食 と 農


 『地産地消』という言葉は、農水省の1981年からの4年計画『地域内食生活向上対策事業』というのから発生した言葉とのこと。この事業は、戦後の高度経済成長に立ち遅れた、農村社会の生活水準向上を図る目的で行なわれてきた『生活改善普及事業』の一環で打ち出されたもので全国8府県で実施された。伝統的な日本の食文化での塩分の取り過ぎやカルシウムなどの不足しがちな食生活を改善する。また地域内生産の食料の地域内消費を実施する、いわば地域自給を目標とした。

 ここでちょっと問題としたい点は、これはニュアンスなのだけれど、それまで貧弱であった山村地域の『食』の改善が目的であって、たとえば韓国で伝統的にいわれてきた『身土不二』が意味するところとはちょっとちがう。

 この『地域内食生活向上対策事業』というのが好成績を得たかどうかについては推して知るべしだけれど、とにかく『地産地消』なる言葉は一時その目的を失い、影を潜めていたといって差し支えないと思う。『身土不二』が韓国から、『スローフード』という言葉がイタリアから、『フードマイルズ』が英国から日本に紹介されるようになり、さらに日本の食料自給率の低迷の中、食と農の行く末を案じてか、これではいけないとそれらに対抗する言葉として持ち出されたのが『地産地消』ということにもなりそう。

 1971年発足した日本有機農業研究会。こちらでは1978年、会の創始者一楽照雄氏が『生産者と消費者の提携』という10項目の中で『産消提携』という言葉を使っている。これは言うまでもなく、生産者と消費社が提携する中で食農文化を築いてゆこうという意味。そのためには生産者と消費者は、互いに顔の見える関係でなければいけない。いうならば、本来の意味をあらわす言葉は、日本では『産消提携』の方といえる。

 まわりくどい話になってしまったけれど、おそらくどの国、どの地域にもこれらの言葉を意味するものがあるにちがいない。ことわざにも『郷に入ったら郷に従え』なんていうのもある。

 人は何のために食べるのだろう。テレビを見れば『食べ歩き』だ『グルメ』などと興味をそそる。あるいは食べるとは、食欲を満たすことなりなどと・・。今さらいうまでもないけれど、『食』とは『医食同源』とも言うように、私たちが健康を保つための行為に他ならない。

 では『農』とはなんだろう。いうまでもなく『農』とは、単なる生産活動とはちがう。その基本は『自給』ということがいえる。自分で食べる分を自分で給するということになるのだけれど、たとえば『地域自給』『流域自給』というように、やっぱりこれも有機農研の言葉を借りるなら『産消提携』ということになる。

 ぼくが言いたかったのは、農と食とは切っても切れないきずなで結ばれているということ。それは言葉を換えれば、農=生産、食=消費ということであり、農は土であり、食は身である。さらに土は環境であり、身はわたしたちの健康である。つまり私たちは環境と『=』で結ばれる。あたりまえだけれど、すごいと思う。