漬物と添加物


道長では渥美半島(愛知県田原市:旧渥美郡)の前川漬物さんにたくあん漬の製造をお願いしています。『古式一丁漬』『甘口しぼり』『梅肉しぼり』『ひの菜ぬか漬』がそれにあたります。

ほかの業者さんに委託生産をお願いする場合とくに気を使う点は、道長の意向に沿った商品をまちがいなく作っていただけるかどうかということです。とかく製造業者さんは自分に慣れた方法、原材料での製造を望むものです。しかし、それが安心・安全につながらない場合があります。

前川漬物さんでは『砂糖しぼり』という方法で『甘口しぼり』『梅肉しぼり』というたくあん漬を作っていただいています。

一般のたくあん漬を製造する場合、塩蔵の大根(輸入原料を使う場合も塩蔵)を塩抜きします。これにソルビットや液糖などに酸味料やアミノ酸などの調味料、防腐剤などを混ぜ合わせた濃い調味液を加え、大根に十分吸い込ませふやかす。すると大根はふっくらと仕上がります。高塩度のベースにかなり濃い味の調味が上乗せされ、とても食べられたものではないような気がしますが、アミノ酸や甘味料などを強力に効かせることでそれも緩和されたような錯覚がはたらき、うまいと感じさせることができてしまいます。

これに対して前川漬物さんのたくあん漬では、もともとさほど濃くない塩で漬けた大根を重石で何度も漬け直し、さらには粗糖を使って漬け直し、大根を凝縮していきます。こうすることで大根の体積は生の状態の1/3程度に減ってしまいます。でも押して縮めるだけなので風味が薄まることがなく、さらにはここちよい歯ごたえが得られます。

このように一般のたくあん漬けのように添加物を多用した食品はまず素材が貧弱なため風味も悪く、必然的に濃い味付けでごまかす結果となります。

今から40年ほど前には事情はさらにきびしく、ぼくが幼少のころ経験した食は現代よりかなりひどい状況だったと今にして思います。現代より強烈な添加物漬けの食品を食べ、それをおいしいと思って育ってしまった。これはとても残念なことだとも思います。

でも、しかしです、幸いにもぼくは自分の母親の作ったぬか漬けの野菜をたべることができました。土用の炎天の下、縁側に干されている梅ぼしをつまみ食いすることができました。七輪にホタテ貝に取っ手をつけた小鍋をかざし、焼き味噌だけのおかずでごはんを食べて満足感でいっぱいになれた。むしろそんな『食』に支えられていまの自分があるのだとも思います。そしてそのときの味、香りが今も新鮮に思い起こされるのです。

ぼくにはそんな単純な味が魅力だし、たくあん漬けに求める風味・歯ごたえもそれが基本になっているのかもしれません。

おいしそうなのはいいけれど、これが添加物の固まりかと思うと・・