ポストハーベスト

食育の重要性が叫ばれる昨今、また地産地消の言葉に連れ、学校給食では米飯食の回数がふえてきていますが、まだまだアンバランスな内容の献立も目立ちます。

そんな中、米については国産、地域内産のものが使われるため問題はないのですが、小麦に関してはそうともいえません。パン食、めん類の原料などには、まだまだ輸入小麦が使われているため、ポストハーベスト農薬の不安がつきまといます。ポストハーベストとはもちろん『収穫後』という意味ですが、本来栽培とは無関係な『カビ止め』や『殺虫』を目的とした薬剤による処理を意味します。おもな農薬としてマラチオン、クロルピリホスメチル、臭化メチルなどで、いずれも有機リン系の殺虫または殺菌剤です。もともと有機リン系殺虫剤は1940年ごろ、ドイツのバイエル社により、神経ガスの目的として開発されたということです。臭化メチルはその毒性もさることながら、オゾン層の破壊につながるという理由から、国際的にも使用を禁止する方向にあります。

現在、DDTなどのダイオキシンを含む有機塩素系農薬の使用が多くの国で禁止されている中、有機リン系農薬への比重は高いものとなっています(マラチオンは環境ホルモンの疑いがあります)。

原則として日本ではポストハーベストは認められてませんが、マラチオンやクロルピリホスメチルは病害虫防除の目的では使用が認められています。愛知県農業総合試験場に問い合わせたところ、愛知県の場合小麦の栽培にこれらの薬剤が使われることはないそうです。冬季、積雪などで湿気の多い地方ではその可能性があるとのこと。

農民連では数々の役に立つ検査データを公開していて、小麦のポストハーベストに関するものがいくつかあります。『学校給食パン類の残留農薬分析結果』という項目ではマラチオンとクロルピリホスメチルの他にフェ二トロチオンというやはり有機リン系の薬剤について検査を行なっています。そして多くの学校給食に使われているパンからポストハーベスト農薬の残留を確認しています。

このような検査は市販のパンについても行なわれており、そのデータから判断すると、学校給食の場合も市販品と変わらない結果がでています。

現在学校給食用のパンに地元産の小麦粉をあわせて製パンする試みが行なわれています。『地産地消』を推進する目的としてはその第一歩として評価のできるものです。しかしながらこの方法では、ポストハーベストの残留農薬を減らすことはできるかもしれませんが、その危険から逃れるというわけにはいきません。

地元産100%のパン
それに対して埼玉県の学校給食で出された地元産小麦100%のパンでは、当然のことですが、以上の3種の農薬の検出はありませんでした。国産の小麦がすべて安全だとは言い切れませんが、少なくとも輸入小麦に直接施用されるポストハーベストとくらべると安全性は高まるわけです。

愛知県の学校給食用小麦粉の残留農薬
愛知県の学校給食会に農産物の残留農薬についての情報の開示を求めたところ、どの項目についても『検出せず』というデータが示されました。はっきり言ってそういったことはありえないことで、何がしかの数値が記録されていて当然だと思うのですが。


『ポストハーベスト農薬汚染』日本子孫基金ビデオより
このように安全性が最優先されなければならない学校給食なのですが、それにたいして求められているものがたとえば『大量仕入れ』のための便宜性であったり、それにワンセットでついているあやふやでもまがいなりにもたよりになるトレーサビリティであったりするのです。

本州以南で本格的に小麦が栽培されるようになって、まだ数年といったところです。農業試験場での品種の開発、栽培現場での技術の向上などと、まだまだこれからというのが現状です。それだけに地元産小麦には大いに期待をしたいところです。