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「カムイ伝」  白土 三平  【小学館】
カムイ伝  子供のころには,「サスケ」とか「赤影」とかいった忍者ものの漫画や映画・テレビ番組があり,私はそういったものが結構好きだった。
 「カムイ伝」を書店で8年ぐらい前に見つけ買った。この本にはもちろん忍者の色々な術や剣法などもふんだんに盛り込まれているのだが、読み進んでいくと,この本が江戸時代の被差別民衆の生きようと、百姓(農民)を支配するために幕府や藩がとった悪辣な手段をイメージ化しながら、部落問題を訴えることを一つのテーマとしているのだということが分かってくる。(2002年7月)


(第一巻P100より)
 もし,みなさんが人間としての正当な要求を無視され,おしつぶされてしまったとしたら,どのように憤慨し,かつ悲しむことになるだろう!!今日,人間社会は高度に発展し,いよいよ,人々にとって生活は喜びとならなけらばならないはずであるのに,事実は逆である。
 この物語も,寛永の末から寛文年間に至る30年間の歴史の中から,喜びの生活を求めて,そこから少しでも前へ進もうとした人々の生活をうきぼりにしてみた。
(中略)
この物語の舞台である徳川封建社会をえがくには,その根本的矛盾を支えている要素・・身分制度という権力によってつくられた差別政策を通してみればその本質を明らかにすることができる。
(第一巻P296より)
 カムイのように,差別され,社会の最低辺におさえつけられた人間が,そこからぬけだそうとするには,当時にあっては,個人的な飛躍しかなかったろう。今のみなさんなら,おそらく,仲間と手を組んで,共に,自分たちの境遇をかえようとするだろう。
(中略)
 その夢とはどんなものだろう。まずしい社会においては,夢もまずしくなることがおそろしい。まずしい社会においては,小さな夢のために,大きなことをしなけらばならない。われわれの祖先も,そして現代のわれわれもそのまずしい社会に生きている。そして,この物語の主人公たち・・カムイ,正助,竜之進らも,結局小さなことのために,大きなことをしてきえていったのである。しかし,人々のあとには,人々が続き,そして,今,われわれがあるのである。

3つの場面を引用して見ていきます。カムイ伝より 3つの場面に
■ 江戸時代の被差別民衆と農民たちの関係
■ 幕府や藩の分裂支配のイメージがよく分かる場面
■ 農民と被差別民衆が手を取り合って、同じ田畑を作ることができるようになった場面。
 おそらく今の部落史研究からすると、この物語の歴史的考証については、疑問のあるところはあるのだろう。が、差別とはどんなもので、権力をもつものの考えはどのようなものなのか、ということをイメージで示してくれるとてもよい漫画である。今回全15巻を読み直して、あらたに怒りを感じながら、「なんで正助が・・!」「カムイはどうなった?」と少し終わり方にも疑問を感じるところはあるが、作者の意図や意気とさまざまな知識、表現力には、「さすが!」と言いたい。


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