オーストラリアなどの経理部門を統括する「アジア太平洋担当コントローラー」。周回遅れのキャリアのスタートだったが、専門性を武器に一気に先頭集団に追いついた。
 自分である程度時間管理ができるため、営業職などと比べて育児との両立も比較的しやすいようだ。日本ヒューレット・パッカードで働く台湾人のイングリッド・ファンさん(32)は昨年一月に長男を出産。午後七時ごろには退社し、時には在宅勤務で乗り切っている。「台湾に比べてベビーシッターが一般的でない日本は子育てが大変だが、仕事はとてもおもしろい」と意欲満々だ。

経営者への道も

 コントローラーとして経験を積み、「ガラスの天井」を突き破る女性も出始めている。
 世界最大のパソコンメーカー、デルの日本法人取締役に〇一年、就任した井手登喜子さん(45)は、コントローラー出身。売上高や最終利益などを決める中長期計画の立案に財務面から検討を加え、最終的な意思決定にかかわっている。
 モトローラの森川さんも、国内で経験を積んだ後、「視野を広げたい」と希望してシンガポール、次いで香港に転勤した。昨秋に帰国し、現在は同社の主力事業、携帯電話基地局装置ビジネス部門の経理総責任者。日本の経理部門のトップ「カントリーコントローラー」も視野に入る位置である。
 コントローラーとして持っていた方が望ましいとされるCPAの合格者数も「女性の割合が徐々に大きくなっている」(ANJOインターナショナル)といい、コントローラーを目指す女性は今後、増えそうだ。
 キャリア戦略研究所の坂野所長は「地味な仕事なので性格的に合わない人もいるだろうし、経営感覚がないと成功しない」と指摘する一方、「会社の中枢部門を経験するため、経営者への道も開けやすい。キャリア志向の女性にとっては新たな選択肢になりうる」と見ている。

日本経済新聞2004年2月3日夕刊14面の記事。

CPAの仕事


  CPA職務展望

   -) | サイトマップ |