CPA職務展望 IPOへの道

デューディリジェンス

 一般に新規株式公開にあたっては、引受幹事会社により会社の経営状況、財務状況について慎重かつ綿密な(引受)審査=デュー・ディリジェンスが実施され、会社の収益性、継続性等について株式公開会社として一定の基準を満たしていることを確認します。この作業は、主幹事証券会社の引受審査部と公開引受部を中心として何回にもわたるヒアリング(経営陣、取引先等)や書類審査を重ねます。法務的なDDを行う場合は、当然弁護士も使います。公認会計士(監査法人)からは過去2期(時に3期)分の監査報告書を求めます。市場によっても異なりますが、適正意見であることが最低条件となります。主幹事による監査法人に対するヒアリング、書面によるインタビューも行われます。

ヨネックス上場への路

 証券会社側でDDを行った上で、証券取引所(もしくは証券業協会)に上場申請を行います。市場によっても異なりますが、取引所内でも上場審査が行われ(直接ヒアリング、書面による質問の提示と書面による回答)、取引所内決裁を経て上場が承認されます。主幹事証券会社は、発行会社、証券取引所、監査法人、引受証券会社等、全ての関係各所の連携の要に位置すると言えるでしょう。

プレヒアリング・ブックビルディング

 上場承認後、取引所から上場を承認した旨のプレスリリース発表がなされ、いよいよ世間一般へのお披露目となります。上場承認後、発行会社による会社説明会がやっとおおっぴらに行われます(それ以前はグレーゾーン)。財務局の担当証券監察官とここはダメここはこうとやりあった末、完成した目論見書も日の目を見ます。2001年の日本マクドナルド上場時には、何十万部も印刷したようです。機関投資家対象の会社説明会やスモールミーティングが行われ、IR会社が作成したパワーポイントのスライドにそって(建前上は目論見書以外使ってはいけないことになっています)、バラ色の未来が語られます。証券会社の機関投資家セールス担当部署は、あちこちのファンドマネジャーに、その会社の想定フェアバリュー、投資意欲等を聴取し、仮条件価格を決める際の参考資料とします。
 この仮条件決定時が発行会社と証券会社の対決の舞台で、公募(売出し)価格はたいがい仮条件の上限価格で決まるので(超えることはあり得ない)、ここで価格をめぐってシビアな交渉が行われます。新規上場会社なんて、ファイナンスの言語が通じる人間もいないし、これまで非公開で何もかも自分の思い通り、お山の大将チックな経営をしてきた、マーケットのことなどまるっきりわかっちゃいない井の中の蛙オーナー経営がほとんどです。しかも自分の懐に入るゼニの話です。一悶着起こらない方が珍しい。かくして市況全体が冷え込んでいるときには、公募価格に納得できずに上場を中止する会社も出てきます(不当に低すぎる価格で公募増資を行うと既存株主価値を損ないますし)が、そのままけっきょく二度と浮上できずに消えていく会社も当然あります。

 仮条件が決定すればいよいよブックビルディングで、その新規公開株を買おうと考えている投資家が、仮条件価格のレンジ内で何円で何株投資する意向があるか、証券会社に申告します。ブックビルディング期間終了後、需要の集まり具合や申告価格を見て、最終的に公募価格が決定します。ブックビルディングの結果が思わしくなく、上場断念に追い込まれる場合もあります。
 ブックビルディングが終わり、購入権利を得た投資家が募集期間中に払込を済ませれば、上場日、晴れて新株主となるわけです。会社はパブリックカンパニーとして真の意味でのスタートを切ります。

初値

 上場日、初めてマーケットで売買が成立したときの株価が本当の意味での「初値」となります。需要と供給(と発行体との力関係)とを見極めて公募価格をいくらに設定するのかは主幹事証券のまさに肝ですが、この初値をいくらで付けさせるのかもまた隠れた主幹事の力量を示す場です。あまりおおっぴらにはしませんが、例えばこの初値が公募価格を大幅に下回リ、公募に申し込んだ投資家がいきなり含み損をどかんと抱えるような事態(IPO = It Probably Overpriced)となれば、おそらく世間の目は主幹事は発行体の言いなりになって不当に企業価値以上の価格で公募増資を許した、となるでしょうし、初値が公募価格の何倍にもなって、公募株を手に入れた投資家が初値で売って瞬間的にぼろ儲けしてしまう状態(IPO = Instant Profit Opportunity)となれば、発行体は主幹事に対し不当に企業価値を大幅に下回るディスカウント価格で公募増資させたと不信を抱くでしょう。初値形成は非常に重要です。何せ、目立ちますから。

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