かりんとうと地粉

2018年より、道長のかりんとうに使用する小麦は、従来の『農林61号』から、愛知県の開発した新品種『ゆめあかり』に変更となりました。

地粉かれんとう
地元の音羽米研究会の中心的な活動をしている『こだわり農場鈴木』さんでは減反による転作作物として小麦も生産しています。減農薬対策も進んでいて、愛知県の秋まき小麦の農薬慣行レベル7回を5割以上減の3回で栽培中(今後種子消毒を温湯に切り替えれば2回)。

その小麦の製粉を知多半島武豊町のわっぱ知多共働事業所にお願いしているということで、それを使った加工品を考えてきました。小麦粉を使った身近なお菓子としてかりんとうはどうかということで、野菜を作っていただいている鈴木慶市さんに相談。鈴木さんは豊橋市のかりんとうメーカーの役員もしてみえ、かりんとう作りのプロ。早速道長の作業所で試作。さすがは鈴木さん。水の量から練り加減、酵母菌を入れての発酵にかける時間などを微妙に調節。そして試作品を前に「これならなんとかいける」との鈴木さんの声で一同やる気をおぼえたのでした。

通常かりんとうの原料にする小麦粉といえば、超超強力粉というのが常識。それくらいでなければ現在のようなサクサクとしたかりんとうにはならない。こだわり農場鈴木さんの小麦粉は中力粉なので、できあがりは比較的歯ごたえのよいかりんとう。でもそのかわり衣となる黒糖が中まで染み込むことなく、さっぱりとした甘味。さらにおかげで地粉の風味がしっかりとして、ちょっとそこらにないかりんとうになりました。

地粉100%、沖縄産黒糖、天然酵母、地元産ごまで風味付けというこだわりかりんとうをいったいどこで作ってもらおうかと探した結果、岡崎の神谷製菓さんに相談。こころよく受け入れてくださったのでした。地粉でかりんとう作りという未経験の仕事にもめげず、見事地粉かりんとうを完成していただいたのでした。

あとでうかがったところ、地粉でのかりんとう作りは非常に難しいということを知りました。地粉の場合、毎回毎回水分や練り加減、発酵など非常に気を使うとのこと。やはり神谷さんにお願いしてよかった。

つぶ塩がりんとう
地粉かりんとうが好評ということで、さらなるかりんとうをということになり、加工品学習会を開かせていただき、農業や加工品製造業、消費者、流通業者など、食品にかかわる人たちに参加をお願いしました。そこでのいろいろな意見の結果、つぶ塩がりんとうということになりました。なんといっても『硬派』な歯ごたえということで“がりんとう”と命名されました。

ここでもこだわりぬいた結果、試作はたび重ねられ、とうとう半年が経過。やっとのことでできあがっても硬さをどうしようということになり、いっそのこと硬くしようということで決着がついたのでした。

これもあとで神谷さんにお聞きしたところ、かりんとう作りでこれだけ苦労したことはなかったとのこと。おそらく神谷さんの職人技なくして『つぶ塩がりんとう』の実現はありえなかったかもしれません。

地粉という小麦粉
地元産の小麦を製粉する場合、大きな製粉会社に大量委託するというわけにはいきません。とはいえ、専用の製粉機を設備した施設が必要です。わっぱ知多共働事業所では小規模ながら専用の冷蔵庫と小麦の調整から製粉までの一連の設備を完備しています。

従来のの小麦農林61号は製粉するとASW(Australian Standard White)などの外国小麦とくらべて独特な香り(内麦臭というそうです)があり個性的。含まれるタンパク質(グルテン)の量は多くなく、中力粉に分類されます(2018年より、愛知県が開発した新品種『ゆめあかり』に切り替わりました)。

また大きな製粉工場では均一な小麦粉を作るため、種類のちがう小麦をブレンドしたり、コンピュータ管理で含まれる水分の調整をしたりします。でも地粉の場合、比較的小規模な製粉工場に委託することが多いため、そこまでの品質調整ができないことが多い。

日本ではかつてはどの地方でも、小麦は地元で作られていたはずです。当然その粉は地粉であったわけで、それぞれの特徴を生かし、食に応用されていました。

輸入の外麦ばかりが、または北海道産が比較の対象になりがちですが、もとからある、またはそれをもとに品種改良された、地域の品種を見直し、食文化に取り入れてゆく努力が必要ではないでしょうか。

神谷製菓さんのような腕のある職人にゆだねられたとき、地粉はすばらしくも本来の良さを発揮してくれています。

これからも『地粉かれんとう』『つぶ塩がりんとう』をよろしくお願いします。
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