バイオ燃料用米


 バイオ燃料用米について話題になっています。また国でもその実用化を目差すという意志表示をしてるようです。とはいえ、コストの面でとうてい無理だといわれている日本でのバイオ燃料の工業生産。減反だ耕作放棄だで農地の荒廃が問題になっている昨今、それを解決する切り札となりうると真面目に考えてのことなのかどうなのか。はたまた振ってわいたバイオ燃料ブームはやっぱりブームで終わるのでしょうか。また、植物の成長で消費される炭酸ガスが燃料の燃焼で消費される酸素を帳消しにするため『エコ』という、なんとも故事付けとしかいえない理屈ともあいまって、またまたバイテク企業の出番となってしまうのでしょうか。

資源米の試験栽培
 新聞によれば最近、バイオ燃料用米の試験栽培が民間でも行われています。これは国から県に依頼があり、民間でのテストもという状況のようです。今年愛知県の農家(西尾や弥富市の)でも試験栽培されているのは『タカナリ』という品種。これは茨城県農研の品種でインディカ種(長粒種)系。最近作られた品種ではなく、1991年に登録されたもので固定品種です。食味はよいとはいえないので、国内で食用として栽培されることはないでしょう。

バイオ燃料米はコストに見合うのか
 バイオ燃料用としては将来化石燃料が10倍以上の価格ともなれば話は別ですが、現状では生産コストの点で現実的とはいえないようです。生産コストを下げるには収量を上げることが第一の目標となります。現在数値としては『タカナリ』の120〜130%収量増(通常反収600Kgのところ900Kgくらい)といったところ。これはたくさんの肥料を投入しての数値とのこと。しかしながら、せめて500%くらいの収量が得られないとコストの問題は解決できない。つまり生産コストを1/5に絞らなければ現実的とはいえません。ただし、籾のほかにわらもすべて含めれば、いずれも炭水化物の量としては同じため、これを効率的にアルコール化することができればまんざら夢でもない。

籾以外は短期の分解が難しい
 とはいえ、籾以外の部分ではセルロース(植物性繊維)とさらに難分解性のリグニン(木質の硬い部分といえばいいのでしょうか)がほとんどで、これでアルコールを得るには一旦糖に転化する必要があり、その効率的な技術は現状では難しいといわれています。

 それに比べ南米ブラジルなどでサトウキビからエタノールを得る方法はいたって合理的なものかもしれません。サトウキビの多くの部分はアルコールに転化しやすい『糖』なのですから。しかしサトウキビ畑のために、多くの貴重な熱帯森林が伐採されてしまう結果にもなりかねません。

 米国のブッシュなどが言うように、ヨシやススキに似たスイッチグラスなどの放っておいても育つ雑植物を利用できるとなれば、低コスト化も考えられないわけでもない。それが可能ならば資源米タカナリのわらも使えるのかもしれませんが、それならばわざわざお金をかけて米を作る必要もないわけです。今茂っている栽培放棄地の刈り草を燃料化することを考えたほうが合理的かもしれません。

遺伝子組み換え技術は有効か
 資源米の生産コストを問題にするならば、一にも二にも収量を上げる以外に方法はなく、ここではGM技術は出番とはなりにくいのかもしれません。実際、収量が5倍にもなるという夢のような品種が出たためしがありませんが、食味を無視できるとあれば、それこそスイッチグラスのような雑草の遺伝子を組み込んだGM米なども可能かもしれません。ただしそのようなGM米の近くで、私たちの食べる米が栽培されるとしたら混入、混雑はさけられるはずもなく、食の安全の保障が難しくなってしまうかもしれません。放っておいても増えるGM雑草など、物騒極まりなしといったところです(そんな品種をバイテク企業が開発するはずがない)。

 また、今までにバイテク企業が開発・発売してきた鳴り物入りのGM作物が農家の利益アップに役立った例はなく、いずれも収量は落ちてしまっている。ひたすらコストを引き下げなければならないバイオ燃料用の資源米では、高い種子をメーカーから買ってまで栽培はしないのではないでしょうか。

 ただしこれだけは断言できます。バイテク企業は『バイオ燃料』ブームを足がかりに、なんとかその座を守るべく、まことしやかでいいことづくめ、自分の会社が儲かるだけのGM品種を知恵をしぼり、必死で考えているのではないでしょうか。

バイオ燃料は是か非か
 話がそれてしまいましたが、バイオ燃料は是か非かという問題があります。現代の資本主義経済を維持するためにはとにかく消費をし、燃料を燃やし続け、拡大し続けなければならないという宿命があります。にもかかわらず環境問題は緊迫しており、私たちの生存を可能にするためには切り詰めなければならない状況になっている。バイオ燃料ならいくら燃やしてもプラスマイナスゼロなのだから是なのだという考えは明らかにおかしい。燃やせばとにかく二酸化炭素が出てしまうわけで、現状維持は目標としては決してふさわしいものではありません。

 農作物を作るのであれば、それは人々の命をつなぐものでなければなりません。世界に貧困と飢えに苦しんでいる人たちがたくさんいます。その人たちを救うどころか、ますます窮地に追いやりかねないバイオ燃料ブーム。エコロジーだかなんだか知らないけれど、それ以前にこんなことではちっとも人にやさしいとはいえません。経済を活性する、伸ばすとは、誰かが富むとは、誰か弱いものを食うことでしかありえないのではないでしょうか。

 人類はとうとう自然からの恵である『食べ物』まで燃料にしようとしています。子供のころ「ごはん粒をおろそかにすると目がつぶれる」とまで言われたものです。子供たちへの『食育』で、それをどう説明したらいいのでしょう。

 それとも将来、自動車のエンジンを掛けるとき「いただきます」と唱える時が来るのでしょうか。
スィッチグラス
米国でバイオ燃料の原料として利用が考えられているというイネ科の多年草。牧草にも使われる雑草で繁殖力が強い。日本でいえばススキなどに似ていて、背丈は3mほどにもなる。