角谷文治郎商店
すみや  ぶんじろう

日本を代表するみりんメーカー


 2001年、長年あこがれていた『角谷文治郎商店』のみりんを道長でもということになり、とうとう切り替えをしました。価格が高いということもありましたが、音羽への配達ができないというのがいちばんの理由で使えなかったのです。

 これから、配達をしていただけるということで、やっとのことで『実現』ということになりました。調味料をかえる、ということはぼくたちにとってはひとつの冒険です。良い調味料を使えばそれだけおいしくなる、というわけではないからです。このことは今まで道長で、調味料をあたらしいものにかえるたびに経験していることでもあります。
※あたらしく『角谷文治郎商店』さんのみりんを使ってみた感想:
 ・素材(原料の野菜)の風味を引き出す力が強い
 ・漬物が丸みのある味に仕上がる
 ・自己主張をすることなく、脇役に徹する調味料である
 今まで以上に良質の調味料に出会うことができ、『みりん』という存在がより身近なものに感じられるようになりました。

三代目 角谷利夫社長

角 谷 文 治 郎 商 店

 角谷文治郎商店は愛知県碧南市、衣浦海底トンネルの東側口から1Kmほど南に位置します。このあたりには、角谷さんばかりでなく、日本酒、しょうゆ(白たまりの日東醸造さんも碧南市)、酢などの醸造元が多い。その理由はこの地域が矢作川の良質な伏流水に恵まれているから。
 みりんの歴史は500年、三河地方での歴史はさかのぼること200年以上、とはいえ日本酒のそれと比べるとみじかい。というのも、もともと日本酒の酒粕を原料に焼酎ができ、みりんを造るためのもち米の醸造にそれが使われたことがみりんの発祥のカギとなっている。

 そんなみりんの歴史の中で、角谷文治郎商店の創業は明治43年と以外にあたらしい。とはいえ、日本古来の伝統技術を守りつづけ、さらに磨き上げたかたちとして今日まで進んできた経過が、押しも押されぬみりんの蔵元として知られるようになったと言えよう。

昔ながらの煙突が
そびえる
 本来、酒粕から得られる焼酎を使ってのみりん造りであるものの、角谷文治郎商店では米を原料に焼酎造りもおこなうという徹底ぶり。もちろん麹づくりも、つまりすべての醸造過程を自社でおこなっている。

 もともとみりんはリキュールのように甘くおいしい高級なお酒として開発されたようです。それと同時に料理にも使う工夫もされるようになり、その道のこだわりゆえに醸造の技術も独特に開発されたのでしょう。
米こうじを『むろ』で醗酵させる
(湿度100%、気温30℃)
米こうじのほかに、みりんの醸造に必要な米焼酎も自社製です
もち米をといでいるところ
もち米を蒸す(これだけでもち米1t)
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蒸したもち米、米こうじ、米焼酎を混ぜて
タンクに仕込む



精米機
うるち米の袋(JONA認定有機)
3ヶ月ほどタンクで醸造され、搾り出されたみりんはさらに1年以上ねかされ、製品となります

まだ仕込みたて

さらに進んだ『もろみ』の状態
 甘口のお酒として親しまれたみりんは、江戸時代には甘さを控えた『本直し』『柳かげ』として夏に冷で飲用されるようになりました。

 角谷文治郎商店では、いまやまぼろしとなった『柳かげ』の発売もしています。世に大企業によるみりん生産が幅を利かせるなか、規模は小さいながら、その品質の良さ、確かさでは他の追随をまったく許さない『角谷文治郎商店』の存在は、道長のような歴史もなく小規模な漬物店にとって、大切なのは技術であり、品質であり、いかに本物なのか、ということがもっとも大切なのだということを実感させてくれる、すばらしいお手本ということができる。

 会話のすべてに角谷文治郎商店社長、角谷利夫氏はおごりでもなく、永年培われた揺るがぬ自信と業界を牽引すべくリーダーシップさえも感じてしまうのです。
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一階が事務所、二階が研修室。まことにすばらしい木造建築


みりん造りと焼酎の不思議な関係
みりん造りになぜ焼酎が必要なのでしょう。その前になぜもち米が使われるのでしょう。もち米に含まれている澱粉の100%近くがアミロペクチン(米ではほかにアミロースを20%ほど含む)で、いろいろな旨味を持った糖に分解されます。みりん造りにもち米が使われるのは、このアミロペクチンが多く含まれているためです。

みりん造りではアルコールではなく、甘味(糖)を得たいわけです。それを麹菌にまかせると、澱粉は糖に、そして糖は酵母菌によってアルコールに分解されてしまいます。そこでアルコール度数の高い焼酎の出番ということになります。度数の高い焼酎のアルコールの力で、麹菌は滅菌されるか活動を停止してしまいます。その代わりに麹菌の作った酵素がはたらき、澱粉(アミロペクチン)を糖化する。その後、度数14%を越える焼酎のおかげでアルコール発酵は起こらないため、糖はそのまま残ります。

あとはやはり酵素のはたらきで、ゆっくり醸造熟成することで、もち米に含まれていたタンパク質がアミノ酸などの旨味成分に分解され、複雑な甘味とあいまって、芳醇な風味のみりんが完成するというわけです。

日本酒造りではアルコール発酵を低温でコントロールする必要があるため、寒仕込みをします。一方みりんの場合、アルコール度数の高い焼酎で発酵を止めてしまうため、春・秋の仕込みでも大丈夫。さらに酵素のはたらきもその季節がちょうどよい。

なんと巧みですばらしい技術なのでしょう。

連絡先:株式会社 角谷文治郎商店
〒447-0843
愛知県碧南市西浜町6丁目3番地
TEL:0566−41−0748
FAX:0566−42−3931
Eメール:sumiya@mikawamirin.com