小説(海外)

(更新日の新しいものが上です)

   

索引

13.リチャード・マシスン 「ある日どこかで」(2002/04/07)
12.パク・サンヨン 「共同警備区域 JSA」(2001/05/27)
11.ジェイムズ・P・ホーガン 「未来の二つの顔 THE TWO FACES OF TOMORROW」(1999/10/31)
10.ジェイムズ・P・ホーガン 「星を継ぐもの INHERIT THE STARTS」(1999/10/11)
9.ジェイムズ・P・ホーガン 「仮想空間計画 REALTIME INTERRUPT」(1999/10/11)
8.パトリック・オリアリー 「時間旅行者は緑の海に漂う」
7.スタニスワフ・レム 「ソラリスの陽のもとに」
6.ケン・グリムウッド 「リプレイ」
5.スウィフト 「ガリヴァー旅行記」
4.Michael Crichton 「THE LOST WORLD」
3.マイケル・デイリー 「ニューヨーク地下鉄警察」
2.ルーディ・ラッカー 「ハッカーと蟻」
1.アーサー・C・クラーク 「幼年期の終り」

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 「ある日どこかで」
リチャード・マシスン 著、尾之上浩司訳、創元推理文庫、2002、980円
原作は1975年の刊行ですが、邦訳はこれが初めてだそうです。当作品は数年前にテレビの映画専門チャンネルで見て以来、なんとかもう一度見たいと思っていたのですが、まだ見ることができません。DVDでもまだ発売されていませんし、発売される予定も未だないようです。そんな時に偶然にも本屋の店頭で当文庫を眼にして、迷わず買い込み読んでみました。映画で印象に残ったのはタイムトラベルの方法とエンディングでしたが、それらに関して原作では少しだけ違っていました。映画の方がよりドラマチックに仕立てられていたように思います。しかし映画では全くなかった兄による回想によってやはり原作の方がより深みをもっているように思います。それにしてもこのタイムトラベルの方法は意表を突かれた感じで、時間とは何かという哲学的な問いまでも惹起するものです。
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 「共同警備区域 JSA」
パク・サンヨン 著、キム・チュンミョン訳、文春文庫、2001、667円
今上映中の映画「JSA」の原作です。原題は「DMZ 非武装地帯」ですが、日本での翻訳、出版にあたって映画と同じ題名にしたようです。私はまだ映画を見ていませんが、解説によると映画とは異なる部分が多いようです。小説としては洗練されていない部分もあり惜しい気もするのですが、その内容はかなりショッキングなものでした。現実の北朝鮮や韓国の人々の思想・感情はわかりませんが、著者が恐怖、絶望、憤怒を込めたと書いているところからも、この小説に描かれた背景は深いところで現実に繋がっているのではないかと推察されます。北朝鮮と韓国との「分断」を通して、イデオロギーによる人間支配の構造、その中の人間の悲劇が描かれており、普遍的な問題を鋭く描いた作品ともいえるでしょう。また、小説では何も触れられていませんが、朝鮮戦争による分断の歴史的前提として日本による朝鮮半島支配があったことを思わずにいられません。
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「未来の二つの顔 THE TWO FACES OF TOMORROW」
ジェイムズ・P・ホーガン 著、山高 明訳、創元SF文庫、1983、780円
コンピュータによる人工知能を主題として、機械対人間の戦いと協調の世界を描いています。後半の面白さは前半の退屈さを補って余りあるもので、前半を辛抱するだけの価値はあります。ここで描かれている人工知能の方法はもはや現時点としてはあまり成功していないストラテジーに基づいたものですが、最後のコンピュータが進化していくスピード感や内容は真に迫るものがあって小説としての説得力があります。また、人工知能としての機械が感情を持ち始める様も実にうまく描かれています。筆者としては困難や悲劇があったとしても人間と機械が協調していけること、あるいはそうならざるを得ないことを描きたかったのだと思います。また、作中述べられている、進化のどの段階も連鎖の中の次にくる複雑な段階の前提条件になる、人間も次に来るもの(機械)の前提条件だという考えもなかなかおもしろく、ありふれた機械による未来世界の描き方もあながち捨てたものではないと思えてきます。
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「星を継ぐもの INHERIT THE STARS」
ジェイムズ・P・ホーガン 著、池 央耿 訳、創元SF文庫、1980、540円
人類史と宇宙開発をうまくミックスさせた主題で、ストーリー展開として謎解きに焦点を当てたことで読者の興味を引きつけながら、一気に読ませるものとなっている。人類史という地球に閉じた命題を地球外に拡大させたところにSF特有の壮大さが見事に表出されている。題名が結末を予告しているのも洒落ている。
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「仮想空間計画 REALTIME INTERRUPT」
ジェイムズ・P・ホーガン 著、大島 豊 訳、創元SF文庫、1999、920円
現実と遜色のない仮想空間(Virtual Reality)に放り込まれたらどうなるのか。最近の映画"Matrix"にも使われているアイディアですが、人の存在や現実の意味を問う興味深い主題です。作品の構成もなかなか巧みで仮想空間での時間とその外での時間、仮想空間に入る前と入った後の時間をうまく配したストーリー展開も魅力です。
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「時間旅行者は緑の海に漂う」
パトリック・オリアリー 著、中原尚哉 訳、ハヤカワ文庫、1997、820円
表題に釣られて買いましたが、何とも不思議な小説です。人の心、時間の概念、夢、信仰、人類の希望、エイリアン、これらが絡み合って渾然一体となったような物語で、どれでも気に入ったものをお好きなようにお読み下さい、とでも言われているような感じがします。もう一度読み直すとまた別の発見があるかもしれません。
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「ソラリスの陽のもとに」
スタニスワフ・レム 著、飯田規和 訳、ハヤカワ文庫、1977/97、544円
かなり以前に「ソラリス」という題名の映画をビデオを見て以来、印象に残っていたものですが、迂闊にも原作があることに思い至りませんでした。偶然本屋で見つけて喜び勇んで読み始めました。映画ではよく意味が分からず、ただ強烈に感じるものがあったために印象として残っていたのですが、原作を読んで初めて何を主題としていたかが分かりました。最近も「未知との遭遇」をテーマにした映画が盛んに作られていますが、このソラリスのような捉え方をしたものがないのは甚だ残念です。「2001年宇宙への旅」が近いとは思いますが、やはり一線を越えてはいません。ただし、とても映画向きとは言えません。この小説が出版されたのは1961年ですが、こうした小説には時間を超えた力があります。
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「リプレイ」
ケン・グリムウッド 著、杉山高之 訳、新潮文庫、1990/97、667円
途中から早く結末が読みたくてそのはやる気持ちを抑えながら読み進めました。物語の設定は一度生きた人生を何度も生き直すというものですが、実に現実感があって、主人公の気持ちを中心に据えて描いています。生き直すというと輪廻を連想しますが、東洋の輪廻とは全く異なる捉え方で物語を組み立てているように思います。解説にファンタジー賞を受賞した作品との紹介がありますが、特に最後の展開にファンタジーを感じます。また、読み方によっては様々な思考に耽ることが可能な作品であるとも言えるでしょう。
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「ガリヴァー旅行記」
スウィフト 著、平井正穂 訳、岩波文庫、1980/94、570円
1726年にイギリスで出版された書物です。知らない人はいない本だとは思いますが、原作を読んだ人はどれ位いるのでしょう。私もこれが初めてです。最初の2編が有名な小人国と巨人国の話しですが、その後にもラピュータやいろいろ面白い話しが載っています。圧巻は最後のフウイヌム国の話しで、当時のイギリスやヨーロッパの国々の人間に対してほとんど罵詈雑言に近い表現で嫌悪感を露わにしています。これを読むと人間の本性が時代を超えて何も変わらないことが分かります。どういう気持ちでスウィフトが書いたのかは分かりませんが、もし真剣に嫌悪し憤慨していたとすると、相当神経を病むことになるだろうと思われます。また、1726年というのは日本では、徳川吉宗の治世下で所謂享保の改革をやっていた時代に当たり、年表には「オランダ人洋馬を献上、吉宗オランダ人の音楽を聞く」などということが載っていたり、1724年には倹約令が出ています。また、1722年には出版統制が行われたようですから、もしこのような書物が日本で出版されていたら、ただでは済まなかったでしょう。そういう点にも彼我の違いが感じられます。 なお、ガリヴァーが日本にも来たとは今まで知りませんでした。
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「THE LOST WORLD」
Michael Crichton 著、BALLANTINE BOOKS、1996、U.S.$7.99
「JURASSIC PARK」の続編です。間もなく日本でも映画が公開されるようです。前作ではDNAから恐竜を復元するというアイディアに驚かされたのですが、今回はより冒険談的なスリルに溢れています。また、前作ではIan Malcomが語る所のカオス理論がバックボーンとなっていたのですが、この作品でもIan Malcomの複雑形の理論が同じ位置を占めています。そして恐竜の絶滅の原因を探ることがテーマの一つになっています。そこで興味深いのは外的要因よりも「行動」をその原因に挙げていることです。そうした進化の問題や人類の占める位置などに対する考察も面白いのですが、登場人物の性格付けも興味をそそります。何やら「Alien」を思い起こさせるように「女は強い」のです。アメリカではこうした設定が受けるのでしょうか。また、最近話題になった「プリオン」を取り上げているのも憎い所です。
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「ニューヨーク地下鉄警察」
マイケル・デイリー 著、坂口玲子 訳、扶桑社、1997、(上/下)552/571円
ミステリーかと思って読み始めたのですが、違いました。主人公がニューヨークの地下鉄警察の私服警官というだけで特にミステリー、事件ものではありません。地下鉄警察ですが読んだ範囲では管轄が地下鉄構内というだけで他の部分は通常の警察と変わりないようです。ただ、その設定そのものが主人公を通じて大きくこの小説を特徴付けていることは間違いありません。最初はやや退屈な印象を持ちましたが読み続けているうちに最後まで読み通したいと思うようになりました。それは少し日常から外れてしまった主人公がどうなっていくのか最後まで見届けたいと思うようになったからです。また舞台は1986から1987年のニューヨークですが、まさにこの小説から現代のアメリカ(ニューヨーク)を感じるようになったからです。それは風景の描写から登場人物達の気質、物の感じ方、行動、彼らの人間関係まで全てからです。まさにニューヨークの様々な臭いが紛々と感じられるのです。それは私にとって違和感として感じられるものですが、それこそ言葉による異文化論的解説よりもはるかにアメリカ(ニューヨーク)を感じさせてくれます。最後に、荒廃の中にも正義と希望を持ちたいという作者の気持ちが小説のラストに表現されているように思います。
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「ハッカーと蟻」
ルーディ・ラッカー 著、大森 望 訳、ハヤカワ文庫、1996、720円
この作者の作品を読むのは初めてですが、たまたま最新の作品のようです。シリコン・バレーを舞台にした軽いタッチの近未来物です。原著は1994年発表ですから既に2、3年経っている訳で、この小説で描かれたような世界がますます身近になっているのかもしれません。作者はかつて(今も?)プロのプログラマーで、ソフトをVRでデバッグする場面など非常に現実的で興味深いものがあります。また、登場人物の描写もカリフォルニアのシリコン・バレーにいるいささかエキセントリックな人々を思い起こさせて楽しい思いをさせてくれますし、主人公が中年のおじさんハッカーで色々と問題を抱えている姿も妙に現実味があります。なお、もっと作者について知りたければ作者のHome Pageへどうぞ。Rudy Rucker's Home Page
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「幼年期の終り」
アーサー・C・クラーク 著、福島正美 訳、ハヤカワ文庫、1979/1995、620円
この作品は「2001年宇宙の旅」のような彼の他の作品の解説の中で言及されていて、いつか読みたいと思っていたものです。私の生まれる前、1953年に発表された作品のようですが古さは微塵も感じませんでした。私の貧弱な語彙ではうまく表現できませんが、このような作品を生み出す才能に感嘆するのみです。
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