『小惑星美術館』寮美千子/パロル舎(1990)
'98.01.19読・記



 『ノスタルギガンテス』が大人のための童話なら、この『小惑星美術館』は大人と子どものための童話だ。

 疑問を持たない子どもたち、疑問を持つことを許さない世界。

 時間の輪は、いつも同じようにくるくると回り続ける。ヒトが多くのことを知ってしまえば、輪途切れてしまう。途切れた輪は螺旋になって遠心力が先と先とを引き離し、宇宙の彼方まで伸び上がる。そして、二度と元の位置に戻ることはない。

 だから、知ってはいけない。

 ありふれたストーリーに見えて、このお話がありふれていないのは、ユーリの「帰りたい」と思うその心の強さと、それ以上に「知りたい」と思う好奇心にあるのかもしれない。好奇心はまさに「れんがの月」には存在しないものであり、それを持ち続ける限りユーリは「れんがの月」の世界で「異邦人」でいることができる。その気持ちが、ユーリに世界の謎を解く鍵を与えていく。

 繰り返される「小惑星美術館」への遠足の本当の意味、何百年も生きる船長の悲しみ、そして、歴史。謎を解けば解くほど、輪に巻き込まれてしまった人々の、戻らぬ時の悲しみを、ユーリは見ることになる。

 でも、ユーリや、これからの子どもたちには溢れるほどの時がある。本当の謎を解く鍵を心に持っていれば、時の流れは悲しみにはならない。これからは。

   

 

 

 もう一人のユーリは、どんな謎を解いたのだろう。


日記:寮美千子関連
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