12/01/30


農薬の歴史
戦前には除虫菊やタバコのニコチンで殺虫。銅や石灰硫黄などで殺菌などの農薬が使用されたということですが、とくに戦後になって化学農薬が次々登場しました。これは兵器としての毒ガスなどの製造技術によるところが多いかもしれません。

有機塩素剤
DDT、BHC、クロルピクリン、トリクロロエチレンなど。また除草剤として2,4-D、2,4,5-Tなど(2剤の混合物がベトナム戦争で枯葉剤として使われた)。神経毒性が強く、生物濃縮が起こる。猛毒ダイオキシン(TCDD)、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)が大きな問題となり、1970年代、多くが農薬としての登録を抹消された(上記のうち、DDT BHC 2,4,5-Tは登録抹消)。2,4-Dはその製造過程で、また、焼却してもダイオキシンを発生します。
有機リン剤

毒ガスで知られるサリン、ソマン、VXガス。パラチオン、マラソン、フェニトロチオンなど。毒性が強く神経伝達を阻害することで動物や昆虫を殺す。パラチオンは禁止農薬。残効性は低いとされる。(商品名:オルトラン、マラソン、スミチオン、ダイアジン、デス)
カーバメート剤

松食い虫(商品名:オンコル、ランネート)防除。野菜や果樹の殺菌など。有機リン剤に似た作用があり、アセチルコリンエステラーゼの働きを阻害し、神経の情報伝達を阻害する。残効性高。
ピレスロイド剤

除虫菊の成分とされるが、現在はすべて合成。ひろく殺虫剤として利用。毒性は比較的低いとされ、残効性低。(商品名:アーデント、トレボン、カダン、キンチョール、ベープ、アース)
ネオニコチノイド剤(クロロニコチニル剤)

物質名としてイミダクロプリド、アセタミプリド、チアクロプリド、ニテンピラム、クロチアニジン、チアメトキサム、ジノテフランの7種。とくに昆虫の神経系にはたらくとされ、有機リン剤同様にはたらく。残留性が高く、作物に浸透するため、洗浄しても薬剤を落とせない。(商品名:スタークル、ダントツ、アクタラ、モスピラン、アドマイヤー、マツグリーンなど)
その他

オキサジアゾール系(燻煙剤として)、ネライストキシン(商品名:パダン)、アミジノヒドラゾン(商品名:アリの巣コロリ)、フェニルピラゾール系(商品名:プリンス)、マクロライド系:抗生物質の抗菌剤(商品名:アファーム、コロマイト)

ネオニコチノイド剤の殺虫メカニズム
刺激などが神経細胞により伝達される際、アセチルコリンというタンパク質がはたらきます。受け取る側の神経細胞はアセチルコリンを受け取り、分解して放出。アセチルコリンは酢酸とコリンという物質に分解されるので、もうアセチルコリン受容体を刺激しません。

しかし、有機リン剤やネオニコ剤はアセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼ(AChE)という酵素と結合し、その働きを阻害してしまいます。その結果、アセチルコリンは分解されずにアセチルコリン受容体を刺激し続けてしまうことになり、影響を受けた昆虫などは興奮状態が止まらず、死に至ることになります。

ネオニコ剤は有機リン剤と比べて、少量ならば人畜に影響が無いとされていますが、敏感な体質や免疫力の低い子供などでは、重要な健康被害を受けてしまうこともあります。

ネオニコチノイド剤の特徴
比較的安全とされていたにもかかわらず、毒性、残留性、浸透性ともに高いため、使用をあやまると健康被害にもつながりかねません。

化学農薬は効き目があり、さらには安全でなければ、という方向で今日のネオニコチノイド剤ということになってきた。にもかかわらず、依然として新たな問題を起こしています。

農薬は作物にとっての病原菌や害虫を殺す目的で開発されるもの。ただし問題なのは、目標にない他の細菌や昆虫なども殺してしまう。そして私たちヒトも対象から外されているわけでありません。

化学農薬の歴史は大きく分けて有機塩素系→有機リン系→ネオニコチノイド系へと変遷してきました。より安全なものを目指してはいるのでしょうが、農薬とはつまるところ所詮は毒薬です。害虫だけに効くという都合のよい農薬などあるはずもありません。その使用により、私たちを取り巻く環境に大きな負担がかかることになります。やむをえない場合でも、使用方法、時期など、じゅうぶんに考慮すべきです。

これは化学肥料についても同じです。多量の栄養成分投入による地力の低下、それにともなう害虫の発生をカバーするために、さらなる化学物質の投入ということになってしまいます。これでは農薬・化学肥料の呪縛からぬけだすことはできません。化学物質は極力入れない努力をする必要があるのではないでしょうか。