ゲノム編集食品(生物)
19/03/26

 ここ最近、めまぐるしくも、ゲノム編集というバイオテクノロジーが遺伝子組換えにとって代わろうとしています。医療方面では日進月歩ですが、食品でも利用されようとしています。詳しいところはぼくには無理なので、ぼくのわかる範囲で…。

 遺伝子組換え操作では、いろいろな方法で細胞の中の遺伝子に目的の遺伝子を入れ込む。方法としては、打ち込む、ウィルスなどの核酸分子に運ばせる、電気ショックなど。いずれも遺伝子の配列の目的の部分に組み込みたい遺伝子が入ってくれるとは限りません。当然ながら、精度が低いため、たとえば、愛知県で約20年前農業総合試験場で行なわれていたGMイネの場合、パーティクルガンという機械を使い(打ち込む方法)目的の遺伝子を入れ込んだと思しき2万のカルスと呼ばれるイネの植物細胞の塊を培養し、イネに成長させる。このとき、除草剤耐性のイネなので、その除草剤を使い、枯れずに生き残ったものだけを培養します。

 当然、まともにイネにならない(奇形など)ものが大多数のため、イネの苗の形に育つものだけを選抜し育成します。愛知県の試験場の場合、2万カルスに遺伝子組換えを施し、さらに選抜を重ね、640固体→190固体(系統)→6系統へと絞込み、そのうちから3系統で最終的な隔離ほ場(野外のほ場)での試験栽培を行い、最終1系統を残すというのがプロセスでした。愛知県のGMイネの場合、研究開発に目途を立てるのに約6年を要しました(このGMイネは反対運動の結果、商品化を待たず中止されました)。

 これに対してゲノム編集の場合では、遺伝子配列の標的の部分をある種の酵素(CRISPR-Cas9)を利用して直接狙い、失効させ、目的の遺伝子をそこに導入することが可能なので、2万ものカルスを必要としません。

 近畿大学では、短期間で、しかもたくさんの肉をつけるゲノム編集「マッスルマダイ」を開発。これは、マダイの成長抑制ホルモンをつかさどる遺伝子の配列を失効させ、一方的に成長を促すというもの(マッスルマダイの場合、外部からの遺伝子は挿入されない)。

 ただし、このマダイの場合、数千個の卵にCRISPR-Cas9による操作が行なわれたとのこと。初めての実験ということで、念のためそれだけ多くの卵が使われたのかもしれないけれども、それにしても、そんなに多くの操作が必要だというのには疑問を感じてしまいます。

 最近の報道では、ゲノム編集はいかにも百発百中かのような報告がなされ、消費者はすばらしく安全性の高い方法のように受け止めてしまいます。さらに、マッスルマダイの場合、外部から遺伝子を導入していないから遺伝子組換えの考え方にあてはまらないという解釈になるというのが国の見解なのだそう。さらに、交配などの品種改良や突然変異と変わらないとの表現も付け加えられている。

 また、遺伝子を操作しようとすると、オフターゲットという現象がつきまとう。オフターゲットとは的が外れること。マッスルマダイで数千の卵が必要なのはなぜかといえば、それだけオフターゲットが起こる可能性があるからです。

 仮にオンターゲット(命中)だったとしても、他の遺伝子の配列もまちがって失効破壊されてしまう場合もある。それによる、本来あってはならない影響が起こる可能性もあります。またさらに、オンターゲットの場合でも、それに連鎖してほかの配列もおかしくなってしまう予測不能な現象が起こってしまう場合も否定できない。などなど。

 こう考えてくると、ゲノム編集食品が安全などと評価するのは間違っている。そもそも、遺伝子組換えとは日本語的解釈。もとの語の『Genetically Modified Organism』とは『遺伝子を改変した生物』という意味で「組換え」も「編集」も遺伝子を改変していることに違いはありません。

 ゲノム編集は安全だから、すぐにでも販売できるようにするなどという解釈は、とてもとても危険であるし、時期尚早といわざるを得ません。

 なにか原発は安全、という繰り返された念仏に酷似していて、はなはだ危険を感じてしまうのはぼくだけでしょうか。

ゲノム編集マッスルマダイ(左)