米粉について


最近米を見直そうということで、小麦粉に代わって米粉を使った加工品が多く考えられています。ただし一言で米粉といってもその種類はいろいろ。使用目的によって製粉方法や粉の粒の大きさがちがったりします。

小麦と米の大きな違い
その違いのうちでいちばん重要な点について。小麦にはたくさんの種類のたんぱく質が含まれていて(100g中10g前後、米では2〜3g)、そのうちで特に重要なのがグルテニンとグリアジンというたんぱく質。このふたつが水といっしょになるとグルテンというたんぱく質を作ります。これは張力と粘性を併せ持つ独特なたんぱく質。そのため小麦粉はいろいろな加工に向き、非常に汎用性の高い粉ということがいえます。それに比べて米粉にはそのような性質のたんぱく質がなく、たとえば酵母菌などで発酵させようとしても小さな気泡を保つことができず、パンなどへの利用が難しい。

最近では小麦の国際価格の高騰などで、関心が安定した米に移ってきています。国の政策としても、小麦の生産拡大はかえって財政を圧迫しかねない状況です。そのような状況下で、米の加工品への期待も高まりつつあり、それにつれ製粉技術や加工技術も向上しつつあります。家電製品で米と酵母菌だけでパンが焼けてしまうというものまで発売されています。

米粉の原料
米粉の原料はうるち米またはもち米です。うるち米の場合、弾力はありますが餅のような粘りはありません。また製粉する前に蒸すなどし糊化(アルファー化)する場合もあり、この場合、和菓子など出来上がりの製品の見た目、食感、風味などもちがい、まったく複雑です。加熱しない場合はでんぷんはベータ型。

上新粉:うるち米 非加熱(ベータ)
精白してから、水洗い、乾燥させ粉にしたもの。粉の粒子が大きいものから『新粉』『上新粉』『上用粉』と呼ばれる。上新粉は団子、柏餅、ういろうなど。上用粉は高級な上用饅頭、ケーキなどに使われる
白玉粉:もち米 非加熱

水洗いし、石臼で水挽きし、沈殿させ乾燥させる。寒中に水を替えながら10日ほどさらし(タンパク質を洗い除く)、乾燥させるため『寒晒し』とも呼ばれる。大福餅、求肥(ぎゅうひ)、最中
羽二重粉:もち米 非加熱

白玉粉よりさらに微細で上等。大福餅、羽二重餅など
餅 粉:もち米 非加熱

洗米、乾燥し、粉にしたもの。上新粉と製法はおなじ。大福餅、だんご、柏餅、草もち、ういろうなど
寒梅粉:もち米 加熱(アルファ化)

洗米・浸水後蒸してもちにし、白焼き後、製粉したもの。押菓子、豆菓子、糊用、工芸菓子など
道明寺粉:もち米 アルファ化

浸水、烝煮、乾燥、製粉。おはぎ、桜餅など
しんびき粉:もち米 アルファ化

道明寺粉をさらに小さく砕き、色が付かないように炒ったもの。 おこし、揚げ衣
微塵粉:もち米・うるち米 アルファ化

道明寺粉とおなじ。玉あられ、桜餅、おこし、落雁(らくがん)
だんご粉:もち米・うるち米 非加熱

上新粉に餅粉を混合したもの。加熱はしない。関西以西で用いられる。団子など

製粉方法
これも用途に応じて方法が違います。手間のかかる製粉方法もあります。
スタンプミル(胴搗):
杵で搗く。ロール挽きより細かい製粉が可能。熱による影響がすくない。上用粉や羽二重粉などの製粉に利用
ロール挽き:

金属製のギザ歯のロールを二本噛み合わせるように高速回転させ、わずかな隙間を通過させることで粉にする。上新粉や一般の餅粉に利用。まさつ熱が出るのが難点
石臼挽き:

石臼で製粉。熱による影響が少ない
水挽き:

熱に弱いもち米の製粉に用いられる。浸水した米と水をいっしょに石臼に通し製粉。沈殿させ水分除去し乾燥。余分な水溶性たんぱく質を除去し、でんぷんの純度が高い粉が得られる
衝撃式ピンミル:

粉砕室内の回転盤に角柱状の突起が複数あり、その回転盤が高速回転することで製粉される
気流粉砕:

渦巻状の高速気流を利用し、粒子同士を衝突させて超微粒子に粉砕。熱がでにくい


胴搗き

ロール挽き

石臼挽き

水挽き

衝撃式ピンミル


米粉の粒の大きさ
粉にした場合、その粒度によって食感などが変わります。一般に粒度が細かいほど製品のきめも細かくなり、ふんわりとし、舌ざわりも滑らかになります。

普通粉の粒の大きさを表現するのに『メッシュ』や『目開き』という用語を使います。メッシュは篩(ふるい)の『アミ』のことで、これは1インチ(2.45cm)の長さの中にあるアミの目の数をあらわします。たとえば70メッシュといえば1インチの長さの間に70個の目が並んでいるということになります。アミの線径にもよりますが、このとき『目開き(アミ目の幅)』は約200〜240ミクロンくらい。

アミの『目開き』はステンレスや繊維の太さによってちがいますが、SWG(British Imperial Standard Wire Gage )という基準では、70メッシュの場合、ひとつのアミ目は 0.243mm の幅ということになっています。しかしSWGの基準がすべてではないので、『メッシュ』と『目開き』の間には統一の値は無いようです。

通常では小麦粉の粒度は100〜150メッシュくらいの粒度のようです。米粉の場合にも細かく製粉することはできますが、たとえばロール挽き製粉機などでは摩擦熱がでてしまい、米のでんぷんに『アルファー化(糊化)』が起こりやすく、よい米粉ができません。そのため胴搗や水挽きなどによる製粉が行なわれたりします。また製粉方法によって粒の割れ方(破片の形)もちがうため、同じ粒度の米粉でもそれを原料に製品を作った場合、食感などがちがってきます。

和洋菓子や麺類などを作る場合、おなじ『上新粉』でも、米の品種、産地、ブレンド、製粉方法や粒度、製粉所が違うだけで性質も変わるはずです。粉の世界も奥が深く、長年経験をつんだ職人でさえも悩ませてしまう。まして、あらゆる要求、需要にあわせた粉を製造する製粉業者は、よほどの熟練を要するのかもしれません。

戦後、日本では輸入小麦から得られる小麦粉ばかりに頼ってきたため、米粉を原料にした加工食品についてはあまり積極的ではなかったように思います。また、米粉の需要をもっと伸ばさなければいけないのはもちろんですが、小麦も麺類などにむかしから利用されてきた伝統作物です。いずれも日本の食文化の基本を担っているからこそ、守ってゆく必要があると思います。

自らの食料は自らでまかなうというもっとも基本的な考え方が必要ではないでしょうか。私たちは、正しい、あるべき食文化を、農業というもっとも基本的な産業を支えることで守ってゆかなければならないと思います。
11/03/19