![]() ![]() |
(前略)
ところで,お経の漢文の棒読みは評判が悪いのですが,じつはお経の中には,もっと意味の分からない部分があります。それは呪(真言)の部分です。般若心 経で言えば, −「羯諦。羯諦。波羅羯諦。波羅僧羯諦。菩提薩婆訶。」− の部分です。(略) これは,サンスクリット語(梵語)をそのまま音訳したものだからです。 われわれ日本人はカタカナを持っていますから,この部分はカタカナで表記するでしょう。 しかし,中国にはカタカナがないので,サンスクリット語の音をそのまま漢字で置き換えました。それがこの部分です。 では,この呪(真言)のサンスクリット語の原文は何でしょうか? 「ガテー・ガテー・パーラガテー・パーラサンガテー・ボーディ・スヴァーハー」 です。だが,この呪は,文法的に正しいサンスクリット語ではありません。したがって,正確な意味は分かりません。私は,多くの学者の研究を参考にして,い ちおう左のように訳しておきます。 「往き,往きて,悲願に到達せし者よ。まったき彼岸に到達せし者よ。悟りあれ,幸あれかし」 「般若心経」は私たちに,煩悩の此岸を去って,悟りの彼岸にわたれ,と教えています。 煩悩の此岸には, −貪欲(むさぼり)・瞋恚【しんに】(いかり)・愚癡【ぐち】(おろかさ)の三毒− の火が燃えます。その日に焼かれて,私たちは身も心も憔悴するのです。 このような此岸に,いつまでもしがみついては駄目だ。観音さま(観自在菩薩)は,すべてが「空」だと悟られて,煩悩の此岸から 彼岸の世界に渡られた。あなたがたも観音さまにならって,早く彼岸に渡りなさい!「般若心経」は,私たちにそう教えています。 そして,彼岸に渡った者に, 「羯諦。羯諦。波羅羯諦。波羅僧羯諦。菩提薩婆訶。」 と,祝福の言葉を送っているのです。それが「般若心経」の呪(真言)です。 だとすれば,私はこの呪を,次のように訳し変えてみたいと思います。 「来たよ,来たよ,ほとけの国に, みんなと一緒にほとけの国に, ほとけさま, ありがとう」 そうなんです,これは「喜びの歌」です。(後略) (P268〜270より引用) |