ミステリー(日本)

(更新日の新しいものが上です)

索引

32. 松本清張 「ゼロの焦点」(2009/09/10)
31. 北村 薫 「朝霧」(2004/10/02)
30. 北村 薫 「秋の花」(2004/10/02)
29. 北村 薫 「夜の蝉」(2004/10/02)
28. 北村 薫 「空飛ぶ馬」(2004/10/02)
27. 北村 薫 「ターン」(2004/08/28)
26. 北村 薫 「六の宮の姫君」(2004/08/28)
25. 貫井徳郎 「プリズム」(2004/08/15)
24. 貫井徳郎 「慟哭」(2004/08/08)
23. 宮部みゆき 「理由」(2004/07/10)
22. 真保裕一 「ボーダーライン」(2002/08/25)
21. 真保裕一 「密告」(2002/08/25)
20. 真保裕一 「朽ちた樹々の枝の下で」(2002/08/25)
19. 鮎川哲也 「死びとの座」(2002/04/07)
18. 真保裕一 「盗聴」(2000/08/27)
17. 真保裕一 「奇跡の人」(2000/08/27)
16. 真保裕一 「奪取」(2000/08/19)
15. 真保裕一 「防壁」(2000/08/19)
14. 真保裕一 「オワイトアウト」(2000/08/19)
13. 岩井志麻子 「ぼっけえ、きょうてえ」(1999/12/31)
12. 中嶋博行 「検察捜査」(1999/10/03)
11. 中嶋博行 「違法弁護」(1999/10/03)
10. 井谷昌喜 「クライシスF」(1999/09/05)
9. 筒井康隆 「鍵」(1999/09/05)
8. 貴志祐介 「黒い家」(1999/07/03)
7. 高橋克彦 「前世の記憶」(1999/02/27)
6. 高橋克彦 「緋(あか)い記憶」(1999/02/27)
5. 栗本 薫 「エーリアン殺人事件」
4. 横山秀夫 「陰の季節」
3. 永井義男 「算学奇人伝」
2. 京極夏彦 「魍魎の匣(はこ)」
1. 京極夏彦 「姑獲鳥(うぶめ)の夏」

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「ゼロの焦点」
松本清張著、新潮文庫、(1971/2009、670円)
昭和33年が舞台の随分古い小説ですが、今年が松本清張生誕100年を記念して映画化されるということで、改めて読んでみました。戦後の混乱期を背景にした内容ですが、その内容そのものよりも著者の文体や表現、使用する単語、登場人物達の言葉遣いなどが、時代を表していて大いに興味を惹かれました。また犯人の追及も警察は添え物でしかなく、失踪者の妻の行動と推理で展開が進むという形になっているところも特異なものを感じました。何気なく書かれていますが新妻の行動力は凄いです。
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「空飛ぶ馬」「夜の蝉」「秋の花」「朝霧」
北村 薫著、創元推理文庫、各(1994/2004、580円),(1996/2003、480円),(1997/2004、480円),(2004、560円)
著者の所謂「円紫さんシリーズ」の第一作であり、著者のデビュー作でもあるらしい「空飛ぶ馬」から「朝霧」まで当シリーズを時系列に読んでみました。「六の宮の姫君」は第四作に当たります。全体を通して感じることは、このシリーズは一つの作品と見なしても良いのではないかと思われることです。それは一作ごとに時が経っていき、それに伴い主人公が学生から社会人へと成長していき、また彼女を取り巻く人たちも共に変化していくことによると思います。円紫さんが全てを瞬時に見通してしまうのには若干違和感を感じるのですが、兎に角感心するのは、主人公を通して作品全体に表されている著者の感性です。これが作家としての技術なのか、本来的に著者の持っているものなのか、恐らく後者の要因が強いと思いますが、どちらにしてもその瑞々しさは信じられない気持ちです。
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「ターン」
北村 薫著、新潮文庫、2000/2002、590円
古本市で200円で買いました。文庫で200円は少々高いかとも思いましたが、ちょうど著者の作品を読みたかったので買うことにしました。著者の作品の中でも「時間もの」として知られる作品の中の一つのようですが、出だしからの二人称の表現には驚きと新鮮さを感じました。読み続けていくうちに少し退屈さを感じ始めたところで新たな展開があり、そこで俄然興味が増して来ます。後半でまた新たな展開があり、結末に向かって行くわけですが、そうした話の展開の仕方がうまくできています。最後のさわやかな結末も良いですし、全体に亘る瑞々しさが心地よい作品です。
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「六の宮の姫君」
北村 薫著、創元推理文庫、1999/2001、480円
この著者については他の小説の解説文から興味を持ち、今回初めてその作品を手にしました。芥川にまつわる事が主題となっている点にも惹かれました。まず、主人公が若い女性である点に、果たして読み続けられるか疑念がありましたが、とても瑞々しい感じで良い印象を持ちました。内容としては、文学を専門にする人や小説家などはこんなことにもこだわっているのか、というような「文学論」を教えられたような気がします。
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「プリズム」
貫井徳郎著、創元推理文庫、2003、640円
いきなり少年探偵団のような書き出しには選択を誤ったかと思いました。それでもなかなか興味深い内容だったので読み進めたところ、話し手が変わるではないですか。そんなことで本作品の趣向が分かってきました。次々と犯人と目された人の観点からの独白が続き関係者の人となりと自分が犯人でないことが明かされていく。とても面白い展開だと思いました。ただ、この結末にはやはり納得がいかない気持ちが残ります。ミステリーにはやはり作者による「解決」の提示が必要なのではないでしょうか。それによって大きく評価が変わるのですから。
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「慟哭」
貫井徳郎著、創元推理文庫、1999/2003、720円
表題に惹かれて手にしました。幼女連続誘拐殺人という猟奇的な事件を描いていますが、中心は主人公である警察庁の捜査一課長の心情を描くことにあります。物語の展開の仕方もやや凝ったものですが、テクニックを感じさせるよりも素直に話に乗っていくことができます。読み手に考えさせつつ話を進める手法はなかなか優れていると思います。これが著者のデビュー作のようですが、デビュー作にその著者のもっとも基本的なものが現れると思っています。その意味で引き続きこの作者の作品を読んでみようかと思います。気になった点は主人公やその妻、愛人の現実的な存在感がもう一つ感じられないことです。恐らく著者の年齢からくるものと思われ、このあたりは仕方がないかもしれません。
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「理由」
宮部みゆき著、新潮文庫、2004、857円
既に2年ほど前に文庫化されていたようですが、新潮文庫から出されたのを機会に読んでみました。一家四人殺人という事件を中心に据えていますが、通常の推理小説とは異なり被害者、加害者、その他事件に関わった人々の家族を描くことに重点が置かれています。その分本来なら中心となるべき犯人の描写にもう一つ掘り下げが足りないような感じがしました。むしろそれにより犯人の人間性に対する不可解さを残そうとしたのかもしれませんが、ひょっとしたら筆者自身も解明できていないのではないかという気がします。また、登場人物に関しては男よりも女の描き方の方が説得力があり、どうも男達の人物像に深みが足りないように感じました。
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「ボーダーライン」
真保裕一著、講談社文庫、2002、800円
いつもの真保祐一ワールドとは趣を異にします。今回主人公が戦う相手は個人で、しかも場所は日本ではなくアメリカです。主人公は日本人ですが、アメリカで探偵になったという設定です。物語の副旋律として主人公と女性との個人的な葛藤が描かれるスタイルはおなじみの手法ですが、今回はそもそも生まれながらの犯罪者、他者の痛みを感じられない人間というものがいるのか、という疑問を提示しつつそうした人物を描いています。舞台がアメリカになったことで今までの背景描写とは全く異なり、いかにも広くてごつごつして乾燥した風景を描いて見せます。また、アメリカ社会の人間関係や個性も巧みに描いており、並々ならぬ観察力と描写力を感じさせます。
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「密告」
真保裕一著、講談社文庫、2001、819円
不撓不屈の精神を持つ主人公の姿は「ホワイト・アウト」に通じるものがあります。ただし、あれほどの格好良さは全くなく、泥臭く、屈辱に耐えながら己の内面を責めながらの戦いです。ここでの戦いの相手は警察組織でありどう見ても勝ち目のない相手です。それをどうやって勝ちあるいは引き分けまで持っていくのか。最後の主人公の戦いは読者の期待を裏切らず、それまでの鬱憤を晴らすかのように超人的な強さを発揮して真保祐一ワールドに読者を引きずり込みます。
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「朽ちた樹々の枝の下で」
真保裕一著、講談社文庫、1999/2000、876円
謎の女性を追いつつその謎解きと並行して、かつての妻への負い目とその裏の真実へと二重奏を奏でながら物語は進んでいきます。この辺りの手法は著者の十八番ともいえる展開です。今回戦う相手は自衛隊ですが、その内部は一般には知られていない世界であり、その内部を描き出す著者の手腕も折り紙付きのものです。このように所謂真保祐一ワールドが展開されるのですが、この世界の味をしめた人間にはそれに浸る安心感もあるのです。
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「死びとの座」
鮎川哲也著、光文社文庫、2002、590円
もとは昭和57年から昭和58年に週刊新潮で連載されたものです。この作者の作品を読むのは初めてですが、なんとも不思議な感じに捕らわれました。それは舞台は昭和57年にもかかわらず登場人物が戦前あるいはそれ以前の人物のように感じられることです。昭和57年と言えばもう20年前ですが、それにしても作品の中に出てくる描写が妙に古く感じられ、たとえば「必合格と書いた白鉢巻きをしめて、勉強の息抜きにマンドリンをひく青年」だとか、女性を前にして一人称の表現に迷う推理作家など、昭和57年当時にはとうていそぐわない人たちが登場してくることです。そしてそれらが妙な魅力となって、推理そのものよりそうした人物により興味が引かれてしまいます。
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「盗聴」
真保裕一著、講談社文庫、1997、467円
作者による最初の短編集です。すでに「防壁」で短編集は読んでいましたが、自分としてはこちらの方が惹かれるものが多いように思いました。これ以降の長編にも出てくるようなプロットがいくつか見られます。例えば「盗聴」での過激派による爆弾によって恋人を失った男が組織に潜入して復讐を企てることなど、後の「ホワイトアウト」にも使われていますし、「タンデム」で感じられる青春ドラマ的なものは「奪取」でも感じられるものです。そうした意味で真保裕一の原点的なものが感じられる点が惹かれた理由かもしれません。作品としては「私に向かない職業」はむしろ真保裕一らしさをあまり感じさせない作品で、まさに短編用に作られたものでしょう。自分としては「再会」に最も魅力を感じました。真保裕一の作品は人間の執念や一途な気持ちの善的な面を描いているのが特徴だと思っていますが、この作品はそうした気持ちの持つ危うい一面を描いています。
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「奇跡の人」
真保裕一著、新潮文庫、2000、743円
真保裕一のこれまでの作品とは構成、主題ともやや異なり表向き淡々と話が進められるような表情を持ちつつ、その実巧みに構成されている作品だと思います。特に母親の存在が非常に大きいにも関わらずその存在を母親の残したノートという形でしか表さず、さらにそのノートによる事故からの回復過程と回復した後の主人公の過去への探索を並行的に描いていくところなど、感心させられます。母親以外の主人公を取り巻く人間たちの描写も丁寧で、人間の深みを感じさせます。かつての恋人を発見するところから話は急展開していきますが、そのテンポもさすがと思わせますし、そうした中で生まれ変わった主人公が他人の気持ちを汲むことのできる人間であることを表向き示しつつ、実は自分の気持ちを最優先させて突き進んでしまうという過去の自分にどんどん近づいていっている様も巧みに描いています。ただし、最後の結末での元恋人の行動はやや現実味が乏しく違和感を覚えました。
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「奪取」
真保裕一著、講談社文庫、1999、上下各741円
やはり真保裕一はただものではないですね。うれしい作家を発見しました。当作品は偽札作りを扱ったものですが、登場人物や筋立てなど大変楽しめます。特に「じいさん」の登場の仕方は秀逸です。ここで話が一段盛り上りそのまま最後まで突っ走るという感じです。ラストはまるで青春ドラマみたいです。それにしてもここまでよく偽札作りを研究しましたね。これも映画になると楽しい作品ができるだろうと思います。
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「防壁」
真保裕一著、講談社文庫、2000、533円
しばらく真保裕一の作品を続けることになりそうです。これは短編集ですが、作者らしくプロフェッショナルの生き様を描いた作品集です。ただ、それぞれの主人公に家庭や男女間の問題を抱えさせているところが特徴です。そうしたところに却って少し不満も残るのですが、作者の視点や姿勢には共感します。
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「ホワイトアウト」
真保裕一著、新潮文庫、1998、781円
映画MI-2の予告編で面白そうな映画が紹介されており、その映画に原作があることを知り、そうして手にしたのが本作品です。日本版Die Hardとも言えるような主人公の活躍ですが、そこにはより深い人間の生き様があって、それを衒いなく描いているのが最大の魅力です。また、自然やダムといったものの描写力もただならぬものを感じさせます。現状の日本社会に最も必要なプロフェッショナリズムを中心に据えているのも、当作品が多くの人に受け入れられている要因かもしれません。それにしても主人公の根性、精神力には参ったの一言です。
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「ぼっけえ、きょうてえ」
岩井志麻子著、角川書店、1999、1400円
第六回日本ホラー小説大賞受賞作である表題作と書き下ろし三編からなる短編集です。表題作はその表題の意味が岡山の方言で「とても、怖い」ということだそうで、岡山弁で語られる怪談である。単に怖い話というよりもかつての日本の地方の事情が非情なリアリティでもって描かれているところに実は怖さの源泉があるように思う。そういう意味で日本的であり日本人の精神に宿っているものを描いていると言える。他の三編も時代、地方とも設定は同様であるが、異なった観点からの物語である。これらは怪談、ホラー小説と括ることはできないような小説である。いずれも著者が女性であるが故に女性の怖さが強く感じられる作品である。
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「検索捜査」
中嶋博行著、講談社文庫、1997、562円
「違法弁護」の作者による第一作で第40回江戸川乱歩賞を受賞した作品です。「違法弁護」との比較で言えば、こちらの方が気楽に読める感じでしょう。その理由は主人公の女性検事の描き方にあるでしょう。別な言い方をすればよりドラマ的と言えるかもしれません。
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「違法弁護」
中嶋博行著、講談社文庫、1998、667円
作者が現職の弁護士であることで、弁護士の世界が実に生々しく描写されています。また、そこでの人間模様も丁寧に描かれており、ストーリーを際だたせています。私のような民間企業に勤める人間にとって法曹界というは想像もつかない世界であり、その中を観させてくれる作品でもあります。
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「クライシスF」
井谷昌喜著、光文社文庫、1999、571円
一気に読んでしまいました。それだけの面白さとテンポの良さがあります。また、最近注目されている遺伝子組み替え食品の問題にもある一定の視点を与えうるものだと思います。キーワードは「組み合わせ」「複合汚染」です。主人公も現実味のある人物設定になっています。やはり著者も新聞記者だからでしょう。
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「鍵」
筒井康隆著、角川ホラー文庫、1994、480円
筒井康隆の作品を読むのは初めてですが、大きな収穫でした。特に「佇むひと」には感心しました。既に25年も前に発表されている作品ですが、少しも古くさくなく、これから先も読む人にユーモアと不気味さを与え続けるような作品だと思います。
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「黒い家」
貴志祐介著、角川ホラー文庫、1998、680円
本屋で偶然見つけた本ですが、著者が元生命保険会社員で、当作品の舞台も生命保険会社の支社ということに興味を引かれました。読み始めると支社での出来事が細部にわたって具体的に書かれており、そのことが本題の事件の現実味を一層増す効果となっています。そして、こういう人間も現実にいるだろうということが昨今の事件と重ね合わされて生々しく伝わってくる作品です。
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「前世の記憶」
高橋克彦著、文春文庫、1999、476円
記憶についての作品を集めた短編集第二弾です。前作より恐怖は影を潜め、人を愛する気持ちを全面に出しているように思います。鳥肌が立つような恐ろしさに替わり、懐かしくも悲しくそれでいて暖かい愛が感じられます。また、「熱い記憶」や特に「昨日の記憶」は記憶という装置によるタイム・トラベルの可能性を示してくれています。
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「緋(あか)い記憶」
高橋克彦著、文春文庫、1994/1997、448円
高橋克彦の作品は処女作「写楽殺人事件」以来、「総門谷」など多くを読み好きな作家の一人ですが、全く迂闊なことにこのような作品があることを知りませんでした。しかもこの作品で直木賞までとっているとは。作品自体も全く期待を裏切らない素晴らしいものです。これまで読んだ小説の中で最も怖い小説かもしれません。それは記憶というものの不確かさを自分でも分かっているからであり、また、幼少期の記憶などはほとんど無いにも関わらず、何時の頃か明確ではないが、厭な夢を見たような記憶だけがある、といった状況が自分にもあるからかもしれません。特に表題作の「緋い記憶」や「遠い記憶」、「冥(くら)い記憶」にこめられた悲しみと恐怖は心に残ります。
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「エーリアン殺人事件」
栗本 薫著、ハルキ文庫、1998、667円
一言で言えばドタバタSFミステリーです。小説というより舞台を見ている感じで読みました。分かるギャグも分からないギャグも沢山ちりばめられていて、佐藤B作率いるかつての東京ボードビルショーの舞台で見てみたい。
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「陰の季節」
横山秀夫 著、文藝春秋七月特別号、1998、730円
第五回松本清張賞の受賞作です。事件を追う元刑事の姿を警察署の人事と絡ませて描いた作品で、背景として警察という組織を巧みに浮かび上がらせている。短編であるが故にやや詰めの甘さや物足りなさも残るが、こうした作品の長編を期待したい。
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「算学奇人伝」
永井義男 著、TBSブリタニカ、1997、1200円+税
江戸と千住を舞台にしたミステリーというより時代小説といったほうがよいかもしれません。ただ、主人公が算学(和算)で生きている人で宝探しやいんちき賭博師との勝負といった場面で探偵のような役回りをするので探偵小説のようにもとれます。兎に角算学者という設定が面白い。学者といっても現代からすれば道楽のように見えるのですが、その世界は俳諧などに似た芸道に含まれるようです。この小説にでてくるように生活に困らず好きな道に没頭する人々がいただろうことは想像できます。こうゆう人々は現代のほうが実は多いのかもしれませんが、うらやましい限りです。また、この小説はむしろ短編と言えるほどだと思いますが、同一主人公によるもっとじっくりと事件を扱った長編が期待されます。
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「魍魎の匣(はこ)」
京極夏彦 著、講談社、1995/1996、1200円
こうまで饒舌に語らせる必要があるのでしょうか。削ぎ落とせる部分がかなりあるような気がします。また、一気に謎解きをする手法も疑問ですが読者を引きずりこむ力はかなりのものだと思います。作品のテーマは薄気味悪くかつ興味深いものです。江戸川乱歩の「押し絵と旅する男」を想起させる場面(随分昔に読んだのですが、未だに印象に残っています)もあるのですが、かなり印象は異なります。ただ、夕闇(魔の時)に通じる魍魎の解釈は肯けます。
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「姑獲鳥(うぶめ)の夏」
京極夏彦 著、講談社、1994/1996、960円
今まで本の装丁の絵柄から敬遠していましたが、読んでみると中々面白い。元来魑魅魍魎の類には興味があるのですが、登場人物もかなり変わっていて、彼らに語らせるそれらの現象に対する作者の捉え方に興味を覚えました。謎解きミステリーとしてはクエスチョン・マークが付くのですが、読み手の私にそこに拘る必要を感じさせない作品でした。続けて彼の作品を読んでみようと思います。
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