有機認証とトレーサビリティー



日本で有機農業者が協会を作ったのが1971年(日本有機農業研究会)、世界では以外にもそれより1年あとの72年でIFOAM(世界有機農業運動連盟)がフランスで発足しています。現在本部はドイツ。

有機認証の歴史
日本で有機認証が制度化されたのは2001年、JAS法の改正の際。この有機の検査認証制度の創設のほかに、食品についての表示の充実強化が図られました。なおJAS法は5年ごとに見直しされることになっています。

海外での有機認証制度は80年代からで、その基準作りについてはIFOAMの『有機農業と加工の国際基準(82年策定)』が強い指導力を発揮。日本の有機JASの基準も大きくそれに依っています。IFOAMの認定は規範的なものとはいえ、日本での有機はJASの規格でしか認められません。そのため、日本に有機農産物やその加工品を『有機』として輸出するためには、海外の現場でJAS有機の検査をクリアする必要があります。

ただしJAS有機と同等の水準を持つ国で有機認証を受けた農産物(農産加工品)については、日本に輸出する場合には、そのまま有機JASの表示をすることができることになっています。その国名は次のとおり。

アイルランド、米国、イタリア、英国、豪州、オーストリア、オランダ、ギリシャ、スイス、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、フィンランド、仏国、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブルグ

先日納品先の担当の方からこんな要求をいただきました
道長で『和風きむち』という商品があります。それに使っているH社の有機トマトピューレについて、それが有機であることの証明となる書類を要求されました。

もちろんのことトマトは農産物なので、色々な事情でピューレの原料として満足な質と量を確保するため、H社では国産の生のトマトか米国産、ペルー産のトマトピューレのいずれかを仕入れています。ここ何年かは国産トマトの収穫量の不足から、ペルー産(米国産より品質がよいため)トマトピューレを使用しているとのこと。

国産有機トマトの場合は、H社の有機認定工場でピューレにして缶詰に、輸入のピューレの場合には現地でJAS有機認定を受けた加工工場で作られたものを日本に輸入して、缶詰にパックしなおしています。

本来たとえば今回のような加工食品が有機認証を得ているとすれば、それに係る産地での有機認定証書は必要なく、最後の一枚、要するにH社の認定証書がそのすべてを総括するものとして有効です。しかしながら、消費者などから要求のあった場合には、それにかかわる書類を提示する義務をメーカーとして背負っています。これは有機の場合、理論的にはトレーサビリティーが完璧だからです。

すべての信頼性を追及するとすれば、H社の有機認証のほかにペルーのピューレ工場とそこで使われているトマトについての有機認定書類が必要になります。そしてさらに可能性として使われるかもしれない、米国産ピューレの加工工場の関連書類と原料トマトの同書類。さらに日本のトマトの有機を証明する書類も必要といえば必要です。

ここで問題になるのは、加工工場の場合はそこに固定されているため明確ですが、作物としてのトマトの場合には少々厄介です。毎年同じ生産者、ほ場で作られるとは限らない。あるいは昨年はそのほ場で作付けがなかったかもしれない。

有機認定証書は5年に一回発行されます。あとは毎年の検査がクリアーされたという通知書がそれに代ります。そのため、認定証書よりも『通知書』の方が有効であったりします。あるいは国によってそのあたりが違う場合もあるかもしれない。

ここまで来るといくら有機とはいえ、加工食品の場合にはその信頼性を確実にするためにその経路をすべてトレースバックすることが困難な場合もありうる。または単に農産物の場合でさえ、有機生産者が偽って禁止農薬を使った場合、有機認証はもうあてにならないことになってしまう。

では有機認証とはいったいなんなのでしょう。最終的に国が認めたのだから、その農産(加工)物が有機であると証明されただけということになるわけです。つまり、信用できないかもしれない。しかし正直な有機生産者が疑い深い消費者に農産物を流通する場合、それ以外に証明する方法がないわけです。

要するに有機認証とはそういうものだ、ということです。反対にこの制度が必要でない場合もあるわけです。生産者と消費者が互いに提携し、信頼しあっていれば何も問題はない。

有機認証には何かむなしさが付きまといます。ビジネスとして農業を捉えるならば、それはそれでも仕方がない。ならばこの制度が有機というウソを厳重に取り締まるためのものでさえあるべきだと思う。
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