農林61号
09/03/11

農林61号。その名を聞いたことのない人はいないかもしれません。それほどに日本では一般的に作られている小麦の品種です。昭和9年、福岡の九州小麦試験地というところで交配され、昭和19年太平洋戦争の最中、佐賀県農業試験場で育種の結果生まれたそうです。以後60年以上、日本中どの地方でも安定してしかも多収の品種として、今日に至るまで高い支持を得ています。

農林61号の特徴
・小麦タンパク(グルテン)の量は多くはなく中力の品種
・小麦粉にすると褐色をおび、内麦臭と呼ばれる独特な臭いがあり、味もある
・和麺用として適しているが、パン用としては不向き
・外麦にくらべて灰分が多い など

小麦粉について
現在日本の小麦の自給率は14%。90年代の10%割れと比べると改善されているといえばいえます。ただし、この数字は麺用では50%を占めますが、パスタ用では0%、パン用では3%というのが現状です。日本のように収穫時期に高温多湿となってしまう風土では、栽培期間が長い硬質小麦の生産は難しいためです。

一般の小麦粉と地粉
和麺用としてオーストラリアから輸入されるASW(Australian Standard White の略)という銘柄の小麦があります。農林61号と比べてこちらは乳白色で臭いが少なく、味も非常に淡白。ただしASWというのは品種名ではなくあくまでも商品名で、オーストラリア本国で最低2種類の小麦を混ぜ合わせて作られます。複数の品種をブレンドすることで品質のばらつきを少なくするためです。

日本の製粉会社で小麦粉を製造する場合もそうですが、複数の品種の小麦をブレンドすることで、顧客の要求を満たす品質を確保しています。

一般的な製粉の工程
まず、これはごく一例で非常に大雑把な説明です。製粉の最初の過程でまず小麦に水分を与え(テンパリング)、外皮(ふすま)を取りやすくします。その後製粉機に通して小麦からふすまを取り除きます(一回では完全に取りきれない)。小麦は外皮に近い部分ほどタンパク質の含有量が多い。そのため、何度か繰り返して行われる製粉→篩(ふるい)、さらに風を利用して比重の違うふすまや小麦粉を選別するピュリファイヤーという工程を繰り返すことで、性質のちがう小麦粉を選別することができます。1回目に選別した粉を一番粉、二回目を二番粉というように分別します。こうして同じ作業を繰り返すことで、性質のちがう何種類かの小麦粉が得られ、一連の製粉の作業が終わります。

さまざまな食品メーカーが要求する小麦粉は多種多様。さらに大きな機械で大量生産するため、品質にばらつきは許されません。こうしてできあがった各工程の小麦粉をさらにブレンドすることにより、厳しい顧客からの要求を満たす製品を作ることができます。

地元産の小麦粉
国産小麦よりもさらに地粉(地場産小麦の小麦粉)を使いたいという消費者もいます。道長では愛知県豊川市の『こだわり農場鈴木』さんの農林61号の小麦粉でかりんとうともち生麸の製造をお願いしています。そのほかにも麺類の製造にも使われています。その小麦粉は知多町のわっぱ知多共働事業所にお願いをして挽いていただいています。またわっぱ知多では一般消費者向けに販売もしています。

多くの場合、地元産小麦を粉にするために買い付けされる小麦は10トンとか20トンというあまり大きくない単位であり、その量は大手の製粉工場からすれば小さな量でしかありません。その小麦粉の原料は農林61号という単一の品種でしかありません。しかもそれぞれの麦畑で収穫された小麦では土質、日当たり、水の量などが一定していません。またその年により作柄もちがう。そしてここで決定的で大きなちがいがあります。小さな規模の製粉設備では@テンパリング→A製粉→B篩(ふるい)→Cピュリファイヤーという工程をすべて行えるとは限らないのです。一般の製粉工場が持つ設備は非常に大掛かりで複雑です。小さな製粉工場ではとても対応しきれるものではありません。

以上の説明でわかることは、一般の国産小麦粉と比べて地粉は非常に個性の強いものだということ。さらに毎回の製粉ごとで品質のばらつきが大きく出てしまう。またそのばらつきを調整することが難しい。ふすまが小麦粉のなかに通常よりも多めに含まれてしまうため、灰分が多くなり、臭いも強くなってしまう傾向があります。

要するに一般の国産小麦粉と地粉とでは、原料の小麦から製粉の仕方まで、まったく比べ物にならないほど『別物』だということです。片や何時購入しても同じ品質で使い勝手のよい小麦粉。そして片や地粉では購入するたびに品質がちがう。使いにくい。個性が強い。使い方を間違えるとかえってそのよさを引き出せないことも。結局消費者はそれに懲りてしまい、地粉を敬遠する結果になってしまうことにもなりかねません。

麺用の小麦の自給率は50%だけれど
はじめにも書きましたが、麺用の小麦の自給率は50%とかなり高い割合となっています。でもこれはたとえば農林61号が単独で麺用小麦粉に加工されているということではありません。たとえば輸入のASWに風味を加えるためにブレンドされていることのほうが多い。まさに調味料的な使いかたで。せっかく親しまれてきた農林61号なのに、屈辱的な使われ方をしてしまっているような気がします。

ある麦の専門家が、最近の日本人は白くて『無味無臭』の小麦粉を好む傾向がある、と話してくれました。無味無臭のベースにあとはいろいろな味付けをするだけでよいということだと思います。

たとえば道長で販売している『かりんとう』は香りもよくおいしいという評判をいただいています。でももしその原材料を最近の日本人の好む小麦粉で作ったとしても、おそらく何の感激もなければ、『おいしさ』もないのではないでしょうか。

食べるとはほんとうに楽しい。美味しいとはすばらしいことです。でも本当の美味しさとは一体なんでしょう。それは『食』という文化に根ざしたものであり、『農』文化なくしてありえません。

なぜなら、それはつくられた美味しさではなく、守られ、受け継がれてきたかけがえのない『そのものの』美味しさなのだから。


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