海外の資格を取得して、転身したりキャリアの向上を目指す女性が増えている。動機は様々だが、国際的に通用する資格を持てば、仕事を続けていくうえで有利になるとの思いはほぼ共通。ただ実際の転職時には、資格以上に実務経験が問われることも多く、資格取得に幻想を抱いていると、痛い目にあうこともある。
「こんなに早く、百八十度の方向転換ができるとは思わなかった」と話すのは、昨年八月、米公認会計士(CPA)の資格試験に合格した鹿野乃婦子さん(38)。今年二月、米再保険会社RGAリインシュアランスに経理の責任者として入り、同社の東京支店の設立準備に奔走している。
一九八七年に大学を卒業すると同時に、電機会社の海外営業部でカタログなどの翻訳を任された。その後、英系損害保険会社に移ったが、仕事は同じ翻訳業務。次第に「語学の知識だけで仕事をする限界を感じ始めた」。たまたま会計手引書の翻訳を手がけたのをきっかけに、会計の道に進むことを決意。九七年、自ら志願して同社経理部へ異動し、経験不足を補うためにCPAの取得に挑んだ。
昨年五月、CPA試験を受け、希望退職を募り始めていた会社を思い切って退職。相前後して、ヘッドハンターや人材紹介会社からの電話が増えた。RGAへの入社も、そうした電話がきっかけだった。「前の会社では単に経理の仕事ができれば満足だったけれど、今後は経営の視点にも立って、支店を大きくしたい」と意気込む。
(中略)
海外、とりわけ米国の資格が日本でもてはやされるのは、会計をはじめ米国基準の多くが、ビジネスの世界で国際標準として認知されていることが大きい。CPA資格取得スクールを運営するU・S・エデュケーション・ネットワーク(東京・新宿)の三輪豊明代表は、「海外展開している日本企業は、米国基準を学びたいというニーズが高く、資格保有者は優遇される」と話す。
女性が男性と同じように働くことに依然、様々な制約がある日本では、転職などの際に有力な武器になる資格を取ろうとする女性が多い。U・S・エデュケーションでは受講生約一万五千人中、半分が女性だ。日本の公認会計士のうち女性は一割に満たないことを考えれば、高い比率だ。
(中略)
ただ資格をとっても、全員がすぐ、思い描くようなキャリアを実現できるわけではない。大手国際会計事務所に勤める山崎弥生さん(仮名、29)は、苦い経験をした一人。今年二月、CPA試験に合格し、外資系企業など七カ所に願書を送った。
ところが、前の職場では事業部の収支管理はしていたものの、経理の経験はない。その点を厳しくみられ、最終面接まで進んだのは、今の会計事務所ともう一社だけだった。「資格ありきではなく、経験が重要なことを痛感した」と山崎さんは振り返る。
女性のキャリア形成問題に詳しい斎藤聖美さんは、海外資格はキャリアを開くためのパスポートにしか過ぎないという。日本では合格率が約三%の弁護士ですら、米国には約九十八万人と、司法書士、行政書士を含めた日本の法律専門家の十三倍いる。「米国では弁護士といえども、実務経験がなければ相手にされない。海外資格をとれば華々しいキャリアがすぐ手中に入ると幻想を抱くのは危険」と戒める。
海外資格は、国内の同様の資格に比べ、取得しやすい場合が多い。例えば「米国公認会計士(CPA)は、日本の公認会計士試験の約三割の勉強量で合格可能で、試験で一定の知識を持っていると証明できれば、だれでも合格できる」(U・S・エデュケーションの三輪氏)という。
CPAは四大卒、会計やビジネス関連の単位をそれぞれ二十数単位ずつ取得していることを受験要件にしている州が多い。米国で五月と十一月に試験を行う。来年四月からは全米の試験センターで、ほぼ毎日受験できるようになる。
(中略)
日本経済新聞2003年10月6日夕刊9面の記事からCPAに関する部分を抜粋しましたが、新聞記事としてはまずまずです(マスコミなんてまるで的外れなことが多いものです)。
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