CPA職務展望 資格を取る意味

何のための資格なんだろう

 確かに資格の一つや二つくらいは持っているのが当たり前、という時代ではあります。就職活動に臨む学生で履歴書の資格の欄が空白になっているような人は超コネか何かくらいのものでしょう。会社柄、証券アナリストくらいは持っている同僚が多いです。もちろん公認会計士、税理士、MBA(Married But Availableではありません)くらいは揃っています。CPAもたぶんいるはずです。

 資格の期待効用は、「キャリアアップ」or「スキルアップ」に集約されるでしょう(もっとも、スキルアップ無しにキャリアアップは有り得ないはずですが)。私は職を得るための手段としてCPA合格を目指しました。右往左往(謎)の末、合格しました。その後、運や口からでまかせのおかげもあって、職を得ました。そういう意味でだけは目的を達成したと言えるわけです。

資格と検定

 日頃、資格という言葉についてその意味をあまり意識することなく使っていますが、資格は本来「取得していないと業務ができない」もので、対して「能力を量る目安」は検定です。(資格と検定の違いは難易度や費用等ではありません)
 CPAは本来の意味での資格なのかどうかは評価に難しいところです。
 なお# -)'s! ||| CPA |||でも、資格と検定という言葉をあまり意識して厳密には区別していません。

資格の価値

 私自身は資格の欄には米国公認会計士試験合格、とだけ書いています。TOEICは今のスコアですと表に出せるものではない(場合によっては出しますけども)。普通自動車運転免許は18歳で取りました(ゴールド)が、自分で車を運転しなければならないような仕事は遠慮したいので書きません。他にも硬筆習字七級(謎)とか持っていたような気がしますが、もちろんそれらも書きません。

 CPA以外は書かないということは、書く意味がない、あるいは書くと損だという判断が働いているわけです。ところが車が運転できないことには話にならない職業も当然あり、そういった仕事に就こうとする人が、運転免許を持っていることを隠したりなどしません。同じ運転免許という資格でも、人によってその価値が異なるわけです。

 資格や肩書きの価値は当然個人の置かれている状況や目標などで変わります。たとえば私にとって運転免許証はID以外の意味を持っていませんし、名刺に「米国公認会計士」と名乗る必要性、欲求は今のところはありません(し、そのようなリスクは冒せない)。
 また、業界や業種によって(民間の検定を含め)資格の要求度は異なります。多くの業界には、その業種では不可欠な(あるいは非常に有用な)資格が存在します。もっともそのような資格は、その業界外では何の意味も持たないことも多いです。

Cost vs. Benefit

 資格の価値について考える上で、費用対効果については、誰もが常に考えに入れていると思います。金銭的な費用だけでなく時間的な費用も当然あります。一般化すると、金銭的な費用に困らない人ほど時間的な費用の捻出が難しい傾向があります。それなりに収入を得られている人の多くはその代わりに仕事が忙しく、時間をなかなか作れない。逆に無職であれば自由な時間はかなりあるでしょうが、金銭的な余裕はない。トレード・オフです。

就職のススメ

 資格取得を目指すと、金銭と時間の両方のコストを費やす結果になります。使ったコスト以上に成果を得られる(見込みがある)かどうか、考える必要はあります。得られるものと費やすものを正確に測ることが重要なのでしょう。

 さて、あなたにとってCPAはpayしそうですか。あるいは、payさせていますか。
 キャリアアップ、スキルアップを目的に(資格の)勉強をする、すなわち自己投資をするのであれば、それは余暇ではなく、リターンを得なければならないのです。なぜCPAを受験するのか、合格後何に活かすのか、常に答を用意できているでしょうか。資格を取るために費やしたコストを無駄にしないためにも、取得したことと取得しなかったことで違いが出るようにしないといけない。
 時間や金銭といった貴重なリソースを投資する以上、当然に十分な情報収集は行って然るべきです。情報収集の不足、取捨選択のミスによって損をしたとしても、投資結果に責任を負うのは自分です。株式や債券への投資であれば、最悪でも投資した全てを失ってしまうだけで済みますが、キャリアパスを踏み外すことは、投入したリソース以上に損失が大きくなるかもしれません。

 仮にそれが投資でないのなら、リターンを考慮する必要は特にありません。通常、趣味に興じる際に金銭的な見返りを期待することはあまりないはずです。

仕事の報酬

 資格の価値を費用対効果の観点から考える上で、収入アップという効用を期待し、資格取得を目指す方もいらっしゃるかと思います。出処はわからないのですが、資格を取得することで5〜50%の所得向上効果がある、という話を目にしたことがあります。
 仕事をしたことへの対価が報酬ですが、日本の労働市場においては(も)、創出した付加価値(パフォーマンス)の大小とその対価である報酬の多寡について正の相関関係はありません。マスコミ、上位総合商社は今でも高給の代名詞のように言われますが(以前、IPOを仕事にしていたころ、2001年に上場した電通や2000年に上場したテレビ朝日の目論見書を読んで半分呆れたものです)、所属している組織がどこであるかが、報酬の多寡に大きく影響していると言えます。報酬と仕事の社会的価値、難易度、ハードさは必ずしも比例しないのです。(CPAの年収はいくらか、といった類の質問がいかにバカげているか)

 したがって、もし仮に資格を取得し、その資格によって新たな付加価値を生み出したとしても、それが報酬アップには繋がりにくい構造が日本の労働市場においてはあらかじめビルトインされていると考えられます。
 資格を取得し、キャリアアップやスキルアップとともに、収入アップも狙うなら、方法は二つあり、一つは、創出した付加価値と報酬とをリンクさせる給与体系を採っている組織へ移動することです。もちろん、資格取得によって創出する付加価値の質量がアップするのが前提です。一般的に報酬アップを目指す方法はもう一つあり、それは報酬水準のテーブルがより高い組織に移動することです。
 資格を活用して副業的な第二(第三)の収入源を持つという考え方もあります。
 また、難関国家資格には独立というオプションの可能性を拡げてくれる役割は期待できると思います。もっともそれと報酬の多寡はやはり無関係でしょうが。

実務と資格

 試験で優秀な成績を収めた者に資格を付与します、というのが制度としての資格を考える上で原点でしょうが、実務はペーパー試験のようには行かないのが通常です。これは制度の差異(たとえば、日米の公認会計士資格の比較)以前の問題として存在します。
 多くの資格は時代の流れに応じて常に新たな知識や情報を身につける必要があります。あるいは、往々にして実務を続けていないと身につかない、またその実務から離れると忘れてしまうようなスキルを試すものであったりします。
 すなわち、実務無しのままでは、せっかく取得した資格も片手落ちです。資格を取っても実務をやってなければ実務家と勝負にならないのです。

就転職と資格

 何度でも強調しますが転職において重要視されるものは資格でなくキャリアです。「転職するためにどんな資格を取ったらいいか」、などと問われても答えようがありません。というより、このようなあいまいな質問を発する人にとって転職とは「現状のイヤな環境から脱出すること」であって、「自らのやりたい、より高い報酬を得られる舞台へ移動すること」ではありません。

 実際に求人広告などを見れば容易にわかりますが、資格必須の求人はほとんどないです。資格が必須となるのは個人や会社の業務遂行上、形としての資格そのものを必要とする場合です。例えば、証券業界における外務員資格(言われてみればワタシは一種外務員も持っています)や不動産業界における宅建資格などが挙げられるでしょう。先ほど述べた「資格と検定」で言えば、厳密に前者に該当するものです。資格でない検定は、当該業務に求められる職務キャリアに付随する知識の目安を測るという位置付けになり、あれば尚可、くらいの扱いがされていることがほとんどのはずです。
 つまり、「本来の意味での資格」がないと就けない仕事以外については、あくまでキャリアが主で、資格は従の関係になります。無資格でも経理キャリアを持っている方と、未経験で簿記1級を取得している方とでは、こと経理業務に関する限りは一般的に前者が有利となるわけです。
 もちろん言うまでもありませんが、実際は知識や資格だけでなく、リーダーシップやコミュニケーション能力も含めた「仕事を前へ動かす力」が重要です。

 資格試験や検定の難易度が高かろう低かろうが、職務キャリアに即したものでなければ、その見返りは投入コストと見合わないものになる可能性は高いです。資格試験というものは、難易度と期待リターンに正の相関関係が存在しないと言ってもいいと思います。現職にある方にとって、試験のための勉強は労が多く、様々なコストを負わなければなりません。ましてや、資格取得の目的が転職することだとすれば、(取得した資格そのものがそれだけではあまり有効ではないかも知れないことも含んで)それを生かせる保証はありません。
 資格や検定の勉強についてネガティヴな見解を述べようというわけではありません。ただ、キャリアアップ、スキルアップを目的に試験勉強をするのであれば、勉強自体もキャリアプランの一貫です。慎重に注意深く検討されるべきものだと思います。
 もっとも資格取得は、勉強という努力の結果を形ある成果として残すことでもあります。形として残っていない努力よりは、形あるもののほうが他者に認知されやすいはずです。資格を取得する、試験に合格するということは、即ち試験に合格するという一プロジェクトを完遂させる能力を有することを証明するものに他なりません。

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