小麦と地産地消
09/07/23

最近のバイオ燃料や豪州での干ばつなどの影響もあり、昨年は輸入小麦の価格が大幅に高騰しました。またさらに今年4月には今度は値下がりという乱高下という事態もあり、小麦の大量輸入国である日本にとって影響が大きいところです。こういった状況は国産小麦の価格、さらには先行きについて大きな問題を投げかけています。

輸入小麦の価格
小麦の輸入はそのほとんどを直接政府が行っています。現在小麦は自由化されているとはいえ、業者が輸入しようとするとそれにかかる関税が非現実的なため、ほとんどおこなわれていないようです。

コストプール方式とマークアップ
輸入小麦の価格設定には国産小麦との兼ね合いもあります。当然のことながら、国産小麦を生産するには非常に高いコストがかかっており、それをカバーするために輸入小麦に大幅な金額の『上乗せ』をしています。

政府が輸入する小麦には直接の経費として港湾での諸経費(2102円/t)に『マークアップ』と呼ばれる輸入関税に相当する金額(16,868円/t)が上乗せされた上で小麦の価格が決定されます。輸入小麦から生まれる利ざやを国産小麦の価格安定のために転化するこの方法を『コストプール』と呼んでいます。マークアップによる収益は国内小麦の生産者価格に補助金(品目横断的経営安定対策という大型農家に対する所得保障制度)というかたちで補填されています。

国産小麦と輸入小麦の生産コスト
国産小麦の生産コストをそのまま上乗せして価格決定すると、とんでもない金額になってしまいます。ちなみに米国などで小麦を生産する場合(計算によるとおそらく)1tあたり4万円ほどのコストがかかっていると思われます。内訳は種子、農薬、肥料、人件費、農機具の減価償却などですが、日本でのコストをざっと計算してみると、なんとtあたり14万円ほどになってしまいます。いったいこの10万円ほどの差は何なのでしょう。

米国や豪州では、まず圧倒的に広い畑にぽつんと大型機械とそのオペレーター1人で済んでしまう。さらに本来小麦は乾燥気候に適した作物ですから、農薬の使用量はおそらく日本の半分ほど。同じ面積あたりの生産量は米国や豪州のほうが間違いなく日本よりも多い。

生産コストの違いもさることながら、さらに1971年以降、1ドル=365円という為替相場が変動となり、現在では1ドルにかかるコストもほぼ1/3になってしまったことも、格差をさらに広げた要因でもあります。というわけでたとえば米国と国産とでは生産コストで決定的な差があり、それを縮めることは非常に難しいといわざるをえません。

今年の麦の値段
今年秋、業者に売り渡される国産の新麦は、たとえば愛知県豊川市産農林61号でトンあたり55,000円ほど。それに対し、輸入小麦の平均価格は今年4月に値下がりしたものの65,000円ほどだそうです。なんと輸入小麦のほうが高くなってしまっています。ちなみに2年程前には輸入小麦は48,000円ほどでした。国産小麦も同じような推移で価格が管理されていましたが、国際的な小麦価格の高騰で大きな不均衡ができてしまいました。

コストプール方式がなりたたない
現在、輸入小麦に上乗せされているマークアップという一定の利益(16,868円/t)を切り詰めない限り、国産小麦の価格との格差がでてしまいます。かといってマークアップを切り詰めれば国産小麦の14万円ほどの生産コストを補填することができなくなってしまいます。

地産地消と国産小麦
ここまで考えてくると国産小麦の行く末に大きなかげりがあることに気付きます。要するに「いっそのこと国産小麦の振興をやめてしまおう」ということになりかねません。国産小麦の振興は財政をさらに圧迫しかねない、というのがその理由です。

本来、日本はあまり小麦を多く消費する国ではありませんでした。なぜなら小麦の栽培は高温多湿の日本の風土には合わないからです。小麦製品といえばせいぜい麺類くらいのものでした。現在、パンやお菓子としての小麦の大量消費がこのようなアンバランスを生んでいるのではないでしょうか。
米は日本人の主食です。米についても日本の生産コストは米国などとはくらべものにならないほど高いわけですが、こればかりは絶対に守らなければならない農産物です。これを輸入に換えるわけにはゆきません。

これからの日本が主食の米を中心にした食文化を守ってゆかなければ、小麦の問題を根本的に解決することはできません。また大豆やトウモロコシについても、そのほとんどが食肉用の家畜の飼料に、また食用油として輸入されています。これもまた日本人の食文化とは本来縁遠い食品です。

私たち日本人は本来の食文化について考え直さなければならない時代にいるのではないでしょうか。