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総論 「やおい」の独断的基本解説


 「やおい」という言葉も「同人誌」という言葉もご存知ない方でも入ってきていいよ、というのがウチのページのうたい文句だったりいたします。なもんで当然これらオタク業界のディープな専門用語の解説をせにゃならんという話で。とりあえず解説させていただきますが、これは店主の独断大増量の解説なのでどうか鵜呑みになさらないでください。これ読んでもし興味をお持ちになった方は、サブカル系のオタク評論誌の目次で「やおい」とか書いてあるヤツ探してみて下さい。グーグルで検索してみてもいいし…。少なくともワタクシごときの語れるネタじゃないんすよ。ホント。

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 ネットを漂っていらっしゃる方々は、おそらく「個人的な創作」や「個人的な批評」ということがずいぶん幅広く行われていることをご存知だと思います。自作の絵や詩や小説やエッセイ、旅先のフォトや日記、本や映画の感想なんかを公開しているページは挙げるに尽きません。「同人誌」は、こうしてインターネットが一般化する前から存在したこれら「創作」や「批評」の媒体となるもので、いわゆる自費出版物の一形態です。基本的に一般書店の書棚に並ぶものではなく、同人誌即売会というこれら同人誌の交換会において売買される、少々アングラがかった小冊子と思っていただけば間違いないでしょう。
 さて、この「同人誌」なのですが、2002年現在、非常に大きな市場を形成しております。特に大きいのがアニメ・漫画・ゲームに対する批評や、その原作をベースにした創作ストーリーの類。関連産業含めれば年間1兆円を超える金が動くと申します。――この件に関して店主に『なぜにそんなモンが受けるんや?』と問わないでください。店主はマーケティングのプロでも電通マンでもないんですから。


 で、まあここからかなり深い話になるんですが。「やおい」というのはこれら素人の創作したアニメ・漫画・ゲームに関する物語の中で「女性向けホモセクシャル表現を含むモノ」ということに一応させてください。とりあえず。この定義にもイロイロあって『パロディじゃなきゃやおいとは言わない』とか、『JUNEはやおいとは違う』とか…うるさいんですよ、マニアが(いやマニアじゃなくって研究者か。大学の社会学研究なんかがやってるみたいだし)。関連して「ボーイズラブ」と呼ばれるやおいの文庫本が、出版界の売れ筋商品として流通している現状があります。社会的に無視できないレベルで、この「やおい」が浸透してきているという事をご理解いただければ幸いです。

 男性向けのポルノは、それこそ有史以前にさかのぼるほど歴史の古いものです。女性向のポルノにも同様の歴史があると推察されますが、詳細は民俗学研究でも紐解くしかありません(女性があからさまに「性」を語る場として、「女組」みたいな隣組組織が今も残ってる村があるし)。とりあえずそういうものが近代日本で表面化してきたのはここ40年内。女性向恋愛小説(含む性表現)のハーレクイーンロマンス、一時隆盛を極めたレディースコミック。そこまではっきりした物でなくても、女性週刊誌の体験告白みたいなモノとか。…年配の男性諸氏の中にはそんなものがあること自体どーにも理解の範疇外という方も少なくないとは思います。女には性欲はないと思いたい方もいらっしゃるでしょう。『もしかしたら自分はこれまで女性を性的に満足させられなかったんじゃないかッ!?』と不安に行き当たった方もいらっしゃるかも知れませんが、気を確かに持って下さい。これまでの人生それで通ってきたんなら、たぶん大丈夫でしょう。あなたの知らない所で笑い者になってたかも知れませんが、そんな事は気にしなきゃいいんです。
 とりあえず「女性だってエロが見たいんだ」という事だけ受け入れて下さい。そりゃあもう人生投げてもいいくらい強烈に読みたがってるモンだと(笑)。

 で、まあここで浮上してくるのが男女の性差という物でございます。男性向けエロの場合、若くてかわいいねーちゃんが乳ほりだしてりゃ、海綿体直撃される方が大多数なんですが。女性の場合、若くてハンサムな男がチ○ポほりだした写真に欲情するかと言ったらそうじゃない。当たり前の事で恐縮ですが、男性向けエロ雑誌で女性は抜けないんでございますね。反対に生理的嫌悪を覚える方も数多い。そりゃあまあ、ねーちゃんのハダカみて「やりて〜」とか言う女性がいたら、それはそれでちょっとコワいものがございます。隣でAV見てた女が「この男優美味そう」とか舌なめずりしたら、男性的には少々キツいモノがあるんじゃないかと…。ま、女性が興奮するには男性向けエロとは性質の違うモノが必要なんだという事は、言わずともご納得いただけるのではと思います。
 天下の大作家・渡辺淳一先生がおっしゃるには“男は一人でイけるが、女はパートナーが必要だ”――さすが大先生は言う事が違う。これ以上ないくらいの正論でございます。そうなんですよ。このパートナーとの信頼関係的なものが、女性向けエロには含まれてくるんですよ(それを“愛”という言葉で括りたい方はどーぞご随意に)。早い話が、女性向けポルノにはパートナーとのセックスに至るまでの信頼関係を築くプロセス(物語)が必要なんです。
 以前男性誌がハーレクイーンロマンスのセックス描写を笑い者にする記事を読んだ事がございますが、論旨は“たかがチ○○ン入れるだけだろ〜”ってなモノでございました。いやもう確かにその通り。女性向けエロに含まれる「ロマンス」という物は、男性にとって抱腹絶倒のギャグでしかない。女性にとってのAVが「男ってバカで野蛮で生殖器に手足がついているような物よね!」と怒りを露わにされるのと似たようなモンです。
 男と女の間には、深くて暗い川がある。こんなにも離れたセクシャリティを持つ両者が歩み寄ってセックスせにゃならんとは、何と世の中不条理であることよ(笑)。ま、だからこそありあらゆる面白い話が世の中に満ち、カタログのような雑誌や甘ったるいラブソングに何億もの金が動くという…。愛は資本主義経済を支えてるんですよ。バカにしちゃあイケマセン。

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 「やおい」がその他の女性向エロと異なるのは、「ホモセクシャル表現を含む」という一事につきます。誤解しないでいただきたいのは、これが「まっとうなホモセクシャル」とは一切無関係であるということで。ぶっちゃけて言えば「やおい」は「少女マンガの主人公(少女)をそのまま男(少年)にしてセックス描写入れた物語」なんですわ。ですので真面目なホモセクシャル傾向のある方は「やおい」という文字を見たら逃げてください。…笑えるで済めばいいけど、ヘタすっと怒りが込み上げるんじゃなかろかと店主は心配しとります。ま、ホモの皆さん人生経験豊富だし、たいがいの方は自分の人生で手一杯のはずだから、世間知らずのバカ女のかますギャグに構ってるヒマなんてないでしょうけど(笑)。
 こういう妙なポルノを読みたがる女の子は、一般に「やおい少女」と呼ばれてます。ネット上では「腐女子」とか「やおらー」とかの呼び名もあるんですが、とりあえずここでは「やおい乙女」と呼ばせていただきます。「やおい少女」でもいいんだけど…いかに何でも四捨五入すれば40な自分が「少女」を名乗るのはいかがな物かと(笑)。「乙女」なら年齢不詳のニュアンスだし(こだわる)。店主だけなら「やおい女」でいいけど、一応少女のニュアンス入れときたいので。
 さて、ここで問題。女もエロが見たいのはまあよしとして、それがなんでホモになるんや、というお話。これには諸説ございまして、貞淑を貴しとする女性への性的抑圧が原因であるとか、被虐対象を男性とすることでえげつないエロを抵抗なく受け入れられるからだとか…いやもう(笑)それこそ人間の深層心理に潜む闇を暴く、ってな覚悟で研究者の方が解明に努力して下さってるんでその結果をお待ち下さい。店主ただの当事者(研究される側)ですので、己の超自我がどーなってるかなんてとんと判りません(笑)。
 統計によると人間関係に対する意識の低さ以外、やおい乙女とそれ以外の女の子に大した差はないんだそうです。判りやすく言うと「気の回らないボケ」がやおいをよく読んでる、ってコトなんですが。これはおたく全般の特徴でもあります(やおいはアニメパロディから発生した事から、やおい乙女はオタクの一種族と認知されております。実際、オリジナル設定のやおいを「JUNE」「ボーイズラブ」と呼び、「やおい」はアニメパロディ作品のみを指す用語として使われる場合も多々あります)。そりゃ友達と遊ぶより女の子とHするよりアニメの続きが気になる奴らが「気配りクン」であろう訳がない。人間よりも、本やパソコンやアニメが好きなのがオタクという物。そういうヤツの求めるエロが、現実をより乖離して自分に都合のいいモノになるのは当然の帰結。

 ここで一応店主なりの考えを述べようと、ない知恵絞って考えたんでその辺を少し。
 やおいの主要読者層は10代後半から20代前半。要は愛されたい盛りの女の子たち。彼女たちの中の“女である事”で愛されることを嫌う層がレディースコミックや体験告白よりもやおいを選ぶ。「一発やらせろ」じゃない愛が欲しいコ、女として以上に自分という人格を選んで愛して欲しいオンナノコが「やおい」という話立てを好んで購読し、あるいは自分から創作している、と。――たぶん大筋はこれで合ってると思う。しかしそこから先が何とも問題。
 既成の「恋愛・セックス・妊娠・結婚」の一括りを受け入れちゃえる女の子は、決してやおいにハマらない。やおいにハマるのは既成の「恋愛」がイヤな子。って言うより「恋愛は面倒くさいけど、ラブラブはしたい」ってタイプかな。何せ「気の回らないボケ」だから、相手との相互関係である「恋愛」はかなりの難関。いくら世間様が声高に「愛ってすばらしい」を叫んでも、そう簡単にはたどり着けない。
 やおいを読んでみると判るんですが(危険ですので特に男性の方はご注意下さい。爆死します)、話中、二人が恋仲になる心理課程に恐ろしく説得力がない。一番スゴいのになると無理矢理強姦して「オレはお前を愛してるんだ!」で、カップルになる(爆笑)。んで、クリスマスやバレンタインにプレゼントを渡したり、痴話喧嘩してみたり。三角関係してみたり、無理心中してみたり。いやその…世間様のテレビドラマの「恋愛」を忠実になぞってるだけという大変判りやすい恋愛観なんですね。
 とにかく面倒な手続き全部すっ飛ばして、人も羨むラブラブモードでイチャつきたい。ドラマのようなカッコイイ恋愛がしたい。後腐れないセックスがしたい。――そういうニーズが女性側、しかも軽はずみに恋愛できないやおい乙女から出た時に、ダイレクトに感情移入できる女性キャラというのは相当に扱いにくい(やおい乙女が感情移入して恋愛になだれ込めるシュチュエーションを書くのは至難の業でございましょう)。そこで引っ張り出されたのが、それ以前から少女マンガに登場していた「美少年」(少女マンガにおいて性を語るために考え出された「記号」)。男でも女でもないこの存在になら、ステキな恋愛をただ眺めさせてくれる話が可能である。…かくして「愛にケチ」な人間のための恋愛劇場として、やおいが自然発生して現在に至る――ってのがそこそこ理に適った想像かな、と。
 アメリカのゲイ社会の創生期、もう「天才」としか呼びようのない人間が多く居た、と申します。既存の恋愛概念をすべて打ち壊し、自分達の求める恋愛をこの世に形作った人たち。――一歩間違えばやおい乙女、この「天才」になれるかも知れないんですが、少々望みは薄いですかねぇ(笑)。欲望だけは腐るほど渦まいてるみたいだから、もう少し現実の「他人と向き合う事」ができれば面白い物が生まれる可能性はあると思うんだけど。
 若さや乳のでかさで判断してくる現実の男がキライで、「気の回らないボケ」な自分がそのまま愛される事を求めてて、街を歩く楽しそうな恋人達のマネがしたい女の子。でもってかなりのスケベ(笑)。やおいがそういう女の子の「欲望」の壮大な実験場である、という感覚を判っていただけましたでしょうか。

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 最近の若い方の価値観と言うのは「愛こそすべて」とでも言うのか。「やさしさ」や「思いやり」が大変大きな価値となっているように思います。いやいや、欲深い年寄りは若い方の前で時々恥ずかしくなってしまう事があります。優しいですね、若い方は本当に。これが現実に根ざした優しさであればきっと世の中理想郷であるでしょうにねえ(毒)。ま、少なくとも、巷に垂れ流される流行のドラマやラブソングに、真っ先に経済効果を考えるワタクシのような不届き者よりずっと上等な人間でしょう。
 この優しさ・他人に対する心配り能力が弱い連中が、やおいの作者・読者層を形成してるような感触があります(自分も含めて)。自己中なんだけど『恋愛とセックスは別物』みたいな割り切り計算ができるほど世慣れてなくて、『愛って素晴らしい』的な恋愛至上主義を認めながらも『相手のために何かしてあげたい』って発想がなかなか出てこないタイプ。そういう「自分が一番大事」な卑怯者タイプが、人生の一大事である恋愛問題からの逃避としてやおいを選んでる。重くならないドライな恋愛を男同士の親密性に重ね、なおかつ理想の恋愛のベールを被せちゃってる…ってな感じかなあ。
 男も女も老いも若きも「自分に都合のいいセックス」を求めてるってのが真理。で、その真理に従って導かれた解答の一つが「やおい」。気色悪いと思う方も多いでしょうし、当事者として「なんでアタシこんなモン好きなんやろ」と悩んでる方も多いでしょう。でもまあ大したこっちゃないと思います。男と女の隔たりに比べりゃ、本当に大した問題じゃない。「あいつら変だ」と言う程度で済ませられる話でしょう。いや…世の中には隣の家のセックス事情がどーにも気になる、小一時間ほど問いつめたい、という方もいるらしいから、一概には言えんのでしょうけど(笑)。

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 「やおい」の深層を追求していくと、大変コワい話もあるようです。女性性の否定から拒食症に至るヒトとか、性同一性障害が根底にあるヒトなんかもいらっしゃるみたいですし。残念ながら店主の周囲にそこまでの人間がおらず、詳細は判りません。そんなご大層な事じゃないと思うんですがねえ。こうやって店主だって、まっとうに社会生活してるワケだし。たかが「読んでるエロ本の種類の話」でしょ。「バクシーシ山下のファンはインポだ」って声高に叫ばれても…って感じではあります。店主の神経がワイヤーロープだからそう思うだけで、普通の女性は己の「やおい好き」性癖が耐え難いのかも知れません。
 たぶん大多数のオンナノコ達はそれほど深く考えず、電車の中でスポーツ新聞のエロ小説眺めてるオヤジよりは慎ましく、やおいというポルノを楽しんでいる、と。まあ一般的な認識としてそのあたりまでご理解いただければ幸いかと思います。
 以上店主の独断によるやおい解説とりあえず完。お疲れ様でした。



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