Chi-Circleトップページに人権と教育カムイ伝に

「カムイ伝」  白土 三平 【小学館】より引用

■ まず,江戸時代の被差別民衆と農民たちの関係を見ていきたい。
 これと同じよう に容器を別にするというような場面が映画『橋のない川』にもあったように思う。どちらも怒りに震える.
 この場面に登場している正助は,この物語でたいへん大きな役割を持っている。とても正義感が強く,勇気と知恵をあわせ持っている。彼の才覚と働くものの社会を作るための努力は,徐々に実を結び,物語が進むにつれ,彼の住む花巻の村と周辺の村々の人々を変えていく。
 ここにあるように正助は農民身分でも庄屋に隷属する下人である。正助をなぐる父親ダンズリだが,彼にも被差別民衆にかかわる秘密があった。
もう少し先をいうと,正助は,夙谷に住む被差別民衆のナナさんと結ばれる。しかし,当時の身分を越えた二人の愛には,数々の困難が待ち受けている。

■ つぎに,幕府や藩の分裂支配のイメージがよく分かる場面を2つを引用する。
 『自然にやつら みずから互いにいがみあうようにしむける
・・というような罠が本当に悪辣に敷かれていく。
人の幸せをなんだと思っているんだ!
 百姓 一揆などの首謀者は、その要求が聞き入れられても徹底的に調べられ(実は拷問)、厳しく処罰された。
 この場面は、首謀者たちが牢の中で自殺し、その遺体が家族には返されず、「非人渡し」になり、被差別身分の人たちがその遺体を、村人の前に引きずりながら歩かされているところである。
こういった役割や一揆の鎮圧、処刑などを被差別民衆がやらされる場面が数々この物語に登場する。

■ 農民と被差別民衆が手を取り合って、同じ田畑を作ることができるようになった場面。
 『うんだ。もう非人も下人もねえ。』
といいながら仲良く非人の頭と田ををおこしている人物が、一番最初に引用した場面の正助の父ダンズリであることに注目してください。
 農民の子どもと被差別民衆の子どもが手をつなぎ、一緒に遊んでいる。
 P296の引用の「小さな夢」かも知れない。でもこのため何人の命をかけた犠牲者がいたことか。しかもこの「小さな夢」−本当は大きな究極の夢かも知れない−は、実現されたかと思うと、まだまだ先にこれまた悪辣な手段によってくずされようとしていく。
 最後の正助の、微妙な表情は今の喜びとその先の起こるであろう困難を表しているのではないだろうか。



カムイ伝に