アントシアニン

 赤しそは梅ぼしを漬けるときにいっしょに入れると鮮やかな赤色としその風味がすばらしくマッチします。世界に誇る日本の保存食の中で、筆頭に数えてもさしつかえないでしょう。赤い梅ぼしと白いご飯のとりあわせ。食欲減退の夏バテのからだをシャキッと。

 しそはひろくアジアの暖かい地域が原産とされています。日本では、縄文時代の遺跡からしその実(種子)が出土しているほどで、その頃すでにハーブとして利用されていたのでしょう。各種ビタミン、ミネラルが多く含まれていて、古くから薬用として広く用いられてきました。

 香り成分でもっとも多く含まれているピレルアルデヒドという物質は別名シソアルデヒドとも呼ばれ、強い抗菌作用があります。生ものの食品に付け合せて、食あたりを防いだりします。免疫効果を正常にもどすはたらきがあるとされるαーリノレン酸は、アレルギーを抑制するはたらきもあり、アトピーや花粉症などのアレルギーにも効果があるといわれています。

 赤しそは塩でもんだだけでは紫色のアク汁が出るだけですが、それをしっかり絞って梅酢を含ませ、さらにもむと今度は真っ赤に変身してしまいます。子供のころもそうでしたが、今になってもおどろいてしまうほど。白いご飯に赤い梅ぼし。それだけで食欲がでてきます。

 赤しその場合にはシソニンという色素が、梅酢に多量に含まれているクエン酸などの酸に反応するからだそうです。酸性アルカリ性の試験で使われるリトマス試験紙の青が赤に変わるのと、同様の変化。

 リトマスというのは、地中海西部沿岸や南半球地域から採れるコケの一種で、その色素をアルコールで抽出したものを酸・アルカリを判断するための試験紙に使います。日本ではかつて『ウメノキゴケ』という地衣類を利用してリトマスを作っていたことがあるそうです。こういう性質をもつ植物の色素はほかになすの紫いろの発色、酸性雨で変色するアジサイ、アサガオ、赤カブ漬などとたくさんあります。

 それらの色素の多くは、『アントシアニン』系なのだそうです。もともとの色は青っぼい色ですが、酸にあうと赤い色に発色する。また中和するにしたがって退色し、アルカリにあうと青色にもどる性質がある。とくに『酸』に出会うと赤くなるという性質が食品に応用されているところなんかは、実にうまくできているといえる。

 なんといっても『赤』という色は精神を高揚させるばかりか、食欲をもアップさせてくれるところがいいですね。

吉村庸氏(高知学園短大教授)からコメントをいただきました。
著 書:
「原色日本地衣植物図鑑」保育社
「短期大学からの挑戦」(株)南の風社
「ナチュラルガーデンブック」
環境活動:
森・里・川ビオトープの会(高知県)主宰
 リトマスゴケは地中海地方が中心ですが、南米やイベリア半島などでも採取されており、原材料を発酵させて作ります。実験的には材料にアンモニア水を加え、それにオキシドールなどの酸素発生剤を加えてしばらく置くと紫色系統の色調に変わります。リトマスゴケそのものが天然に酸化されて発色するわけではありません。

 日本にはリトマスゴケは産しません。ただ、この発色の原理はレカノール酸という地衣成分が基本ですので、この成分を含む地衣類であればリトマスを作ることは可能です。以前(戦時中)武田薬品ではリトマスを日本産のウメノキゴケを使用して上記の方法でリトマスを作り、リトマス試験紙を作りました。できた色素を酸性にすれば赤、アルカリ性にすれば紫に変わります。

 ヨーロッパでは各種の媒染剤を使用して毛皮、羊毛を染めていました。アニリン工業が勃興するまではこのリトマス染料で大もうけをしたようです。